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10 異世界転生したら島で暮らすことになったんだが

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四百二十七話 温泉トラブルで正式雇用様

「ご利用ありがとうございました、本日の温泉施設終了の時刻となります」



 夜二十二時、宿ジゼリィ=アゼリィの温泉施設に行き営業終了のアナウンスを言う。



「おぅ、オレンジの兄ちゃんこれから掃除か? 頑張れよ、がっはは」

「兄ちゃん二代目若旦那なんだろ? こういうのはバイトに任せたらどうよ」


 温泉に入っていたモヒカンだのドレットヘアーだの、どこの世紀末漫画から飛び出して来たんだ、という筋肉の塊みたいな冒険者が笑いながら俺に声をかけてくる。


 基本はアルバイトさん数人がシフト制で掃除をやっているのだが、今日は俺がやる。掃除後にこの広い温泉施設に一人で入って満喫してやろうかと思ってな。


 あと俺はまだ二代目ではない。



 お客さんが全員出た後、丁寧に掃除を済ませ俺は服を脱ぎ湯船へ浸かる。


「バラの湯、最高だぜ」


 今日はバラの花を湯船にたっぷりと浮かべるバラの湯の日。他にオレンジを浮かべたりハーブを入れる日もあるのだが、男女共にこのバラの湯の日が一番評判が良い。


 温泉施設には屋根の無い露天風呂部分もあり、今日は雲もかかっていないので最高の星空を満喫しつつバラの香りを楽しめるんだ。


 上がるときにバラを片付けて、掃除完了だな。



「隊長ーそちらはどうですかー? 女湯はもう掃除終わりましたが」


 壁の向こう、女湯の担当だった正社員五人娘の一人、セレサの元気な声が聞こえてきた。


「あーこっちも終わった。誰もいないお風呂を満喫してから上がるわ。二人は先に上がっていいぞ」


「なるほど、だから二人以上でやるところを一人でやると言ったのですか」


 俺の返答に壁の向こうの正社員五人娘のもう一人、オリーブが頷いているようだ。



「あー最高。広いお風呂を独り占めだぜ」


 この温泉施設はだいぶ前増築で作ったもので、それ以前は街に数件しかない温泉施設まで歩いて行っていたからなぁ。毎日結構大変だった。


 作ったとき、お風呂好きなロゼリィがこれで毎日好きな時間にお風呂入り放題です、と大喜びしていたのが懐かしい。


 ちなみに従業員さんであればこの温泉施設を無料で利用出来るぞ。アルバイトさんはいつでも募集しているので、紳士諸君も異世界に来訪した際はジゼリィ=アゼリィに来てみてはどうだろうか。



「ここの温泉施設は最高なのです」

「うんうん、隊長が頑張って作ってくれただけはあるよね」


 お、なんだ向こうも掃除後にお風呂入ってんのか。すごいじゃないか、これはもう壁を隔てた混浴だな、うん。二人のかわいらしい声を聞きつつ星空でも楽しむか。


「はぅ、久しぶりの隊長の背中なのです、素敵なのです」

「う、うん。おっきいよね」


 俺の背中? 何言ってんだ、あの二人。


「触ってみるのです……」

「う、うん……」


 やけに近い距離から二人の声が聞こえるが、温泉施設の中って変に声が反響して距離感分からなくなることあるからな。


 つつー


「うぴゃああああ!」


「うわわっ、ここまで本当に気が付かれていなかったみたいなのです」

「失敗したなぁ、これならいきなり抱きつけばよかった」


 いきなり背後から肩を二本の指でなぞられ、俺狂気の遠吠え。な、なんだ?


 マジで驚いた顔で俺が後ろを振り返ると、肌面積九割を超える美しい女体様が二つ。とても豊かなお胸様とお尻様をお持ちのセレサとオリーブが、申し訳程度にタオルで体を隠し俺の真後ろにいた。


「もがっ……! な、ななななんでお前ら真っ裸で男湯にいんだよ! セ、セクハラぁぁ!」


 俺がか弱い乙女のように恥じらい体をくねらせていると、二人がそのままお湯に浸かり左右から体を密着させ挟み込んできた。


「なんでと言われましても、掃除が終わったので汗を流そうとお風呂に入りに来ただけなのです」


「そうそう。営業時間外なんだし、どっちの温泉に入ろうが従業員特権ってやつですよ、隊長。あ、お風呂にタオル入れるのはマナー違反ですので、取っちゃいます!」


 突然視界が女体様で埋め尽くされ状況の処理が追いつかず目を白黒させていたら、セレサが俺の最後の砦、股間隠しタオルを無慈悲に剥ぎ取る。おいぃぃ!


「うわぁ……うわぁ……」


「はぅ久しぶりなのです……すごいのです……」


 二人が上空に広がる幻想的で美しい星空に目もくれず、下を向いて俺の俺を凝視。く、くそ……二人共俺が年下だと思って遊びやがって……や、やってやる、俺だってやるときはやるんだぞ!


「じゃ、じじじじじゃあ二人のタオルも剥がしてやる、マ、マナーなんだろ!」


「はい、どうぞなのです」

「優しくしてくださいね、隊長」


 俺が興奮と緊張でガッタガタ震えながら両手を構えるが、二人は臆することもなく大きなお胸様を俺に向けてくる。


 ああああああ……あああ……無理、俺には無理……女性を力尽くで裸に剥くとか俺には出来ん。期待してくれていた紳士諸君、すまねぇ。


 俺は力無く湯船に沈み込む。



「……もぅ、隊長は優しすぎます。こういうときは勢いで行動しないと、いつまでたっても童貞さんですよ。ではお姉さんが優しく手ほどきをして……うひゃん!」


「なのです。ここで私達二人を同時に襲うぐらいしないと、隊長は一生童貞……ふやぁぁ!」


 二人のよく分からない説教が始まったが、急に二人が悲鳴を上げ体をビクンと震わせる。な、なんだ? どさくさで俺が二人に触ったわけではないぞ。


「つ、冷たーい! た、隊長助けて下さいー!」

「うわうわ! つ、冷たい水が流れ込んできたのです! た、隊長寒いのです!」


 二人が体を震わせ俺を左右から挟むように抱きついてくる。ごはぁ、これアカンって……。


「マジで冷たい水だ……」


 色んな柔らかい感触を楽しみつつ震える二人を支えていると、確かに温泉に冷たい水が入り込んできているようだ。なんだ、これ?


 どうもボイラーで沸かされたお湯が湯船に注がれる部分から水が出ている。本来お湯が注がれるはずなんだが……。


「故障か?」


 厳密に言うとこの宿の温泉は川の湧水を引き込んで魔晶石ボイラーで温めているので銭湯ということになる。だがこの異世界ではあまりそのへんの境目がなく、一律で温泉と呼んでいる。


 まぁお金持ち以外、基本家にお風呂は付いていない世界なので、温泉施設があるだけでありがたいってことで呼び分けとかは気にしていない感じ。



「た、隊長ーどうですか……」

「機械は苦手なのです……」


 セレサとオリーブが不安そうに見守る中、俺はボイラー室へ。


 俺だってボイラーのことなんて一切分からないぞ。ましてやこの世界の機械は電気ではなく、魔晶石をエネルギーに動いているので余計に仕組みが分からない。


 あとセレサがタオル返してくれないから俺丸出し君なんだが。


「いや、さすがに分からんなぁ。これは明日業者さん呼ぶしかないか」


 この温泉施設を作ってくれたのは、宿のオーナーであられるローエンさんのお知り合いのおっちゃん。明日朝一でそこに駆け込まないと。


 ボイラー室の機械を見るが、素人が見たところで直るわけでもなし。どこかから煙が出ているわけでもないし、魔晶石はしっかり入っているし、燃料切れでもなさそうだし……もうお手上げだ。



「にゃ、にゃひぃぃぃい!! 冷たーーー! んだよこれ、営業時間外でもお湯張ってるって聞いたのに! ボイラーいってんのか?」


 突如女湯のほうから悲鳴が聞こえ、ズカズカと乱暴な足音が近付いてくる。


「よっと……あれキングじゃん。ってンだよ、裸の女二人連れ込んで狭いボイラー室で楽しいことヤってたのかぁ? アタシも混ぜろよ、キングの準備は万端みてぇだし。にゃっはは!」


 女湯側からボイラー室に入ってきたのはヤンキー王女、クロ。


 タオルも何も巻かず、どこを隠すわけでもなく堂々と裸で豪快に笑う。


「ち、ちげぇって! 掃除の後にお風呂入ってたら急に水が出てきたからボイラー室の様子見に来ただけだっての」


「そ、そうなんです! 隊長とはここで合流しただけで、別に何も……!」

「な、なのです! 押しに弱い隊長を攻めてこれからしようとは思っていましたが、まだ何もしていないのです!」


 それぞれに言い訳を言うが、最後のセリフを言ったオリーブさんは黙ってくれないですかね。


「にゃっはは、まぁいいけどよぉ、一応アタシはジゼリィ=アゼリィに雇われてる身だからロゼリィを応援しなきゃならねぇが……見つかんなきゃいいんだよ。ってわけだから、これからみんなでこっそり楽しも……」


「聞こえていますよ、クロ」


 ──ああ神よ、どうして俺にばかり試練を与えるのか。俺は何もしていない、何もしていないんだ。


「セレサ、オリーブ、お掃除ご苦労さま。すぐに服を着て下さい」


「は、はいっ!」

「な、なのです!」


 振り返りたくない。背後からものすごい黒いオーラが見える……が、俺は過去は振り返らず前へ進むんだ。


 セレサとオリーブがビュンと風を切って脱衣所へ逃げていった。俺も出来たら逃げたい。過去とかではなく、現在背後にいるロゼリィという鬼の化身から。



「いいですか、あなたにはすぐ近くに手を出すべき女性がいるのです。なぜそこには手を出さず、遠くにいる女性ばかりにちょっかいを出すのでしょうか。いつも私は待って……」


 狭いボイラー室で裸で正座。鬼の角が縮むのを待つ。


「あっはは~おっもしろいことなってんな~。ソルートンに帰ってきた途端これだしな~社長ってば押しに弱すぎ~あっはは~」


「えぇと、ああ分かったぜ。これ魔晶石から熱を伝える熱板が外れかけてんだ。これはめるだけで直んぞ」


「……マスター、これ美味しそう……」


 騒ぎに駆けつけた水着魔女ラビコが爆笑しながら持ち込んだ酒で晩酌。


 クロが裸のままボイラーを点検補修。そしてバニー娘アプティがボイラーにはまっている魔晶石を見てヨダレを垂らしている。


 なんというか、みんなマイペースだよな……。あとロゼリィごめん、俺が悪かったから早く角引っ込めて……。



 その後、魔晶石アイテムに詳しいクロは宿ジゼリィ=アゼリィの魔晶石アイテム技術者として正式に雇われましたとさ。







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