四百二十四話 結局トラブル娘クロと俺の部屋を俺色に様
「んじゃあ改めてよろしくな! アタシはクロ。もうなんでもやるぜぇ、なにせ金がねぇからな! にゃっははは!」
王都から帰ってきた翌日、朝食を終えた俺達は宿の事務所へ。
昨日の夜はおかえり宴会でまともに説明が出来なかったので、今日改めてこの宿のオーナー夫妻であるローエンさん、ジゼリィさんにクロをご紹介。
ああ、ちゃんとクロに服を着せたぞ。マジで下着一丁で宿内ウロつこうとしてたからな。
「うん、いや……さすがに知っていますよ。数度セレスティアでお見かけしましたしね。クロックリム=セレスティアさん」
ローエンさんがちょっと困り顔でクロを見る。
おや、さすがに元勇者パーティーメンバーのローエンさん。セレスティアの王族であるクロと初対面ではないのか。
「おお、すっげぇな。マジでルナリアの勇者のパーティーメンバー、ローエン=アゼリィにジゼリィ=アゼリィじゃねぇか。ほんと、キングって謎の交友力だよな、にゃっはは」
クロがゲラゲラ笑うが、さすがのジゼリィさんもどう扱っていいのか悩んでいる感じ。
軽くクロが俺達の仲間になった経緯と、王都でのサーズ姫様への相談の結果も二人には話した。
「クロって気軽に呼んでくれよな。こちとら家出してきたわけだから、セレスティアの王族どうのはすっ飛ばして考えてくれ。つかさ、アタシ本当に金無ぇから臨時社員での雇用マジで頼むぜ」
クロが自重で曲がるレベルの薄い財布、丈夫な布を二枚合わせて手縫いしたらしいペラッペラの物をひらひらさせている。
「うちの大事な跡取りであるこいつの頼みもあるし、セレスティアには当時お世話になったからそれはいいけど……王族様に変わりないし、こんな宿にセレスティア様を泊めていいものか……」
ジゼリィさんが歯切れ悪い感じだが、クロは普通に野宿が基本だったみたいっすよ。
「いやまぁ今もそうだけどよ、今後もずっとキングの側にいるわけだからかたっ苦しいのはなしにしようぜ。それにアタシはもうキングに女にされたわけだし、こいつの女扱いで頼むぜ、にゃっはは!」
あああああああ、言ったよ……そのワード。それ、ジゼリィさんの前では絶対に言っちゃいけないやつだっての。
「ラビコぉ! これは一体どういうことだい!? うちのロゼリィ差し置いて……このクロなんとかってのはなんなんだい!?」
「はぁ~? 別に何もないっての~。大体社長は私の男なわけだし~アゼリィ一家には何の関係も無ければ心配もする必要ないだろ~?」
クロの発言にジゼリィさんがガチギレ。なぜか矛先がラビコに向くが、ラビコは普通に一歩も引かずドスを効かせて睨み返す。
すげぇ……さすがラビコだ、俺には絶対にキレたジゼリィさんを直視出来ねぇ……。
キレたジゼリィさんの怖さを心底知っている夫ローエンさんと娘ロゼリィの二人の足がガクブル、顔面蒼白。
「にゃっはは! おっもしれぇ、ああ面白れぇなあ……にゃっはははは! キングの側にいたら毎日腹抱えて爆笑出来んのかよ!」
トラブルワード発言者であり、ラビコに続き俺の平和を壊す双璧となった罪人クロックリム=セレスティアさんが他人事のように大爆笑。
どうすんだよ、これ。
とりあえず報告と紹介は済んだし、俺はこそこそと格好良く逃げるからな。
「ふぅ……」
無事逃亡し、宿二階の増築された部分に作った俺の部屋に到着。
ベッドに寝っ転がり部屋を見渡す。
「久しぶりだなぁ、俺の部屋」
デゼルケーノに王都滞在と、結構ソルートンから離れていたので我が部屋の匂いが懐かしい。特に目立った家具も何も無いが、壁の飾り棚にあるエロ本様に手を合わせ祈ると帰ってきたと感じる。
そういや結局二冊目のエロ本は手に入ってないなぁ。どっか川べりにでも落ちてねーかな。
「さて……」
俺はすっと立ち上がり、窓から見える宿入り口に作った足湯を確認。
増築の際、新たに作った施設でなんと無料で利用出来る。どなたでもご自由に使っていってくれ。出来たら流れで宿に入ってご飯でもどうぞ、と。
「かわいいー!」
「ベスちゃん久しぶりだねー」
足湯利用者の女性達が我が愛犬の可愛さにやられている。ふふ、当たり前か。ベスは世界で一番かわいい犬だからな。
部屋に上がってくる前に、我が愛犬を足湯に放ってきた。
ベスはお風呂好きだからな。これで三十分は戻ってこないだろう。
「鍵、よし」
部屋のドアの鍵を確認。しっかり閉まっている。
さっきアプティを一階食堂のいつもの席に座らせ普段飲んでいるのではなく、ポットで二十五Gもするお高いほう、ミンダリノワールという紅茶ポットを三個注文。
さらに宿の神の料理人イケボ兄さんご自慢のアップルパイをこれまた三枚頼み、テーブルに並べてきた。
アプティが無表情ながらにぴょんぴょん嬉しそうに跳ね、俺に食べていいの? と視線を送ってきたが、俺が笑顔で頭を撫でゆっくり食ってていいぞと言い二階に上がってきた。
まぁ、アプティに鍵は無意味なのだが、心の保険でかけておきたい。
時間稼ぎ、完了。
「無事ソルートンに帰ってきたことだし、この部屋の神、エロ本様にご報告も兼ねて一人で感謝祭でも……」
昨日の夜は宴会とさすがの疲労ですぐ寝てしまったからな、俺の部屋に帰ってきたことを満喫するマイ感謝祭はまだやっていないんだ。
ベスとアプティは三十分は帰ってこない。昼間だろうが関係ない、この短い時間で俺は羽ばたくっ……!
ざっと慣れた感じでジャージのズボンを降ろし……ってすまんが紳士諸君も目を閉じていてくれよ。
行くか、いざワンダフルワールド!
ガチャガチャ
「よっと、事務所に置いてあった合鍵借りたぜ。おーここかぁキングの部屋は。なんだよ広いなぁ、金に物言わせて作ったってやつかぁ? にゃっははは……あれ?」
は?
いきなり鍵が解除され、下着一枚姿の女性がダッシュで俺のワールドへ無断IN。脱ぎたてホヤホヤ、下半身裸の俺とクロがご対面。
「にゃはー! こりゃあすまねぇ、一人でお楽しむところだったのかぁ。でもまぁキングのはどうやってするのか興味あんな。いいぜ、続けてくれ。一部始終黙って見てっからよ、にゃっははは! さぁ!」
「で、出来るかぁああああ!」
クロがベッドの前で体育座りをして、じーっと俺の下半身を凝視。
俺、半泣きでベッドに潜り込む。しかし……下着一枚のクロ、か。際どいところまで見える太ももとかお尻とか最高だな。チラチラじっくり網膜に焼き付くほど見ておこう。
つか入って来るとき、クロが気になること言ってたよな。
事務所にあった合鍵借りてきたって。え、それって俺の部屋の合鍵が宿の事務所に普通に置いてあるってこと?
おかしくねーか、ここ俺の部屋だぞ。言いたかないが、結構な大金払って手に入れたプライベートルームだぞ。
いや待て、そういやロゼリィにラビコにアンリーナが合鍵持ってたな。俺が知っている鍵の存在はその三本のはず。事務所のはマジ知らんぞ。
後で正社員五人娘のセレサに聞いてみたところ、ロゼリィの部屋にあった鍵を元にオーナーであるローエンさんの許可を得て合鍵を作ったとか。
発案者はセレサとオリーブで、俺がいないあいだ部屋の掃除を買って出てくれたそう。
そういや数週間部屋を放置していたのにホコリ一つなく、ベッドのシーツも新品同様だったな。
うん、ありがとう。それは全力でありがとうなんだが、引き換えに宿の事務所に入れる人なら誰でも俺の部屋入り放題じゃねーか。




