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四百二十話 続恐怖の温泉 2 俺の罪状と上司クマ部下クマ様


──罪状──


 ・待っていたのに順番が回ってくる気配が無かった罪




「ふぅっ! ふぅっ!! はは、ははははは!」(前クマ)


 二十一時過ぎ、静まり返ったペルセフォス城一階。


 俺は二匹のピンクのクマさんに襲われ、絶体絶命のピンチに陥っていた。


「こふー! こふーっ! こふふふ!」 (後クマ)


 

 正面の大興奮したピンクのクマさんに一枚の紙を押し付けられたが、書かれていた内容は罪状とかいう重い物で、俺の罪らしい一行のみ書かれた簡素な物。


 誰が何の順番を待っていたんだよ、これ。意味がさっぱり分からんぞ。



 新顔と思われる後ろのピンクのクマさん。どうもこの正面のピンクのクマさんの部下っぽい動き。


 後ろから俺を羽交い締めにしてきているのだが、やけにモゴモゴ動き俺の股間辺りを触ろうとしてくる。や、やめて……。


 逃れようと強引に抵抗するも、即座に俺の力を逃すような柔の動きで流されさらに拘束される。


 ベテラン柔道家の寝技でも喰らっているような気分だぜ。



「ふぅううっっ……はは、はははははは!」


 正面のピンクのクマさんが、どこから持ち出したかしらんが敷布団を床に力任せに叩きつける。興奮して体がブルブル震えているが大丈夫か、こいつ。


 吐息がクマさんの口から漏れ、蒸気のようになっているが……まさかこいつ蒸気モンスター……なわけないか。背中にバッチリ開く部分あってボタン止めしてあるし。


 中身……いるんだよな? 


 いないならマジで恐怖だぞ。こういう生き物がペルセフォス城で誰にも知られず自然増殖しているってことになる。


 すぐにサーズ姫様に報告しなければ……う、なんかこのピンクのクマさんの生態系のことを考え出すと頭が痛くなる……思い出しちゃいけないような……ぐうう……。


「うわっ……!」


 ちょっとした頭痛で体の力を緩めた瞬間、後ろの部下ピンククマさんが俺の体をそれこそ柔道のような技で敷布団に転ばせる。


「いっつ……ってムッハァ!!」


 部下クマさんが倒れた俺の顔の上にまたがり体重をかけてきた。うう、女性のフェロモンっぽい香り……。


「え、あ……ちょ! なんで俺のズボン脱がしてんだよ! おい……ヤメロ!」


 上司クマさんがすぐに寝転がった俺のズボンに手をかけ、あっという間に下半身にいらっしゃる俺の俺がこんにちは、いや時間的にこんばんは。


 パンツごと一気かよ……つかこれマズイぞ、どうにか逃げてラビコを……。


「ははははははははははははは……! ふぅっっ……! ふぅっ……!!」


 上司クマさんが狂ったように笑いだし、俺の俺部分を見てさらに大興奮で吼える。


 おかしいって……これだけの騒ぎなのになんで騎士の一人も来ないんだよ。そういや前回は隠密騎士アーリーガルが助けに来てくれたような。でもピンククマさんに舌戦で負け、さらに腹にソバット喰らって白目剥いて落ちてたっけ。


 ようするにペルセフォスで一番という隠密のアーリーガルを簡単に倒せるクラスの体術使いが二匹いるってこと、か。


 もはや絶望──……



「なんの騒ぎか! なんだこの規制線は!」


「あ、いえ、その……そういう命令が……」


 と思ったその瞬間、俺が降りてきた階段のほうから揉めている声が聞こえ出した。



「! まさか……ええいどけ! 悪い予感がする……!」


 この声……来たぞ勇者アーリーガル様が。さすが王子ヅラ、異世界の勇者といえばやっぱお前みたいな容姿の奴が相応しい……!


「リ、リーガル……助け……て……」



「……こ、これは……悪化、している……」


 部下ピンククマさんにまたがれ下半身をあらわにされ涙目で助けを求める俺と、それを見て大興奮状態の上司クマさんを見て呆れ、リーガルが深く溜息をついた。


「お二人とも、お戯れはそこまでにしてください。彼が心底怯えています」


 リーガルが決意の顔でキッと言葉を吐く。おお、格好いいぞリーガル! まるで勇者だ!


「……ふぅっ……ふぅ……はは、何をしに来たアーリーガル=パフォーマ。今はこの重罪人を私的に性的に裁こうとしているだけだ」


 やっぱ喋れるんだ、このクマさん。言葉が通じない獣なら絶望しかなかったぞ。


 ……着ぐるみのせいでこもった声で聞き取りにくいが、どっかで聞いた口調のような。そして俺、重罪人にパワーアップしてねーか。


「し、私的に性的に……いえ、もうそこは細かく問いません。こうやってプライベートでお楽しみになるのは構いませんが、もう少し自分のお立場を考えてノーマルな感じで目立たないように……」


「ふはは……! ははははは……! では聞こうアーリーガル=パフォーマ。ノーマルとはなんだ。十人いれば十通りの行為があり、それぞれに納得し満足するポイントも違う。それをノーマルなどという便利な言葉でまとめるとは笑止……! 皆が皆、同じ思いではない。それを全員同じなどと簡単に言い括るようでは人の上に立つ器ではない!」


 リーガルが興奮したピンクのクマさんに諭すように語りかけるが、クマさん猛反発。


 夜の営み的な話が上手に人の器の話にすり替わった気がするが……。


「は、はいっ! 申し訳ありません! じ、自分が浅学でした……」


 お、おい……いきなり言い負けんなよリーガル! ただの論点すり替えじゃねーか!



「ふむ……だが一応そのノーマルとやらをみせてみろ。他人の行為など見たことがないのでな、興味ある」


「こふっ!?」


 頭を下げるリーガルを見て、上司クマさんが態度を軟化。これは話の分かる上司ですわ。


 だが軟化の方向がおかしいような。俺の顔の上にまたがっている部下クマさんがマジで驚きの声を漏らしたぞ。




「こ、こう……でしょうか……多分、その……私も本でしか知識がないもので……」


 辿々しい動きでリーガルが俺の足を広げてくる。おいやめろリーガル! 俺にはそういう趣味はねぇんだよ!


 つかイケメン王子フェイスのリーガルも童貞か……夢がねぇな……。



 謎のピンクのクマさん二匹に襲われ、現在言いくるめられた男リーガルに足を広げられている状況なのだが、襲われるのは着ぐるみクマさんか男かみたいな選びたくねぇ二択になっている。


 誰かタスケテ──





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