四百四話 ペルセフォス騎士養成学校に通おう! 1 高レベル学校と先輩の妄想様
「行ってくる」
「は~い、ぷぷ……いってら~あっはは~」
翌朝八時。
俺はビシっと制服を着込み、鏡に映る我が姿を見る。
白を基調としたデザインに、ペルセフォス王国のイメージカラーであるペルセフォスブルーのラインが入った制服。簡単に言うと、日本の学ランを白くしてオシャレにした感じだろうか。
元日本の高校生としては、着ていてなんの違和感もない。むしろ懐かしい感じ。
制服はレンタルという形で用意してもらった。
「き、気を付けてくださいね。忘れ物はないですか? その、なんと言いますか、不思議とすごく似合っていますよ」
ロゼリィが我が子を送り出すように心配してくるが、その姿がとてもかわいい。俺の制服姿を見てニヤニヤし、何か企んでいるかのように笑うラビコとは比べ物にならん。
「ありがとう、大丈夫だよ。俺、元学生だし制服は着慣れて……ってなんでもない。学校に行っているあいだ、ベスを頼むよロゼリィ」
さすがに騎士養成学校に愛犬は連れていけないしな。
昨日、研究所前でラビコとクロに魔法の指南を受けたのだが、二人に立場を利用して遊ばれて終わりとなった。
ラビコ先生曰く、だってどうせ社長は魔法が使えないから試験も受からないし~なら遊んでもいいじゃない、だと。
俺は真面目に魔法が使いたいんだと揉めていると、そこにサーズ姫様が登場。本当にやる気があるのならペルセフォスが誇る施設、騎士養成学校に通わないか、と誘われた。
俺はふざけた講師陣を速攻で見限り、サーズ姫様の提案に飛びついた。
すぐにサーズ姫様が手続きをしてくれ、今日から通える状況を整えてくれたが……本来こういうことは異例で、サーズ姫様だから出来た権力とコネを使っての無理矢理な超短期入学だそう。
ラビコから聞いたが、ペルセフォス騎士養成学校は世界でトップの難度を誇る入学試験があり、倍率が高く、入学するだけでも奇跡レベルだそうだ。
学費は高いが、ペルセフォスの騎士は世界的にみても待遇が良く、ペルセフォスの騎士にさえなれれば一生お金には困らないと言われていて、世界中から騎士を目指し若者が集まるんだと。
高難度試験を突破した騎士のレベルは高く、中でも世界で唯一と言われる空飛ぶ搭乗型魔法アイテム「飛車輪」を操る部隊、サーズ姫様率いるブランネルジュ隊が大人気だからなぁ。
飛車輪、あれはマジで便利。一度乗れば分かる。俺も欲しい……。
今回の俺は無理矢理の入学ではあるが、外向けには「王族が認めた人物のみ可能な、一芸に長けた人材確保の為の実験的短期体験入学」ということになっているそうだ。
まだ一回も王都に来ていない頃ラビコが言っていたが、王都の学校は可能性のある人を育てる場所じゃなくて、もうすでに才能のある人を伸ばすところであるというスタンスらしい。
だが最近それを変え、可能性のありそうな人材の確保も別枠で取る方向で調整が進んでいるとか。
サーズ姫様としては、その一芸入学枠の実験に俺が丁度いいってことだそうだ。
まぁ体よく使われた形ではあるが、俺は五日後に控えている転職試験の為に早急に魔法を使えるようになりたいし、サーズ姫様としては、一芸枠の学生のデータが取れてお互い笑顔ってことか。
ほんと、うまいこと考えるものだ。頭の回転の速さではラビコ、アンリーナ、サーズ姫様には一生敵わなそうだぜ。
ペルセフォス騎士学校に一芸入学を考えている諸君、俺がいい道筋作ってやっから期待して見ていてくれよな。
「おぅ学校かぁ。しかしキングよぉ、ペルセフォスの騎士養成学校ってすんげぇ入学試験難しくて学費も結構ハードとか聞いたけどなぁ。そこに短期の五日間とはいえ無試験・タダで入れるってすっげぇことなんじゃねーの、ニャッハハ」
隣国・セレスティア王族のクロでもすごいとこ、ってイメージなのか。
サーズ姫様のはからいで、学校の費用はいらないと言われた。今後の為の実験的入学なので、データさえ取れればいいんだと。
「なんかすごいレベル高いところみたいだな……ちょっとビビってきたけど、俺は夢だった魔法使いなる為に頑張るぜ!」
「……マスター、敵は多数ですが未成熟な戦力です……私の一蹴りで二桁単位は潰せますので、危険を察知しましたらすぐに私をお呼びください……」
気合を入れて行こうとしたら、バニー娘アプティが無表情に学生生活のアドバイスをくれた。
「……アプティ、学校にいる人は敵じゃないぞ。五日間限定ではあるが俺の学友達、だ」
一応アプティに釘を差し、皆に見送られながら、俺は一人お城から歩き騎士学校へと向かう。
ラビコが終始ニヤニヤしていたのが気にはなるが、まあいい。
「あ、せんせーい! お待ちしていましたー! 玄関はこっちですよー!」
お城を囲う七枚城壁の間の道をぐるぐる歩き、一番街側にある城壁に着くと前方から元気な声が。
なんか人だかりが出来ているなと思ったら、その中心から一人の女性が真っ直ぐ飛び出してきて俺にタックルをかましてきた。相変わらず直線加速は半端ねぇ……。
「ハ、ハイラ……お、おはよう」
「はいっ! 学校の門で待っていたのですが、後輩達にサインが欲しいと囲まれてしまって……あはは」
痛みに耐え、俺のレンタルの制服に顔をこすりつけているハイラの頭を撫でる。
まぁハイラはこの騎士学校卒業してサーズ姫様率いるブランネルジュ隊に所属、そしてすぐにレースで優勝し今年の騎士代表であるウェントスリッターになった出世頭だしなぁ。後輩達としては尊敬の対象なんだろう。
「はぅ……! 先生の制服姿……! 素敵ですぅ……あああ私も学校の制服で来ればよかったです……そうすれば先生と学生結婚気分が味わえたのにぃ」
同じ制服着るだけで学生結婚気分てどういうことだよ。
ハイラはいつものペルセフォス王国騎士の制服。小さな肩掛けカバンと、なにやらバインダー的なものに書類が挟まれている物を持っている。
「んで、なんでハイラがここにいるんだ?」
「はいっ! 本日含め五日間、先生の学校でのお世話を任されましたハイライン=ベクトールです! サーズ様にしつこくお願いして溜息混じりに折れてもらいました!」
サーズ姫様にはとりあえず玄関に行けば分かる、と言われていたが……こういうことか。
「一応、先生は一芸保持者さんの実験的体験入学のサンプルとなりますので、データを取らねばならないのです。学校側で案内役兼データ収集用人員を用意してもらうところ、私がグイグイねじ込んで来ました!」
持っている書類がそれか。なにやら書き込むタイプのチェックシートっぽいし。
俺としてはありがたいか。よく知らん教師とかにずっと横にいられて、計るようにデータ書き込まれんのもいい気がしないしな。
「そうか、助かるよ。ハイラはこの学校の卒業生になるわけだし、俺が短期とはいえこの学校に入るってことは俺が後輩でハイラが先輩になるわけだ。ってことは言葉遣いが間違っていたか。よろしくお願いしますハイラ先輩! なんつって……」
「……は……はああああああああっ! せ、先生が後輩……先生が後輩! 先生は私の言うことをなんでも聞いてくれる後輩! 授業をサボって備品倉庫とかで先輩である私が肉体的指導を……!」
俺の冗談を聞き、ハイラが目を見開いて妄想を叫び始めてしまった。
おいやめろハイラ。お前はこの学校の後輩達の憧れであり、出世頭なんだぞ。




