三百九十八話 ペルセフォス聖光樹と会話クエスト様
「ペルセフォス王都の有名観光スポットってどこになるんだ?」
冒険者カードに記載されている職業のレベルを上げようと、冒険者センター指定のクエストを消化中。
ゴミ拾いを終わらせ図書館で歴史の本斜め読みをし、さてお次は「街のことを詳しく知ろう!」クエスト。
そこで気が付いたのだが、魔法が使えるような予感が一切ないこと。モブへの道を着々と確実に進んでいる実感しか無い。とりあえず乗りかかった船だし、最後までやるけどさ。
街のことを詳しく知ろう、はどうやら観光で有名な場所に行けばいいらしい。ペルセフォス王都ではどこになるのだろうか。ラビコに聞いてみる。
「そうだね~いっぱいあるけど~最近ではそれこそカフェジゼリィ=アゼリィも当てはまるんじゃないかな~? 他は~、一番古くて大きくて有名なのはあの大木かな~。ほら、ウェントスリッターのレースのときにコースの途中にあった大きな木」
レースのときの大きな木? ああ、大きな木ならここからでも見えるぐらいのがあるが。そうか、そういやウェントスリッターのレースのときに、メラノスの飛車輪に乗せてもらってコース下見しているときにラビコから聞いたな。
カフェジゼリィ=アゼリィはいつでも行けるし、今回はそっちに行ってみようか。
「はい到着~樹齢が二千年を超えるという大木、ペルセフォス聖光樹さ~」
図書館から馬車で三十分ほどで到着。見えるから近いかと思ったら、予想以上に遠いところにあった。
それもそのはず、このペルセフォス聖光樹がとんでもなく巨大で、目測の遠近感覚が狂うレベル。
「で、でけぇ……」
見上げると空を覆うほどの枝葉が大木から張り巡らされ、それにより太陽が遮られひんやり涼しいぐらい。
ここはペルセフォスで有名な観光スポットだそうで、国指定の大きな公園になっている。いわゆる国立公園ってことだろうか。
しっかりと整備された公園内には他にも背の高い大木が生え、ペルセフォス王都内なのに、ちょっとした林のようになっているな。
「すげぇとこだな、ここ。なんというか神聖な雰囲気もあるし……」
「ここはですね、今若い女性に大人気の場所でして、この聖光樹から恋のパワーを分けて貰えると世界中から観光客の方が訪れているんです!」
ラビコに先導され大木を見上げ驚いていたら、この国の騎士ハイラが自信満々の顔で俺の左腕に抱きついてくる。
賑やかな王都なのに木で遮られ、本当に静まり返った雰囲気に日本の神社仏閣的な神聖なものを感じていたのだが、ハイラの一言でその神聖さんがどこかへ飛んでいってしまった。こ、恋のパワー?
「こうです! こう! こうやって大きく手を広げて聖光樹から放たれるパワーを体に集め、意中の人を想い恋の成就を祈るんです! ほら先生もっ!」
ハイラがいきなり木に向かって両手を目一杯広げ、俺もやれと催促してくる。
確かに周りを見ると、結構な数の人がハイラと同じポーズを取って目を閉じている。やっているのはほとんど女性だが……いわゆるパワースポットか?
「ふぬぅ……私にもパワーを……! どうしても勇気が出ず、いつも先を越されてしまい、まごまごしていたら次々とライバルが増えていく状況に終止符を……! え、やったもん勝ち……? さっさと子供を……なるほど……」
恋のパワーうんたらと聞いた途端ロゼリィが両手を広げ、真剣な顔で唸りだした。なんか後半変な存在とチャネリングし始めたが……大丈夫なのか。
多分それ、ロゼリィの心の中にいるお母様、ジゼリィさんじゃないかな。よく言っているよな、子供作ったもん勝ちとか……。ああ、サーズ姫様もそういう考えだったような。
よく分からんが、俺もやってみるか。
「パワー……そう、俺が求めるのは魔法……」
恋とかそういう不確定な物より、とにかく俺はこの異世界で魔法を使いたいんだ、と強く願うが、そこでふと思い出す。
そういやレースの下見のとき、この大きな木を見ていたら変な映像が見えたよな。なんだっけ、巨大な影に翼……光輝く剣……あ、やばい、この木がその長い時をかけて見てきた映像が一気に俺の頭に流れこんでくる……これ、持って行かれる……!
「だ、誰か頬を叩いてくれ! 早く!」
俺が冷や汗かきながら叫ぶと、冗談じゃない雰囲気を悟った女性二人が思いっきり振りかぶる。
「ゆ、勇気! もう先を越されるのはいやなんです……! い、行きますよ……せーのっ!」
「ほいまたか~社長ってたまにそういう趣味目覚めるんだね~あっはは~」
ババチーン!
ロゼリィが俺の右頬を、ラビコが左頬をありがたくも全力でビンタしてくれた。
「い、いってぇ……! ハッ、よ、良かった持っていかれなかった……ありがとう二人共」
流れ込んできた映像がビンタの衝撃でどこかへ飛んでいき、俺は正気に戻った。
「ご、ごめんなさい! 痛かったですか? すごく真剣な顔で言われたので慌ててしまって……」
ロゼリィが謝りながらもビンタした俺の頬を優しくさすってくれる。ああ、やっぱロゼリィは良い子だなぁ。
「あっはは~な~んか快・感。私もそっち系に目覚めそうかも~」
ラビコはダメだ。危険因子。
ハイラとクロがダブルビンタを驚いた顔で見ているが、それは周囲の人も同じ想いらしく、俺達に一気に観光客達の視線が集まった。
恋のパワースポットとして有名な場所で、女性二人に同時にビンタされた男性一人。さて、周りの人はどう受け取っただろうか。
確実に悪い方向だよな……。
「スタンプ! 証拠のスタンプはどこだ! 台紙に押したら速攻ここから立ち去るぞ!」
俺の両頬にはバッチリラビコとロゼリィの手形スタンプが押されはしたが、今欲しいのは街の人クエストの完了スタンプなんだ。
俺は俊敏に動き、売店側にあったクエストスタンプを力いっぱい押し、女性全員を引っ張りペルセフォス聖光樹を後にする。+5ポイントゲット。
日本の観光地のタクシー感覚で並んでいる馬車にお金を払い、カフェジゼリィ=アゼリィ前まで戻ることに。
「次は、街の人と会話してみよう! か。なんか段々引きこもり脱出リハビリみたいになってきていないか……」
説明書によると、指定された魔晶列車駅職員や商店の人、お城があれば指定の騎士さんかお城の門番の人と話せばいい、と書いてある。
指定されたってことは、このクエストの受領を冒険者センターからお願いされている人ってことだよな。じゃあ気軽に話してくればいいんだろ。さて誰にしようか。
「何々~お次は~ああ~これ確か駅にいる警備の騎士さんが担当してたと思うよ~」
ラビコが俺の背後から抱きつくように説明書を見てくる。駅の騎士さん? ああ、あれか、いつもラビコ様が来たぞー! って頑張って騎士の壁を作ってくれる人か。
よし、まずはその人と会話してみようか。いつも駅でお世話になっているし。
歩いて魔晶列車駅まで向かい、駅内を警備している騎士さんに近付く。
「あっ! 全員集合! ラビコ様に道をお作りしろ!」
俺達に気が付いた騎士の隊長さんっぽい人が応援を呼び、周りの騎士を集め、あっという間に周囲に壁を作ってくれた。
「遠路お疲れ様でしたラビコ様! また王都でお会い出来ることを、心より……」
「あ、申し訳ないですが、今回は違うんです。魔晶列車に乗るわけではなく、冒険者センターでのクエストで街の人と会話をっていうやつで来たんですが……」
俺が冒険者センターで貰った台紙を見せると、ああ、と頷き、笑顔で接してくれた。
そうか君は街の人だったのか、てっきり凄腕の格闘家だと思っていたよ、と豪快に笑われた。なんの武器も持たず、見た目ひょろいのに大魔法使いであるラビコ様を引き連れているもんだから、その正体は限界まで体の余計な筋肉を削ぎ落とし、究極の速度による一撃を放つ系の冒険者かと思っていたそうだ。
俺、単に貧弱な元高校生です。
騎士さんはセイエルさんと言い、このペルセフォス王都駅警備の隊長をやっているとか。年齢は二十代後半だろうか。
俺にささっと近付き耳打ちで教えてくれたが、実は駅警備の騎士になった動機は不純で、駅にいれば有名人に多く会えるから、なんだと。だから毎日ここのお仕事が楽しくて仕方がないそうだ。
最近はラビコ様がよく駅に来てくれるので、嬉しくてしょうがないんだと超笑顔。
うん、あんたとはすっげぇ仲良くなれそう。
「じゃあクエスト完了のスタンプを押すよ。はい、お疲れ様でした」
セイエルさんが俺の台紙にクエスト完了のスタンプを押してくれ、無事2ポイントゲット。
「仕事中に悪かったね~あといつも助かっているよ~帰るときにはまた駅に来るから~そのときはよろしく~あっはは~」
ラビコが笑いながら握手を求めると、セイエルさんが手をごしごしズボンで拭き、ド緊張しながら手を出した。
嬉しそうだなぁセイエルさん。
「これって同じクエスト何回かやってもポイント入るのかな」
駅を出てカフェジゼリィ=アゼリィまで歩いて戻る途中、クロに聞いてみた。繰り返し出来るなら、この会話だけでポイント入るの美味しすぎるんだが。
「台紙見りゃあ分かると思うけどよ、クエスト一個につき空欄五個あんだろ。だから最大五回出来るはずだぜ」
ほう、それは美味しいじゃないか。じゃああと四人いってみっか。
改めて説明書を見ると基本指定の人だが、それ以外の人でもいいらしい。ただ、迷惑をかけないことと、冒険者センターの人が分かるレベルの人のサインを貰うこと、とある。
ようは有名人ならいいんだろ。
それならアテがあるんだ。迷惑をかけない程度にコネを使わせてもらうぜ。




