三百九十七話 街の人クエストで約束された勝利への道様
「ゴミ……ゴミはどこだぁああ!」
お昼過ぎ、俺は鬼の形相でペルセフォス王都内を駆け回る。
猫耳フード王女様クロの冒険者カードが割れたからと再発行に王都の冒険者センターを訪れ、そこで俺も持っている冒険者カードの秘密を知った。
どうやら冒険者センターで判別された職業にはレベルがあるとか。
その人の内在魔力が高ければレベル「1」スタートではなく、いきなり「5」とか「10」スタートなんていう才能溢れるお方もいるとか。
あのさ、そういう飛び級みたいなのって本来俺にあるべきじゃね。俺、転生者よ?
でも現実は残酷で、俺に割り当てられた職業は「街の人レベル1」。モブじゃねーか。
──だがモブにも百の魂。
冒険者センターで指定されたクエストをこなせばポイントが貯まり、その職業のレベルを上げることが出来るんだと。
俺はパーティーのリーダーとしていつまでも街の人に甘んじているわけにはいかん、と一念発起。ソルートンに帰るのを遅らせてまで職業レベルを上げることを決意した。
すまんが付き合ってくれ、みんな。
冒険者センターで受付のお姉さんに話を聞いたら「街の人の職業レベルを上げるには」みたいな説明の紙と、空欄がたくさんある台紙をくれた。なるほど、指定のクエストをこなし、この台紙にスタンプなりサインを貰えばいいのか。
指定クエストは……と、最初は冒険者センター依頼の「ゴミ拾いをして、街を綺麗にしよう!」か。よし、ぱっぱと終わらせてやるぜ。
俺は冒険者センターで借りたトングっぽい道具とゴミ袋を抱え、外へ飛び出す。
「ベッス! ベッス!」
公園花壇の手前で、我が愛しの愛犬ベスが俺を呼んでいる。
「でかしたベス! ゴミ発見!」
ベスの足元にはリンゴの芯が落ちていて、俺はそれをトングで回収。
「さすがベスだ、俺の愛犬! かしこい可愛い毛並みが良い!」
俺は最大の賛辞を言い、愛犬を抱きしめ褒める。
「あのさ~、それさっきベスが食べてたリンゴの芯なんだけど~」
抱き合う俺達に冷たい視線を送る影が迫る。
普段から水着を着る魔女ラビコ。腰に手を当て、大げさに溜息を吐いてくるが、そうやって余裕でいられるのも今だけだからな。
もうすぐ俺は職業レベルを上げ、ついに異世界に来て初めて魔法なんてシャレたものが使えるようになるはずなんだ。へへ、すぐに大魔法使いであるラビコに追いついてやるんだ。
「違う、これは落ちていたゴミだ。決してベスが気を利かせて、さっきまで食べていたリンゴの芯を隠して教えてくれたわけではない。マッチポンプとか言うな」
「そこまで言ってはいないけどさ~、そんな急がなくてもゆっくりやればいいじゃん」
うっせー、俺は今日中に職業レベルを上げてやるんだよ。そして魔法が早く使いたいんだ!
「いいだろ、早く終わらせたいんだよ。つかなんでみんな集まってんだ。俺のクエストだぞ」
「いいじゃん~面白そうだし~最後までサボらないように見守ってやろうと思ってさ~あっはは~」
誰がサボるか。魔法が使えるようになるかもしれないチャンスを、俺が逃すわけないだろ。
気が付けばラビコにロゼリィにベス、アプティにクロが集まっていた。ハイラもそのまま付き合ってくれているが、今日はクロの警備をサーズ姫様に指示されているからいいんだと。
「……マスター。本が落ちています」
公園内に流れる小川の横で、バニー娘アプティが無表情の直立不動でびょんびょん跳ねている。
「よし、今行く! あと、人を呼ぶ時は真上に跳ねるんじゃなくて、手を振れ」
アプティの足元には本が落ちている。
表紙がやけに肌色だが……あ、これエロ本じゃん。ほほぅ、どれ、中身は……。
「ふふ。ゴミ、ですよ? これはゴミです。さんはいっ」
トングを使って器用に本を開こうとしたら、トングを操る右腕に痛みが。ロ、ロゼリィ……さん。こ、こんにちは。
「……ゴ、ゴミ……です……街は綺麗に……です」
ロゼリィの圧力のある笑顔と腕に痛みをともなう物理握力で迫られ、俺屈服。
おれは泣く泣くエロ本さんをゴミ袋へ。無念……。
「せんせーい! あっちに紙袋が落ちてまーす!」
上空から声が聞こえ、飛車輪を颯爽と駆りハイラが公園入口辺りを指す。
空飛ぶ乗り物、飛車輪。それに乗ったハイラが辺りをサーチしてくれているが……いいのかよ、こんなことに国を象徴する飛車輪なんていう魔法の乗り物使って。
ハイラの指示ポイントに向かい、落ちていた紙袋を回収。
「よし、こんなもんか。指定のゴミ袋がいっぱいになった」
この国では国王と同等の権力を持っているラビコと、今年のウェントスリッターのレースで優勝したハイラがいると噂が広まり、公園が混雑してきてしまった。
「なんか人だかりができてっからよ、さっさと冒険者センターに報告に行こうぜキング。しっかし大魔法使いであるラビ姉に、今年の代表騎士ハイラが協力してくれるゴミ拾いって豪華すぎんだろ。ニャッハハ」
クロが笑いながら肩を組んでくる。
ラビコやハイラ見たさに王都民が集まったのだと思うが、まぁ公園に有名人がいるって聞いたら俺だって見に来るだろうし、気持ちは分かる。
とりあえず豪華ゴミ拾いは完了。
「えーと、お次はまた冒険者センター依頼クエスト「住んでいる街の歴史を知ろう!」か」
クエストの説明書を見ると、その街の図書館や資料館に行こうと書いてある。
「あ~じゃあ私達は先に図書館に行ってるね~社長は冒険者センターに一回報告だね~」
「分かった、先に行っててくれ。一回報告に行ってくる」
俺は一人走り冒険者センターへ。
ゴミ袋を見せ、クエスト完了のハンコを押して貰う。街の人クエスト、+5ポイントゲット。
お次は図書館だ。
ペルセフォス国立図書館。俺達が新しく作ったカフェジゼリィ=アゼリィの向かいにある、豪華な石造りの巨大施設。
お城の入り口目の前という多くの人が通る場所にあるので、常に混雑している。まぁ中は静かに本を読むところなので、人が多くいようが落ち着いた空間になっているが。
待っていてくれたみんなと合流し、クエスト指定の歴史の本を読む。
「えーと、初代国王様であるラスティ=ペルセフォス様とアレイナ=アルアイレ様がご結婚された日がペルセフォス王国聖なる記念日、と。荒れた大地であったこの地の障害を取り除き、人を集め建国。その後幾度もの蒸気モンスターとの大規模戦闘を国と民が一丸となり乗り越え、国は大いに発展し、現在のペルセフォス王国の街並みが出来た、と」
へぇ、初代国王様はラスティさんと言うのか。
荒れた大地、何もなかった土地に建国ってすごくねーか。よっぽどの人だったんだろうなぁ。
「よし、本読み終わり」
俺が得意としている速読術。それがこんなところで役立つとはな。
学校の試験前夜、教科書やら資料を机に並べ、短時間で一気に斜め読みするという荒業。とっておきの大技なので、素人には勧めない。プロである俺ですらコントロールが難しい技で、体の負担がすごく、リバウンドとしてほとんどの本の内容が頭に入ってこないという弱点がある。
なので素人学生には……お勧めしない。
「はっや……つか社長、ほとんど読んでないだろ~。まぁ、内容覚えることが条件のクエストじゃあないし、とりあえず一度でも歴史の本を手にして読むってのが目的だしいいのか~」
大魔法使いラビコさんのお墨付きもいただけた。俺はウキウキと図書館のカウンターへ行き、読了のハンコを押して貰う。2ポイントゲット。
「えーとお次は「街のことを詳しく知ろう!」か」
説明書によると、次も冒険者センター依頼のクエスト。
何々、街の有名スポットを巡り案内出来るようになろう、か。理想は街の入り口に立ち、冒険者が来たら街の名前を大きな声ではっきりと言い、主要施設がどの方角にあるか言えるようになろう、と。
……えーと、それってさ、よくゲームで街の入口近くにいる「ここは~~の村だよ。村長の家は東側だよ」とかいう、いてもいなくてもいい看板君じゃねーか。
今頃気がついたが俺、優秀な「NPC街の人」の道まっしぐら。
数個のクエストをこなしたが、魔法を使えるような手応えと予感は今のところ一切、ない。
どうやらモブへと続く、光り輝くロードをゆっくり歩き出してしまったようだ。




