三百九十一話 聖地でイケメン王子との熱いお尻様
「よし、ではお風呂へ行くぞ」
カフェジゼリィ=アゼリィでのお手伝いを切り上げ、俺達は近くにある温泉施設へ行くことに。
さすがにデゼルケーノからの帰り、のんびりお風呂には入れていないしな。
「やりました! お風呂です! デゼルケーノでの慣れない乾燥で髪が荒れてしまったので、ちょっと長湯がしたいです……」
ロゼリィが温泉と聞き喜び、チラチラと俺のほうを見てくる。
「ああ、もちろんいいぞ。たっぷり時間をかけて長旅の疲れを癒やしてこよう。今回のお風呂は各自入りたい時間が違うだろうから、お風呂後はカフェジゼリィ=アゼリィに集合しよう。遅くても夕方までな。ではこれからは自由時間ってことで、いざ温泉施設へ!」
俺はとても話の分かる男を演じ、皆を温泉へと誘う。
「んん~? ねぇ社長~お城の横にある私の研究所にも温泉はあるよ~? そこなら時間も男女の違いも気にせず、社長の欲のままに私達と混浴を楽しめるけど~?」
ラビコがニヤニヤと俺をからかう目的で提案をしてくるが、そこはあかん。
以前利用したときはなぜか女性陣とバトルになり、ベスのお遊び火力神獣化でなんとか乗り切ったっけ。そこで初めてロゼリィの生のお胸様を拝み、それに油断した俺にラビコがキスしてきた記憶。
確かにとてもいい思い出が詰まった場所で、混浴も捨てがたい。あの時はサーズ姫様にハイラもいたんだっけ。みんなエロい体していたなぁ……あの肌色空間は一生覚えていよう。
しかし俺はこの人口が多いが故にアレの需要も多い王都で、部屋に飾るとても高貴な本を手に入れねばならんのだ。
今回の目的は男女が別れることに意味がある。分かるよな、紳士のみんな。
聖地には一人で赴くべきなのだ。
「さすがに俺もみんなも長旅で疲れているだろうし、トラブル起きそうな混浴はやめておくよ。すまんなラビコ、気を使ってくれて。お風呂上がりの艶やかでしっとりした美しい肌を楽しみにしているよ」
俺は心の底から優しい気持ちで微笑む。一点の曇りもない、アイドルのような外向け笑顔。俺ってこんな顔で笑えるんだな。
「はぅ……わ、わ分かりました! あなたに相応しく、夜のご期待に応えられるようにしてきます!」
ロゼリィがなぜか真っ赤な顔になり、ペコペコ頭を下げてくる。なんだその、夜のご期待って。
「ニッハー、キングのその笑顔やべぇって。女を何人と落としてきたのも納得ってか、ニャッハハ」
クロもなぜかニヤァと笑い俺を見てくるが……やべぇ笑顔ってなんだよ。これから聖地に行ける喜びで口元は緩んでいるし、心に余裕も生まれてはいるが。
「……う、社長はたまにそういう顔するからずるいんだよ~。聖なる記念日でペルセフォス全体が甘い感じになっているし~さすがのラビコさんもこの王都の雰囲気でその笑顔されたら弱いな~」
ラビコも顔が赤らんでいるが、雰囲気に流されるとか珍しいな。
「アプティもみんなとお風呂入ってこい。大丈夫、俺には愛犬ベスがいるから安心して疲れを癒やしてこいよ」
「……了解いたしました、マスター。楽しんできます」
俺のすぐ後ろにいたアプティにも優しく微笑み、温泉へ促す。
「んん~? でもな~んか社長の雰囲気がおかしいけど~何か企んで……」
「さ、行くぞ。頭カラッポにしてお風呂楽しもうぜ」
ラビコが何かに気付きかけ不審な顔になったが、俺は即座に全員の頭を撫で雑念を消してもらう。
なにやらいつもとは違う、本当に甘い雰囲気の王都内を歩き、カフェジゼリィ=アゼリィの近くの温泉施設へ。
聖なる記念日の聖なる祭典か。本当にクリスマスとかバレンタインとか、そういう雰囲気。店先に並んでいる物は豪華でオシャレな物が多いし、ハートマークがたくさん描かれた物がいっぱい。
「にしても若い男女の二人組が多いな。あったりまえに手を繋いでいるし。ちっ、独り者には厳しい世界だ」
俺がボソっと恨み節を呟くと、ラビコが呆れた顔で笑う。
「どこの誰が独り者なんだい~? 女四人連れて歩いているの社長ぐらいだと思うけど~?」
確かに女性四人がいるパーティーだし、エロいイベントも頻繁に起こる。うむ、すまんかったみんな。俺、贅沢言った。
「ではここからは男女別だな。夕方までにはカフェジゼリィ=アゼリィに集合ってことで、じゃあまた!」
温泉施設に到着。
入り口で男女に別れ施設に入る。なんだかラビコが満面笑顔な俺に不審な顔をしているが、女湯へぐいぐい背中を押す。
男湯でざざっと体を洗い、ベスの体も洗う。ここはペットも可だからありがたい。
汚れを落とし一分ほど湯船に使ったら、すぐにベスを抱えて風呂を出る。
風呂好きのベスがちょっと不満そうだったが、すまんがご主人様の聖地巡礼に付き合ってくれ。男女が別れた今しかチャンスはないんだ。
俺は温泉施設を出て、ベスを引き連れダッシュでお城へと向かう。
一応アプティの気配を確認したが、大丈夫。普通に温泉を楽しんでいるようでなりより。
お城の門番的な騎士に話しかけ、アーリーガル=パフォーマさんはいますか? と聞こうとすると、ああ、サーズ様ですか? お待ちを、と俺を覚えていてくれたらしくお姫様に連絡に走ろうとしたところを止め、アーリーガルがいないか聞く。
門の横で数分待つと、イケメン王子風騎士がさわやかな風を吹かし颯爽と現れた。
「王都に来ていたのか、どうりでサーズ様とハイラインがウキウキしているわけだ。あれ、君一人かい? 珍しいね。それで、サーズ様ではなく僕に用事ってなんだい?」
「リーガル久しぶり。暇があったらカフェジゼリィ=アゼリィで半裸踊り頼むな」
カフェ開店のとき、サーズ姫様の護衛役で来たリーガルだったが、気付いたら女性に囲まれて半裸踊りをしていた。あれ実は好評だったんだよなぁ。
イケメン王子風リーガルの細身ながら鍛え上げられた筋肉は、男の俺から見ても魅力的に見える。
「あ……あれは……わ、忘れてほしい。その後お城の若い女性騎士達に、よく分からない布面積がやけに少ない服を着て踊る集まりに誘われて大変だったんだ」
リーガルが青い顔で震えだす。他人事だが、何か本当に大変だったみたいだな。
「それで用というのはな、これはお前にしか頼めない、とても重要で守秘義務が生まれるクラスの男の事情なんだが……」
俺がボソボソとリーガルに耳打ちをする──
「この辺りだけど……」
リーガルにエロ本屋はないかと聞くと、以前サーズ姫様に連れられて行ったピンクのホテルがある付近を案内された。
まぁ、似たような職種のお店は集まるもんだしな。
クリスマスやらバレンタインやらの甘い雰囲気に男二人で来る場所ではないのがびんびんと伝わってくる。
「あの、こんなこと聞くのは失礼かもしれないけど……君にそういう本って必要なのかい? 僕にはそうは見えないんだけど……」
リーガルが申し訳なさそうに聞いてくるが、バカかコイツ。
独り身の男が寂しい夜を乗り切るにはそれしかないだろう。つか俺こっちに来てまともにエロ本見たことないんだって。
どういう物なのかも知りたいし、どうでもいいから早くロゼリィという鬼の封印が施されていない、安全なエロ本が見たいんだよ。
そういや以前ソルートンの正社員五人娘のセレサにも必要なんですか? と、同じこと言われたな。
必要だよ。当たり前だろ。
これだけ周りに魅力的な女性がいて刺激受けて、そっちの欲が貯まらないわけがないだろう。十六歳の多感な時期、余計にエロには敏感なんだよ。
夜の俺一人による感謝の祭典には、それ相応の貢物が必要なんだって。
「リーガル。お前モテるだろ」
「え、なんだい急に。多少は……女性に話しかけられたり、贈り物を貰うことは多いけど……」
ち、やっぱモテてんなぁリーガル。
「で、そのおモテになるリーガルさんはエロ本を持っていない、と?」
俺が嫌な笑顔で聞く。
いくらモテていようが、エロ本の一冊は持っているだろ。
「あ、いや、その……ある……けど……」
リーガルが恥ずかしそうにモジモジ答える。
ホラ見ろ、持ってんじゃねーか。
「モテるモテないは関係ない。な? 貯まるもんは貯まるし、発散がしたい。その私欲を一方的に女性に向けるのは犯罪だ。男として、人としてそれはやってはいけない。でもエロ本様はそんな熱くなり行き詰った俺達を合法的に包んでくれる。そう、エロ本様は誰にでも等しく優しさを振りまいてくれる神なんだよ。で、その神々がおられる場所は聖地」
「な、なるほど……そういう考え方もあるんだ……でも君はまだ未成年……」
俺のそれっぽい説得にリーガルが納得しかけるが、言ってはいけないワードを口にする。それは……やめようよ。興が削がれるだろ。
ここは異世界。もっとピンク色に溢れていていいはずなんだ。
「いいかリーガル。神の前でお前は何歳とか未成年とかどうでもいいんだ。大事なのは気持ち。自分がどれだけエロ本様という慈悲深き神を熱く求めているか、それが全てで、それこそがその何だ……つまりお願いだから俺の代わりに買ってきてくださいリーガル様ってことだ」
俺は丁寧に頭を下げる。
ああ、俺にプライドなんてないさ。これぐらい俺はエロ本が欲しいんだ。
「え、僕が買ってくるのかい? 僕は未成年ではないけど、それを未成年の君に渡すのはダメなんじゃ」
リーガルが驚いた顔をするが、もうそれしかないだろう。俺がお店入って買っちゃダメならリーガルに頼むしか無い。
え? 買わない選択肢? んなもんねーよ。買う。欲しい。お願い……
「頼むリーガル!」
「し、しかし僕はどちらかと言うと取り締まる立場の……」
ええい、もじもじナヨナヨと……! こうなったら奥の手だ、これでもくらえ。
「オホン……ああ、サーズ様のお尻がとても……いい……」
俺はリーガルのモノマネをしながら感情たっぷりに言う。
これはカフェジゼリィ=アゼリィが出来たとき、応援で来てくれたサーズ姫様の警護でついて来たリーガルが誰にも聞こえないようにエロい顔でボソっと言ったセリフ。
悪いが俺には聞こえてしまったのさ。
「う、うわああああああ! ま、待ってくれ! それはその、いやあのときお尻がいいとは言っていな……」
確かにあの時は、サーズ姫様がとても……いい、だったが、もうモロにサーズ姫様のお尻見てたろリーガル。
「頼むからそれはサーズ様には言わないでくれないか! あのときはちょっと油断していて、その……」
リーガルが真っ赤な顔で慌てだし、俺の両肩をがっしりつかんでくる。そのまま俺をピンクのホテルの壁まで押してくるが、さすがに騎士、力すげぇな。
カフェですでに一回使ったネタだがこの慌てよう。
混乱で我を見失っているリーガルだが、この反応……こいつ、サーズ姫様にマジで惚れているだろ。なんとなく薄々は感じていたが、この反応で確信へと変わった。
ふむ、これはいいネタを手に入れたものだ。今後も使わせてもらおう。
「お願い……お願いだから……! お尻はやめてくれないか!」
や、やめろリーガル。聖なる祭典の日にピンクのホテルの入り口の壁で、男同士の壁ドン体勢で揉めながらそのセリフを大声で言うな。
端から見たら絶対俺達、男×男の熱いやつになるだろ!
「う~わ……明らかに社長の動きがおかしかったから後つけてみたら男同士で……。もしかしてリーガルが現地妻的な立場なのかな~」
あ、ラビコさん。
違うんだ。これは────




