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1 異世界転生したら犬のほうが強かったんだが

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三十九話 るるるるるぶロゼリィの想いと靄に浮かぶ赤い光様


 異世界生活何日目かは知らんが、ついに俺は悟りを開いた。




 右には石鹸のいい香り、左にはバラの甘い香り。俺はその誘惑に打ち勝った。


 ほとんど寝れなかったのは仕方が無い。それほど俺は悟りの世界に没頭していたということだ。




「あー……ひでぇ目にあった」



 今何時だ……なにかキャンプ場に濃い靄がかかっている。まだほとんどの人が寝ているようだ。感覚的に朝五時ごろだろうか。


 テントから静かに出て、水場で顔を洗う。




「おはようございます。もう今日で旅行も終わりですね」


 ロゼリィがタオルと石鹸やシャンプーが入ったポーチを持って現れた。起きてたのか。



「なんか、あっという間だったような長かったような……よく分からないよ。あはは……」


「そうですね。私はとても、ものすごく楽しかったです。家業がありますので、あまり街の外に出ることがなかった……行こうとも思わなかった。でも、あなたと知り合って私……すごい変わりました。毎日がとても楽しいです。ご飯がすごい美味しいです。私、とても笑うようになりました」


 ……いつだったかイケメンボイス兄さんが言っていたな。ロゼリィはすごい気弱で、毎日泣いていたとか。もしかしたら宿屋の受付が嫌で嫌で仕方がなかったのかもしれない。



「私……以前はすごい気が弱くて……怖い人に毎日絡まれて……もう、怖くて怖くて毎日一人で泣いて……」


 ロゼリィが泣きそうな顔になった。


 俺はロゼリィの言葉を途中でさえぎり、言う」


「俺は以前のロゼリィのことは知らない。俺が知っているのは毎日笑顔で宿屋の受付をし、笑顔で注文の料理の配膳をし、笑顔でご飯を食べ、毎日楽しそうにしている、化粧品の新商品を欠かさずチェックし、笑顔で俺に自慢をしてくる。そういう、元気で優しくて……かわいい女性だ」


 俺はロゼリィの涙を拭い、笑いかけた。


「……ぅう、ぅぅうう~ずるいです……あなたはずるいです……そうやってどんどん私の心の深いところに平気で入ってくる。気付いたら私はあなたのことばかり考えている……あなたがうちに来てくれてよかった……あなたでよかった……私は、あなたが……」


 ロゼリィが目を閉じ俺に顔を近づけて来る。


「………………」


 俺はロゼリィのおでこに軽く口をつける。


「……ずるいです。逃げました」


 ロゼリィが笑顔で俺に軽く抱きついてくる。バラの良い香り。






 なんかさっきより靄の濃度が濃くなってきた。


 こりゃー山越えはキツイかな、最悪延期か……。



「…………ん」



 キャンプ場の炊事場に流れている川の向こうは山になっているのだが、そっちから今なんか赤い光る物が見えた。


 木のこすれる音、重い物によってなぎ倒される嫌な音が聞こえてきた。


 地面が揺れ出し、折れた太い木が川に落ちてくる。


 大きな顎と牙、赤く光る目、三階建ての宿屋より大きな巨体が靄の向こうからゆっくり現れる。口から白い蒸気をドライアイスのごとく漏らしながらこちらに近づいてくる。


「あ、あああ……」


 ロゼリィが恐怖でしゃがみ込む。俺もびびって体が動かない。


 一歩歩くたびに地震のように縦揺れが起こり、その巨大な質量に俺は言葉を失う。


 目が赤く光り、鼻から大きく空気を吸い込みまた大量に蒸気を吐き出す。周囲はさらに靄の濃度が濃くなり、視界がとても狭い危険な状況に。



 巨大なモンスターは鼻を軽く動かし、顔を俺達のほうに向ける。


「これ、やばい……」


 赤い目が激しく光り、口から白い蒸気の塊を飛ばしてきた。


「早い……! ロゼリィ……!」


 俺はロゼリィの頭を押さえ、さらに体勢を低く取らせる。


 俺達の頭の上を通過した蒸気は炊事場の湧水場を直撃、石で出来た囲いを吹き飛ばす。



 くそ……! これは結構やばいぞ。俺何の戦力もないってのに。



「ロゼリィ逃げろ! 早く!」


 俺は引きつけるように走り、ロゼリィからそいつを遠ざけようとした。しかし巨大モンスターはまた鼻を軽く動かし、ロゼリィに向かい顔を向ける。


「くそ……!」


 ロゼリィはもう恐怖で動けない状況。


 なんだ、なぜロゼリィに向かう? 動いた俺に向けよ! まてよ、鼻を動かすあの動き……。もしや……。


「ロゼリィ! シャンプーを俺に投げろ! 早く!」


「あ、ああ……シ、シャンプーですか!? こ、これ……は、はい! これです!」


 ロゼリィがなんとかシャンプーを投げる。俺は受け取った瞬間、体中にシャンプーを引っかける。



 巨大モンスターが鼻を大きく動かし、方向を俺に向ける。


 やった……成功だ。アイツ多分目はあまり見えていないんじゃないか、鼻から来る情報を頼りにしている感じだ。


「ロゼリィ! 警護の人を呼ぶんだ! みんなを避難させてくれ!」


「……あ、あなたは……! あなたはどうすると……!」



 俺はバラの香りを振りまきながら人がいない方向へと走る。


 巨大モンスターも俺を追うように体を動かす。



「こっちだ! 来いよ化け物が!」



 くそ……こんな巨大なモンスターがいるのかよ。異世界舐めていたぜ。













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