三百七十話 火山と砂漠の都市デゼルケーノ4 高級ホテルの本場温泉と起きている事件詳細様
王都デゼルケーノ駅から歩いて五分の好立地にあるホテル、ハニーデイキス。
建物は三階建ての頑丈そうな石造り。
騎士ジュリオルさんの知り合いという店主のロイルークさんが、二十三時過ぎだというのに快く部屋を案内してくれた。
「絶対お高いよな、ここ」
「んだね~。たしか一泊お一人千Gはしたような気がするけど~?」
ホテルを紹介してくれたジュリオルさんが「ご迷惑をお掛けしました」と、このホテルのお金を全額出してくれた。
すぐに駅に戻るとのことで、簡単なお礼しか言えなかった。
「せ、千……」
なんとなくラビコにこの豪華ホテルのお値段を聞いてみたが、お一人千Gってかい。千Gって十万円だぞ、お一人十万円。高いどころじゃねぇ。
「まぁまぁ、せっかく奢ってくれたんだから、楽しんでいかないとジュリオルが払い損になっちゃうぞ~あっはは~」
そして案内された部屋が五人が余裕で過ごせる広さの、王族貴族が使いそうな豪華なもの。キラキラ光る白い大理石みたいな床。お高そうなオシャレなソファーにベッド。かなりお金をかけたと思われる内装。
女性陣が左手薬指につけている指輪の誤解を解かずに来てしまったので、普通に全員一緒の部屋だと思われたようだ。あとでちゃんと説明しないと面倒なことになりそう。
さすがに四日以上の移動の疲労で、説明より早く休みたい欲が勝ってしまった。
こんな遅い時間なのでお部屋での夕飯はさすがにご用意出来ないとのことなので、簡単なシチューにパンをホテルレストランでいただいた。
「その、なんだ、あのー……よく分からない味だったな……」
いただいたのは海の具材シチュー。
王都デゼルケーノは港もあるので新鮮なお魚も手に入るらしく、南国特有の見たことがないお魚やら貝やらが入っていて、豪華なものだった。パンも列車のより柔らかかった。でもシチューがその、何味にしたいんだよ、これ……みたいなもの。
とりあえず色々ぶっ込んで、塩でまとめてみました的な。
足元でベスが頬張っていたリンゴが羨ましかった。
「あっれ~社長~そのへん覚悟込みでデゼルケーノに来たんじゃないのかい~? こんなのホテルだから食べられる高級なやつだよ~? 大衆食堂なんていったら、それこそ砂混じりのトカゲ飯フルコースなんだぞ~」
ラビコがレストランからの帰り道ニヤニヤしながら言うが、トカゲ確定なうえ砂混じりなのかよ。ちぃ、なんとか避けたいトカゲ飯。
ロゼリィがトカゲと聞いて震えるが、アプティがちょっと興味ありそうにしているのが気になった。
寝る前にホテルの大浴場を使わせてもらったが、こっちはさすが火山の国デゼルケーノ。茶色というか、赤みがかったドロっとした温泉で、四日間の列車移動の疲れがほどよくほぐれていく感じ。
「ああああ、素晴らしいところですねデゼルケーノ! さすがに本場の温泉は違いますね。尖った熱さの中にも肌を包み込むような優しさも垣間見え、吹き出る汗とともに疲れがどこかへ行ってしまう感じです!」
食後の表情とは一変。女湯からロゼリィが歓喜の笑顔で出てきて、ロビーで愛犬ベスと戯れながら待っていた俺の左腕に抱きついてくる。おおう、いい香り。
温泉通みたいなロゼリィの批評どおり、確かにちょっと温度が高めの温泉だった。そのせいか、汗がドンドン出てきてスッキリする感じ。
「……マスター、いい温泉でした」
いつのまにか真後ろにいたアプティもちょっとホクホクとした表情。さすがに疲れていたのかね、みんな。
「はいお待たせ~いい温泉だったね~」
ラビコがホテルカウンターのほうからゆっくり歩いてきた。カウンターには店主のロイルークさんがすっごく嬉しそうに、何度もこちらに頭を下げてくる。
ロイルークさんがなにか大事そうに抱えているがなんだろうか。
「さっすが温泉の本場デゼルケーノだね~。旅行の疲れが一気に取れた感じ~」
ハンドタオルで顔を仰ぎ、温泉の余韻を楽しんでいるラビコ。火照った肌が色っぽい。
「うっわ、エッロい顔してんな~社長~。こっちはちゃんと情報聞いてきてあげたっていうのに~」
実際風呂上がりのお前らはエロいんだからしょうがないだろ。しっかり左腕でロゼリィのお胸様を味わっているし、後ろのアプティの髪からいい香りがする。
そこにちょっと胸元大きく開けた浴衣みたいの着たラビコが来たんだ。凝視すんだろ、普通。
「オホン。情報ってなんだ、ラビコ」
咳払い。
これはどこの世界でも通用する素晴らしい誤魔化し方なので、これから異世界に来る紳士諸君は覚えておくといいぞ。
「ま~見るだろうな~って思って胸元開けておいたんだけどさ~あっはは~」
ラビコが色っぽく胸を寄せるポーズ。おおおおおっ、カメラを……早くカメラを買わねば……!
そして見せるつもりだったんなら見てもいいだろ。もっと見せろ。旅先では大胆に見せろよ。
「いや~さすがに気になったからさ~王都デゼルケーノで起きている事件とやらを店主に聞いてきたのさ~」
なるほど、だからロイルークさんのいるカウンターに行っていたのか。
見ると、さっき抱えていた物を大事そうにカウンターの後ろに飾っているな、ロイルークさん。ああ、ラビコのサインか。あれと引き換えに情報貰ったってことか。
まぁ、世界的に有名な大魔法使いラビコのサインはホテルとしても嬉しいだろうしなぁ。当ホテルにあのラビコさんがお泊りになりました、と宣伝に使えるし。
実際ペルセフォス王都でのカフェ開店のときに、ラビコやサーズ姫様、ハイラに頑張ってもらったおかげで、一気に知名度が上がったからなぁ、カフェジゼリィ=アゼリィは。
ちなみにペルセフォスのカフェのカウンターの裏にもサインがあるぞ。サーズ姫様にラビコにハイラに商売人アンリーナの合同サインだ。これは相当な貴重品だと思う。見たければペルセフォス王都のカフェに行ってくれ。
「それが~結構ヤバそうだよ~。この王都デゼルケーノの北にさ、小さな火山で区切られた広大な砂漠が四つあるんだけど~、この王都の一番近くの砂漠に主が出たんだってさ~」
ラビコが簡単に紙に見取り図を描いてくれた。
デゼルケーノから北側に四つ砂漠が並んでいて、その中で王都に一番近い砂漠に巨大なヘビみたいな絵を描いているが……なんだそれ。
「ラビコ、なんだそのヘビは」
「あっれ~知らないのかい~? この四つの砂漠を数年周期で渡り歩く砂漠の主さ~」
知らねーよ。こちとらこの異世界に来て日が浅い上、このデゼルケーノに来たのだって初めてなんだからよ。
「あ……そういえば来る前に聞いたような。底なしの流砂があって、そこに大型のモンスターが住みついているとか……」
ソルートンでラビコに脅し含め色々聞いた中に、砂漠に大型のモンスターが、と聞いたな。あれ、脅かし目的の冗談じゃなかったのかよ……。
「そう、それそれ~。運が悪かったね~、主が一番王都に近付く周期に観光でのこのこ来ちゃった~ってやつさ~あっはは~」
砂漠には飢えた巨大なモンスターが住みついていて、その牙が冒険者を襲う、だったっけか。歳の若い小いさいのに当たればラッキー。運が悪ければ超巨大モンスターとご対面。逃げる間もなく喰われておしまい、とか聞いたような。
「すでに砂漠で運悪く出くわした冒険者に多くの犠牲者が出ているみたいでさ~これはかなりまずそうだよ~」
ラビコが後半笑みなく、マジ脅しの声で言ってくる。
「さ、砂漠の主ってなんなんだ。そんなにヤバイやつなのか? ここにいる冒険者って、かなり高レベルな人が多そうだけど、それでも対処出来ないのか?」
駅や街にすっごく強そうな戦士達が集まっていたが、あれほどの奴らがいてもダメなのか?
俺がそう言うと、ラビコが一旦間を置き、静かに語る。
「無理だね~。砂漠の主はこのデゼルケーノに千年住みついているという噂のやつで、その千年もの間たっぷり人間や獣からを栄養を吸収した超大型のヤツさ」
せ、千年生きているって、相当だな。それ本当にまっとうな生き物か?
「装備頼りの冒険者じゃ~勝てっこないね。高レベル冒険者が多くいるデゼルケーノで、千年生き残っているっていうのがその証拠さ~」
千年は噂だとしても、今まで誰も討伐出来なかったってことか。
「ジュリオルさんの依頼、断ってもよかったのか……? かなりの相手っぽいし、犠牲者が出ているんだろ?」
「大変な状況だとは思うけど~私は別に正義の味方じゃあないんだ。砂漠の主はそれこそ砂漠からは出てこないし、これ以上犠牲者が出ない対策立てて、他の砂漠に移る周期を待ってやりすごすのが一番だと思うけど~。それに私一人じゃ勝てないと思うし~」
最後ボソっと言ったが、ラビコクラスで勝てない相手って、相当だろ。
なんかのんびり観光とかいう状況じゃなさそうだ。




