三百六十七話 火山と砂漠の都市デゼルケーノ1 人類未踏の地と到着王都デゼルケーノ様
ラビコの冗談なのか本気なのか分からない発言のせいで、今後食べるかもしれないトカゲ飯が頭をよぎる。
お昼の列車内販売の、もうわざとだろってぐらい固いパンを丁寧にゆっくり味わいながら食べた。
「あの高い山が来る前に聞いた、火の国のどこからでも見えるっていう山なのか?」
列車は海岸線を南下。
窓から見える風景は、どこを見ても砂漠に溶岩の固まった岩に噴き上がる白炎達。無限に広がる砂漠から鋭利な山が天を突き刺すように連なっていて、観光に向く風景とは真逆の光景である。
黒い鋭利な山の中でも国の北側にあるひときわ標高の高そうな山。他の山の倍以上はありそうで、本当に天に突き刺さっているように見える。
「そうさ~。あれがこの火の国と花の国フルフローラの境目になっている山脈で~いっちばんでっかいのが通称火の山、アオレオグランツっていう火の国のシンボル的な山だね~」
ラビコが自前の地図を指し、位置関係を教えてくれる。
なるほど、あのでっかい山脈が国境になっているのか。もしかしたらあの高さが砂漠の侵食を抑え、花の国フルフローラは緑豊かな環境なのかもなぁ。
火の山アオレオグランツ、か。日本で三千メートル級の山は見たことがあるが、それの三倍以上はありそう。山はここからかなり遠くにあるのだが、離れていても圧倒的迫力。あとなんか光って見える。
「あの山の麓に広がっているのが千年燃えているという火の海さ~。ハッキリ言って人間が近付ける環境じゃないね~。過去に多くの冒険者が踏破しようと試みたけど~帰ってきた人はいなかったね~」
そうか、麓に白い炎が燃え盛る火の海があるから山全体がぼんやり白く光って見えるのか。なんか不思議な光景。異世界に来てよかったぜ。
「おっかねぇな、それ。もしかして火の山アオレオグランツって人類未踏の地ってことか?」
「記録に残っている資料ではそうなるね~。地上ルートは灼熱砂漠にマグマに白炎という難所に次ぐ難所だからね~命のストックが三、四個はないと無理かも~あっはは~」
うっへ、どんだけの場所なんだ火の山ってのは。
しかし人類未踏の地ってのはロマンあるよな……。挑む冒険者の気持ちも少しか分かる。ゲームでならすぐにでも行きたいが、リアルでは無理無理。百戦錬磨のラビコが命が三、四個必要とか言ってんだぞ。
「ん、でも空からなら行けるんじゃねーの? 火の海も砂漠も影響なし、だろ」
ラビコはキャベツ状態なら飛べるし、ペルセフォスには飛車輪もある。また変な力でも働いてんのか?
「それがさ~空から行けるにはいけるんだけど~……」
ラビコが苦笑いで言う。
なんだよ行けるのかよ。何が人類未踏の地、だよ。
「人類が未踏なだけで~その人類が近付かないのを好都合と住処にしている集団がいてさ~。近付こうとするといつの頃からか住みついている蒸気モンスターがごっそり攻めてくるのさ~あっはは~ダメだこりゃ~ってやつさ~」
ちょ……! マジかよ蒸気モンスターの住処って。自然災害的な危険地域じゃなくて、蒸気モンスターが確実にいる本物の危険地域じゃねーか。
「あ~でもアイツらこの地域一帯に噴き上がっている白炎が苦手らしくて~山からあんまり出てこないんだよね~。来ても内陸の砂漠止まりが多いね~。近づかなきゃ向こうも攻めてこない~っていう微妙なバランスが成り立っているのさ~」
いつでも見える山に蒸気モンスターが住みついているって恐怖以外ないんだが。これが火の国か……。高レベル冒険者が集まるわけだ。
ぼーっと外の景色を眺めていたアプティが、ラビコの発言にピクンと肩を揺らす。蒸気モンスターが苦手、か。アプティも当てはまるのか?
国のどこからでも見えるという火の山。そこには蒸気モンスターが住みつき常に人間を見下ろしている。国土のほとんどが砂漠に火山。溶岩が固まった岩とあちらこちらから噴き上がる白炎。
なんかこの国に住んでいるだけでモリモリ鍛えられ、自然と冒険者レベルが上がっていきそう。
……生き残れれば、だが。
なんだか聞けば聞くほどなんでこんな危険なとこに来たのかと思うが、それはそのあれだ。ロゼリィのエロい写真が撮りたいというピュアな少年に大金という爆発的推進剤が過剰に投入されたという神の悪戯であって、つまりエロこそパワー、エロこそ俺の魂ってことだ。
窓の外の地獄みたいな景色を眺め、次にベッドに腰掛け俺の愛犬ベスを膝の上に乗せ撫でているロゼリィと見比べる。
「うん、比べるまでもない。俺の魂は一貫している」
手のひらはクルックル返るが、俺の魂はどんな脅しにも負けない。どんな困難だろうと、どんな暗闇だろうと必ず振り払い、この手に輝く光をつかむ。
そう、合言葉はこの手にロゼリィの裸の写真を、だ。
「ん~? なにかな~その外の景色とロゼリィを見比べた後の力強い握りこぶしは。問い詰めちゃおうかな~? あ~でも簡単に予想もつくけど~言ってもいいかな? たぶん裸の……」
「やめろおおオオオ!」
俺は慌てて楽しそうにニヤニヤ笑うラビコに飛びかかった。
なんでラビコはすぐに俺の考えを言い当てられるんだよ……! 魔女か、魔女だからなのか!
「うっひゃ~社長ってば情熱的~。真正面から水着脱がしにキタ~!」
え? 脱がし? 俺はラビコを軽くソファーに押し倒してソファードン体勢とっただけだけど。
押し倒したラビコの顔からゆっくり下に視線をずらしていくと、お胸様を包んでいる水着が思いっきり上にズレている。うん、どうやら押し倒した勢いで、俺の右の親指がラビコの水着の肩紐を引っ張ったらしい。
「うわわわっ、ごめん!」
俺は慌てて起き上がり、顔を手で覆う。見てません、見てません!
……でもちょっとだけ、ちょっとだけ……いいよね? 俺は覆った手の右目の眼球の前の指だけを器用に薄く気付かれない程度の隙間を開け、チラと、本当にチラッと覗き見る。
……オゥ、パラダイス。
「うわ~見てる~! 社長がどさくさで隙間から見てるぅ~あっはは~」
ラビコがあらわになったお胸様を隠すこともせず、ゲラゲラ爆笑しながら俺の右手の隙間に人差し指を突っ込んでくる。おっふ! 笑いながら目潰しはよせ!
その後、ものすごい笑顔のロゼリィに鬼の握力で首根っこを握られ、ベスのリードで捕縛された。
俺が芋虫のように床に転がった状態でロゼリィのお説教スタート。
「着いたよ~四日間お疲れ様~。こちらに見えますのが火の国の王都、デゼルケーノでございま~す」
床に転がってゲンナリしていたらラビコが外を指す。
王都デゼルケーノに到着……か。途中から景色はロゼリィのヒザのアップしか見ていないぞ。
ソルートンから馬車で半日、魔晶列車に乗って四日。
合計四日半かかり、ついに俺達は火の国の王都デゼルケーノに着いた。
駅に降りてすぐのところにあった売店で、普通に小さなトカゲみたいな串焼きが売られていて、ちょっとしたトラブルで夕飯を食べていない俺達は今後の楽しいご飯タイムを想像し、青ざめた。




