三百六十一話 火の国エキサイトツアー6 それぞれの大事な物と暴露されるエロ目的ツアー様
木材の街フォレステイ発、金属の国デゼルケーノ行き魔晶列車。
列車には王都ペルセフォスに行く時によく乗るが、それでも特急で一日の距離。しかし今回は目的地まで四日もかかる大移動となるそうだ。
「だいじなもの、確認。ベス、本、以上」
「ベスッ」
二十二時、定刻通り列車が出発。最後尾のロイヤル部屋にて荷物確認。
基本、男なんて手ぶらでいいのだ。着替え何枚かとお金があればなんとかなる。大事な家族である愛犬ベスと、魔法の国の国宝とかいう本が無事なら大丈夫だろう。さすがに本は国宝ってんだから雑には扱えないので、厳重に布で巻いてある。
俺に呼ばれたベスが吠え足元に絡んできたので、優しく頭を撫でる。うむ、俺の愛犬はいつどんな角度から見てもかわいいぞ。このロイヤル部屋はとても広いので、普通にベスをリード無しで解放できるので嬉しい。
「私はこれかな~お酒にキャベツ、以上。あっはは~」
俺の口マネをし、お酒の瓶を腕いっぱい抱えたラビコがニヤニヤ笑う。お前の魔力の元、キャベツは分かるが、お酒は嗜好品だろ。まーた知らん間に駅の売店で買いやがったな。
そういやフォレステイ駅でラビコ様がいるぞーって騒ぎになったあたりって、売店近くだったな。なんのことはない、てめーの私欲行動が原因じゃねーか。
「わ、私は、えーと、これです。会ったばかりのころ、あなたに褒めて貰えたローズ=ハイドランジェ製の口紅です。ここぞ! というときにだけ大事に使っています」
俺達のやりとりを見ていたロゼリィが小物ポーチからゴソゴソ取り出したのは、綺麗な作りの口紅。側面に薔薇のマークが施されている高級品っぽい見た目。そういやなんとなく覚えている。
ああ、ケルシィでロゼリィから貰ったお守りは、大事にいつもポケットに入れてあるぞ。たまに一緒に洗濯しそうになって、慌ててポケットから取り出している。
「……紅茶……でしょうか。これだけあれば……いつでも飲み放題……」
バニー娘、アプティまでだいじなもの大会に乗ってきた。大きな袋を抱え、鼻をすんすんさせ、中身から漏れてくる微量の香りを楽しんでいる
やけに大きい荷物持っているな、と思ったら、あれ中身全部紅茶の茶葉なのか。
「あっはは~あと一番はこれかな~。社長から貰った愛の証、婚約指輪~」
ラビコがニヤッニヤしながら、左手薬指に付けている銀の指輪をザッとかざしてきた。ロゼリィ、アプティもそれを見て同じく左手をかざしてくる。
「もちろんです。これだけは絶対に体から外したくありません」
「……キラキラで綺麗ですマスター」
ああ、なんか懐かしいな三銃士。
今はいないが、商売人アンリーナにも同じ物を俺が贈っている。
「あのな、それは俺の感謝の気持ちを込めた贈り物、な」
「ん~? ああ、こんな変態な僕と婚約してくれてありがとうって意味ね~。いいのいいの~。社長の変態的性癖はもう諦めているし~。大金払って日数かけて危険冒してまでデゼルケーノに行くのだって、カメラ買って私達のエッロい写真撮りたいからなんでしょ~? あとエロ本探しだっけ~? そこまで一貫してエロいのって、もはや清々しいよね~あっはは!」
俺が結婚しましょう的に贈った物じゃなく、これからもよろしく的な広い意味で贈った物な、と誤解のないように短文で反論したら、ラビコが爆笑しながら俺の一番守りたいピュアな部分を長文で全部暴露してきやがった。
「お、おいぃぃ! 全部言うなよ……!」
「え……? これってあなたが世界を見たいという目的の一端で、カメラとかはそのついで、じゃなかったんですか……?」
ヤバイ……ロゼリィの内なる黒きオーラが可視化され、一気に膨れ上がったぞ。ジゼリィさん譲りのおっかねぇやつだ……! ほらきた、顔がチリチリ焼けるような圧倒的熱量。オラ、わくわくしてきたぞ!
「ち、違っ……! 世界を目で見て肌で感じるのが一番なんだが、思い出を形として残せるのもいいなって思ってカメラを……。何年かあとにみんなで世界を巡った写真と記憶をたよりに思い出話とか最高だろ!? エロ本は買わない! 信じてくれロゼリィ!」
俺が慌てて弁解。
真面目な顔でロゼリィの肩をがっしりつかみ、ピュアな瞳で訴えかける。ああ、でも最後の一文はウソだ。
エロ本は買う。
エロ本のない童貞人生なんてやってられっか。
こういうときはロゼリィさえ抑えればなんとかなる。アプティは興味なさそうにむこうを向き、ベスと会話しているし。だからそれいつも何の話してんの?
ラビコなんて超絶面白いこと起きた! とニヤニヤしながらお酒のフタを開けだした。あれ、こうなることを予想して言った確信犯だろ。
「何年かあとに世界を巡った写真と記憶をたよりにみんなで思い出話……」
ん、絶望するほど膨れ上がっていたロゼリィのオーラが、しゅんしゅんと縮んでいく。あれ?
「ふふ、いい言葉を聞きました。数年後の場面にもあなたの側には私達がいる。最後、ちょっと目が泳いでいたのが気になりますが、あなたの中では何年経とうが私達はこうしてなんだかんだと騒いでいる、ということですよね」
あ、ああ。だって世界を巡るのってそう簡単じゃないだろ。どのくらいかかるのかなんて、想像もつかないぞ。
「あなたの側にいるのが当たり前。そうです、私はずっと、この先ずっっとあなたの側にいますよ。そして、何十年か先にいっっぱい思い出を話したいです。ふふ、楽しそう……もうその時を想像するだけで笑みがこぼれちゃいそうです」
おお、よく分からんが、ロゼリィがいつもの優しい子に戻ったぞ。
「おお、任せろ。話しきれないぐらいの思い出を作ってやるさ。なにせ世界は広い、何十年経とうが新たな発見が湧いてくるだろうさ。俺は君達と世界を回りたい。こんな楽しいメンバー他にいないからな」
「……はい!」
ロゼリィが満面笑顔で抱きついてくる。
おお、なんとか危機を乗り切ったぞ……。
「あっれあれ~……おっかしいなぁ、いい酒のつまみになると思ったのに~、なんか急にいい話になってんじゃん~。ま、確かに私達ならどこ行っても、何年経っても楽しそうかな~あっはは~」
ラビコが超不満そうにブツブツ言い、俺の脇に顔をうずめてきた。
「……お話しは苦手ですが、マスターの横にいたいです」
アプティが下からすくうように俺の尻をつかんでくる。横にいたいと言ってくれるのは嬉しいけど、なんで尻つかんでくんの……。
「ベスッ!」
愛犬ベスも足を甘噛みしてきた。いっつつ……ああ、もちろんベスも一緒だぞ。でも力加減はしてくれよな、愛犬。
ああ良かった、なんとか収まった。出発早々トラブルはゴメンだぜ。
──にしても間近で見ると、やっぱみんなお美しいですなぁ……。
あー早くカメラ買ってみんなのエロい写真撮りてーなぁ。あとデゼルケーノとペルセフォス王都でエロ本探しな。いまから心がわくわくすっぞ。
「あ~社長今、エロいこと考えてる~」
なっ……ラビコ……こいつ、心を直接……! と思ったが、列車の窓ガラスに写った我が顔は、アクセル全開でエロいことを考えているとしか言えないものだった。




