三百五十五話 それはロゼリィの物語様
「ラビコ。俺と旅行に行かないか、二人で」
俺はラビコの目をマジマジと見ながら紳士な顔で言う。
「き、き、キタ~~! 結婚適齢期の女を二人っきり旅行に誘う……ついに決心したんだね社長~。そうだよね~こ~んなド田舎の宿屋なんて社長には合わないよ~。これからは王都ペルセフォスで自堕落に暮らそうね~あっはは~」
俺の言葉を聞いたラビコが目を丸くして、喜々とした顔で右腕に絡んでくる。
決心? 王都で暮らす? 何言ってんだ。俺と二人で火の国に行こうと言っているんだが。
「ま、待って下さい! どうしてラビコと二人なんですか!? 私のこと……お嫌いになったのですか……」
左隣のロゼリィが驚き後半消え入る声でつぶやき、シュンと下を向く。
「え、いや違うって。聞く限りかなりな場所っぽいし、職業冒険者じゃないと命の危険が……な。そこに大事な君を連れていくのは……言っておくが俺はロゼリィのこと好きだぞ。ああ、その証拠にいつだってロゼリィの裸を想像して生きている。出来たら形として残したい……だから危険を乗り越えてでもカメラが欲しいんだ」
下を向いていたロゼリィが中盤パッと笑顔で俺を向き、後半で怪訝な顔に変わった。
あれ、なんかマズったか。ロゼリィが大切だからこそ連れて行けないってことを言いたかったんだが。
「ぶっ……あっははは! 前半はまるで恋人の身の安全を想う紳士っぽいけど~後半は裸が見たいっていう、ただのド変態宣言じゃないか~あっはは。カメラが欲しい本当の理由はエロでも、表向きはみんなとの思い出を形として残したい、とかにしときなよ~社長正直過ぎ、あっははは!」
ロゼリィが悲しそうな顔になったので慌てて弁解をしたが、ストレートに熱い想いを語り過ぎたのか。俺のエロに対する真っ直ぐな想いを聞いたラビコが大爆笑。
「そ、そうそれ! それが言いたかったんだ。みんなとの思い出を形にして残したい。俺はこれからも世界を巡り、その全てを見るつもりだ。目で見、感じるのが一番なんだが、補助として形に残したくてな」
君との思い出を撮りたいんだ、はアリだけど、君の裸を撮りたいんだ、はナシだったな。つい普段考えている心の声が出てしまった。
「は、裸は……撮られるのは嫌ですけど、見たいのなら今度……あ、いえ、その、私の安全を思っていただけるのはありがたいのですが、私はあなたのことが心配なのです」
ロゼリィがスッと俺の左手を握り、決意した顔で俺を見てくる。
「あなたは足元にある小さな暗い世界しか見ていなかった私に、顔を上げるとそこに広がる明るい世界があると教えてくれた。下ばかり見て泣いていた私の手を取り、世界とはこんなにも楽しいところなんだと教えてくれた」
俺に会う以前のロゼリィはいつも泣いていたとか。イケメンボイス兄さんも心配していたしなぁ。
「あなたがいると私は自然と笑うことが出来た。あなたの隣にいれば肩肘張らずに思っていることが言えた。あなたの側にいれば私は……とても幸せな気持ちでいれる……生きていると、今私は生きているんだ、と実感出来る」
いつも泣いて生を実感するより、笑って今生きていると感じるほうが素晴らしいだろうな。俺一回死んでこの異世界に来たっぽいし、運良く転生できて生きているこのチャンスはもう逃せないんだよ。
俺は力の限り楽しんでやるんだ、この異世界生活を。
「私は決めたのです。この生命はあなたと共にある、あなたと一緒にいるから生きていける。あなたの隣でならこれから起こることは全て受け入れられる。楽しいことも辛いことも全て、それはあなたと刻む私の生命の物語」
ロゼリィが力を込め、俺の左手を両手で握る。
「あなたと離れたくない……あなたの側にいたい。危険な場所に行くというのなら尚さらです。一緒にいたい……生命を、私がこの世界から目を閉じるその時まで、私はあなたの側にいたい」
すごいな、ここまで俺を想ってくれているのか。ありがたい。
「そうだね~人の命なんて短いもんさ~。だからって悲しむこともないのさ~その短い時間の中で、ここまで想える人と出会えたんだ~。こんな奇蹟、嬉しい以外に感じようがないよね~」
黙って聞いていたラビコがすっと俺の耳に顔を近づけ小声でつぶやく。あ、わざと息は吹きかけないで……。
「社長~こういうときは危ないからついてくるな~じゃないんじゃないかな~。私達は社長をリーダーとしたパーティーなんだよ~? 危ないからって置いていかれるのは……もう嫌だな……それは悲しい選択だよ……。さぁ、社長は英雄なんだ。こういうときはどう誘うか、分かるよね~」
そういえば以前もこんなことあったな。またロゼリィに悲しい想いをさせてしまったってことか。いい加減成長しろって、俺。
こういうときは……英雄なら、格好いい大人ならこう言うんじゃないかな。俺は立ち上がり、しっかり二人を見て口を開く。
「ラビコ、ロゼリィ。火の国というちょっと危険な国があるそうだ。俺はそこに行きたい。でも安心してくれ、君たちは必ず俺が守る。だから、俺を信じてついて来てくれないだろうか」
危ない? なら俺が守ればいい。それでこそ英雄ってもんだ。
「……! はいっ! あなたの側ならなんの心配もないです!」
「あっはは~おっけ~。何かあったら微力ながら私も力は貸しますよ~っと、あっはは~」
二人が笑顔で抱きついてくるが、正直戦力はラビコに頼るぞ。俺は何の力もないしな……。あ、ベスにも頼らせてもらう。
「……マスター、パンツは十二枚中、何枚持っていきますか?」
いつの間にか後ろに立っていたバニー姿のアプティが、俺のパンツの枚数を数えている。まぁアプティは何も言わなくてもついてくるんだろうけど……え、パンツ? えーと。
「五枚だ。新し目のを選んでくれ。足りなければ現地で買う。すまんがアプティもついて来てくれ」
「……はい。それが私の役目でもありますので」
頼むぞ、アプティ。
このパーティーはラビコとアプティとベスが基本戦力だからな。居てもらわないと俺が困る。
つかなぜいきなりパンツの心配なんだ、アプティ。




