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7 異世界転生したら俺の家が出来たんだが

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三百四十四話 リニューアル! 宿ジゼリィ=アゼリィ 2 アンリーナの分析と愛の捺印様


「ありがとうございましたー! またのご来店をお持ちしています!」


 ジゼリィ=アゼリィリニューアル、初日の営業が終了。


 特にトラブルもなく、順調に終業時間を迎えた。



「うーん、すごいな……これ」


 宿のオーナーであるローエンさんが初日の売り上げ報告を見て唸る。


「だね、これはみんなに還元しないといけないね」


 ローエンさんと奥様であられるジゼリィさんが話し合い、従業員全員に臨時給金が配られることになった。さすがに王都のカフェの売り上げ、とまでは行かなかったが、過去最高の売り上げとなったそうだ。


 一階食堂の床面積を増築で増やし、席数が倍近くになったので、混雑でもお客さんをそれほどお待たせすることがなくなったのが大きかった。




「正直、王都に比べ人口の少ないソルートンで、どこまで売り上げを伸ばせるか不安でした。……が、そんなことは師匠とこのジゼリィ=アゼリィには関係なかったですわね」


 食堂の後片付けも終わり、俺の部屋に戻ろうかとしていたら、アンリーナが売り上げデータの書かれた紙を持って話しかけてきた。

 ちなみに工事開始からアンリーナはこの宿に部屋を借りている。


「今日一日お客さんの傾向を見ていましたが、ソルートンの住人は当然いたのですが、街以外から来た方がとても多かったです」


 おっと、さすが商売人アンリーナ。俺にはお客さんのデータまでは見る余裕がなかった。


「うちの者に指示し、昨日から港に来た船の観光客の数、さらに馬車の会社にも協力してもらい魔晶列車があるフォレステイからこちら、ソルートンに来た観光客の数を集めましたわ」


 うへ、この素早いリサーチ力、さすがローズ=ハイドランジェ次期当主ですわ。


「結果、普段この時期ではあり得ない数の観光客がこのソルートンに集まった、とデータが出ました。馬車の人や、港の船の関係者にも聞きましたが、これほどの観光客は見たことが無い、と」


 なるほど、外からのお客さんが多かったのか。どうりで見たこと無い人いっぱいいたもんな。


「どうやら、このソルートンのジゼリィ=アゼリィが観光コースの一つに組み込まれているようです。王都のカフェの評判もあり、本店のこちらにも行ってみたいという人がとても多いのだとか」


 それはあれか、王都のカフェがいい宣伝にもなったってことか。やっぱ人口の多いところにお店を出すと、情報の伝播がすごいな。テレビやネットのない異世界。情報が伝わるのは人づてが一番多いしな。


「王都のカフェがとてもいい影響を出していますね。さすが師匠ですわ。……それに乗っかるようで申し訳ないのですが、うちの商品も飛ぶように売れました。今までもかなり売れていたのですが、師匠と知り合ってからのローズ=ハイドランジェの売り上げデータを見ると、面白いぐらいに右肩上がり……どころか直角に近い上がり方です」


 アンリーナがニッコリと笑い握手を求めてくる。


「どうぞこれからも末永く我がローズ=ハイドランジェとお付き合いをお願いしたいです、師匠」


「バカ言え、お世話になっているのはこっちだ、アンリーナ。これからも俺のワガママに振り回されてもらうからな、覚悟しとけ」


 アンリーナとがっしり握手をし、笑い合う。人差し指にスッと何かが塗られ、アンリーナの手に握られていた紙に俺の指を押し付けてくる。なんだ?



 しかしまぁ、実際アンリーナがいなければ、ここまでジゼリィ=アゼリィは大きくなれなかった。いくらいいアイデアがあろうが、それを実行出来るノウハウに人材、資金が無ければ何も出来ない。


 その辺はアンリーナにかなり頼らせてもらったからな。お礼を言うのはこっちだって。



「……あと、言うか迷いましたが……彼等、このジゼリィ=アゼリィの常連である冒険者の方々がかなり頑張られていました」


 握手をしながら、アンリーナが迷ったように困った顔で考え込み、ボソっと話す。


 ジゼリィ=アゼリィの常連の冒険者? 世紀末覇者軍団のことか?



「この宿の増築の話が決まり、工事が始まったあたりでしょうか。彼等が私のところに来て、いつ出来上がるのか、正確に教えて欲しいと聞かれました。なんのことかと思いましたが、とても真剣に聞いてこられたので、こちらもキチンと調べスケジュールを彼等に渡したのです」


 なんだ? なんであいつ等がこのお店のリニューアルの日が知りたいんだ? あれか、常連だから一番に入店したいからとか、か?


「私も気になったので、うちの者に彼等のその後の行動を調べてもらったのですが、どうにも冒険者繋がりを活かし、お店のリニューアルのことをあっちこっちに宣伝されていました。かなりの規模で冒険者に人づてで伝わり、世界レベルでの宣伝になったと思われます。冒険者さんは世界中にいますからね、その情報網は侮れません」


 ……ま、マジかよ……あいつ等……そんなことをしていてくれたのかよ……。あんな、お前等どこの荒廃した世界のマンガから飛び出してきたんだよってぐらいのゴッツイ見た目なのに……。



「おそらくですが……彼等は師匠にとても感謝しているのだと思います。その時私はこのソルートンにはいなかったですが、銀の妖狐、それにこの街が襲われた時、ほとんどの住人が死を、この街の崩壊を考えたと思います」


 銀の妖狐、か。過去にとても大きな被害を受けたらしいからな。


 ラビコと共に旅をしていた、ルナリアの勇者。彼ですら為す術がなかったとか聞いたし。


「それを師匠が冒険者の力を集め、諦めず、恐れることなく立ち向かった。そして銀の妖狐を話し合いで追い返し、街への被害はわずか、人的被害はゼロ。こんな奇跡は誰も考えなかったことです」


 そう聞くとすごいことしたのか、と思うが……あの銀の妖狐のキモい話し方思い返して背中がゾクっとする。やたらボディタッチ多いし……そういう意味でも、もう二度と会いたくない。



「この街を守ってくれた。自分達には出来なかったことを成し遂げてくれた。今回のことは、この街を愛する彼等なりの恩返しだったのではないでしょうか」



 あいつ等……くそ、泣かせるじゃねーか。見た目ゴツイのに心優しき紳士なのかよ。



「しかし、どれも師匠がいたからこその結果。私にロゼリィさん、ラビコ様、アプティさんにペルセフォスの方々……中心に師匠がいたからこそ、この輪は出来上がったわけですし、維持されているのです。これがどれほどすごいことか……」


 アンリーナは世界で活躍する商売人だからな、人の繋がりの重要性は一番肌で感じているだろうしなぁ。じゃなきゃ、花の国フルフローラのときのような生産者さんへの挨拶回りなんてやらないだろうし。



「……というわけで、師匠はやはり商売人の魂をお持ちだと思うのです。そしてそれに見合う女性はこの私、アンリーナ=ハイドランジェただ一人! 二人は世界を飛び回り、その愛を深めていく……さぁ師匠、明日にも二人の挙式を……!」


 なんか急にアンリーナが興奮しだし、がっつり俺の手を握ってきた。


 俺が慌てて逃げようとすると、アンリーナがニヤァと笑う。な、なんだ、この嫌な笑顔は。


「先ほど、二人の愛の証の書類に師匠の拇印を押して頂きました。これで晴れて二人は夫婦……ああ、ついにこの日が来たのです! お父様にも師匠のことはお話ししてありますし、師匠ならばOKとの了承を得ています。さぁ、二人の愛という名の翼で世界に羽ばたきましょう!」


 アンリーナが手の中に隠していた紙を広げ見せてくる。


 どうにもこの異世界の婚姻届的なものらしい書類。そこの夫のとこにバッチリ俺の人差し指の拇印が押されていた。



「ヌッヒヒ……! やりました、アンリーナはやりました! すぐにこれを届けて……」


 悪魔のような笑い声を発し、アンリーナが宿から出ていこうとしたので、俺は溜息をつきながら指を鳴らす。


「アプティ、書類を回収だ」


「……了解しました、マスター」


 俺の声に反応したアプティが瞬時にアンリーナの前に立ちはだかる。



 アンリーナの必死の抵抗むなしく、アプティがすぐに書類を取り上げ俺の元へ持ってくる。


「悪いな、アンリーナ。こういうのはもう少し先に考えさせてくれ」



「あああああああああ……! ああああああ……愛の翼が……」



 書類の拇印の部分をちぎり回収。ふぅ、これで大丈夫か。



 まさか世紀末覇者軍団のいい話で俺を油断させ、婚姻届に捺印させてくるとは……アンリーナ、恐ろしい子。






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