三百三十七話 ジゼリィ=アゼリィ本店増築 9 海の家と夏のエレファント様
翌日、天気快晴、風微風。
湿度高めの生ぬるい風が肌にまとわりつく。まるでドライヤーの温風でも浴びているみたいだ。
本日、宿は工事で全施設お休み。厨房のせり出し工事で食堂が塞がれる為、宿も温泉施設も閉じている。
せっかくのお休みということで、一部スタッフさん達は街の中心街に買い物に出かけたり、家のお掃除をしたりと、思い思いの臨時休日を堪能するようだ。
「師匠ー、準備が出来ましたわー」
さて俺はというと、セレサとオリーブに誘われ海に来ることにした。
ソルートンの港から南に大きな砂浜が有る。ここは以前銀の妖狐と戦ったり、ラビコのお師匠様が住んでいた小屋がある、とかで何度か来たことがある場所。暑い時期にはかなり人が集まる人気スポットになる。
ああ、動物を笛一本で操る男、ハーメルともここで知り合ったな。彼はあれ以来、街の北側にある農園のオーナーのところで働いているそうだ。
「おお、悪いなアンリーナ」
急なお休みでやることがないスタッフ達を引き連れ、宿から鉄板やら魔晶石コンロなどの簡易調理器具を持ち込み組み立てる。
ただ遊ぶのも能がないので、臨時で海の家でもやってやろうかと。
「いえいえ。基本、こういうときの師匠の思い付きには乗っておこうと思っていますわ。人の集まる場所での我が社の製品の宣伝も出来ますし」
海で簡易販売所をやるとアンリーナに言うと、何人かの大工さんを引き連れて来てくれ、柱を建て、天井に布を張り、簡単な壁なし天井だけの小屋を作ってくれた。
そこに宿から調理器具と食材を持ち込み準備開始。
海に入って遊びたいかと聞かれると、NOで、そこで遊んでいる美しい水着様達を見たいかと聞かれると、俺は大声でYESと答える。
水遊びにはそれほど興味ない。でも俺は毎年海に行く。
なぜならそこには水着美女がいるからさ。
遊びに来て個人で棒立ちで水着様を舐めるように見るのは不自然だが、お店のスタッフとして突っ立ちながら水着様のお胸様を見るのは自然である。そう脳内会議で結論が出たんだ。この世界の犯罪基準は知らん。
「よし準備完了っと。じゃあみんな、これよりジゼリィ=アゼリィスタッフで海を満喫する。存分に遊んで、腹減ったらここに来い。俺が手製の焼きそばを奢ってやるぞ。冷たい飲み物もあるから好きなだけ飲め! 以上、お前ら遊んで来い!」
簡易販売所の準備も終わった午前十時。一旦スタッフを集め説明。
気温は三十度近く。強烈な日差しがジリジリくるなぁ。涼を求めてか、ソルートンの砂浜は多くの人で賑わい、かなりの混雑。
「おおおおお! 海だー! 可愛い子もいっぱいいるぞー!」
「泳ぐぞー!」
「今年こそ彼女を……!」
「ボール持ってきたよー、遊ぼー」
「うわぁ、夏って感じだねー」
俺の号令と共にスタッフの男達が欲望のまま砂浜を駆けていく。ナンパとか無謀だとは思うが、彼等に幸あれ。
スタッフの女性達はボールで遊んだり、夏の海の雰囲気を平和に楽しんでいる。
愛犬ベスも連れてきたが、俺の足元でリンゴを頬張りお休みモード。さすがに暑いのかな。
「あっはは~なにさ、遊ぶかと思ったらしっかり稼ぐのか~さっすが社長、抜け目ないなぁ~」
普段接客や調理で頑張っているスタッフ達には遊んでもらい、俺がここで調理する。メニューは焼きそばに炭火焼きの魚介類。あとは氷満載で冷やしてある飲み物。ああ、俺は飲めないがお酒も販売しているぞ。
そのお酒片手にラビコが水着で絡んでくる。もうお酒飲んでるのかよ。
スタッフには俺の奢りで提供するが、お店なので、他の一般のお客さんには安価で販売している。儲けは考えていないから、観光地ならではの高値ではなく安いぞ。ソフトドリンク1Gの百円感覚で、焼きそばは4Gの四百円感覚だ。
お酒はお店の値段まんま。
まぁ俺の目的はいかに不自然じゃない形で水着様を凝視出来るか、だからな。儲けなんてどうでもいいんだ。お金では得られないエロがそこにはある。
「稼ぐ気はねーよ。値段も安めに設定してあるし。普段頑張ってくれているスタッフさんにご飯と飲み物を提供しながら夏を満喫してもらい、ちょっとお店の宣伝をしようってやつさ」
ああ、表向きはそういう理由。俺は紳士だからな。
「ふ~ん……にしては下半身がすでに元気だけど~? 調理台で隠しながら水着さんを満喫しようって計画かい~? あっはは~」
ラビコが俺の軽く期待と夢で膨らんだ下半身を指し爆笑。
外からは見えないんだからいいだろ。俺の夢は無限に膨らむんだよ。
「あ、はーい。オレンジジュースですね。1Gになります、はいありがとうございました」
焼きそばを作る俺の左隣では、白い水着に軽くレースみたいな半袖を羽織ったロゼリィが飲み物販売を担当してくれた。
分かるだろうか紳士諸君、ロゼリィの露出多めの素晴らしい身体が至近距離で見放題なのである。そりゃー俺の夢も膨張するってもんだ。
「……マスター、ハンカチを持ってきました」
俺の後ろには無表情でいつものバニー姿のアプティが立ち、胸の谷間に挟んだ白いハンカチをアピールしてくる。いや、なんのことか知らんが、もう俺のエレファントにハンカチを引っ掛ける遊びはよしてくれよ。
アプティには魚介の炭火焼きを担当してもらっている。まぁ、網の上で焼きあがる頃合いを見てもらうだけだけど。
「ヌヌゥ……師匠の周りのメンバーおかしくないですか。なんで私以外全員胸が大きいのですか! いいですか師匠、小さいには小さいなりの利点がありますし、楽しみ方もあります。師匠なら小さな胸の良さも分かっていただけると思います!」
俺の右側ではアンリーナが自社の商品を持ち込み、宣伝しつつ販売をしている。
夏の日焼け止めクリームや汗の匂いを抑える冷感クリーム。水や汗に強い口紅やシャドウなどの化粧品を売っているぞ。
これが砂浜を訪れた女性に大人気。準備不足で来てしまい、この日差しの強さにどうしたものかと思っていた女性が次々と日焼け止めや、汗をかいてもにじみにくい化粧品を買っていく。
へぇ、こういう海の家って食べ物や冷たい飲み物がよく出るかと思っていたが、化粧品も売れるもんなんだな。
「お、落ち着けアンリーナ。お客さんが結構いるんだから、な」
確かにアンリーナの胸は小さい。水着を着ているので余計に大きさが分かるが、それでも俺にとっては大変ありがたいお胸様には違いない。
でも今はこの臨時販売所は結構混雑している状況なので、変な噂が起こりそうな発言は控えてもらいたい。
「隊長、キャベツ入れますよー」
「お肉も切ったのです。ドーンと投入なのです」
最初に海に誘ってくれた二人、セレサが焼きそばに入れる野菜を担当してくれ、お肉はオリーブが担当してくれた。本当は俺と三人だけで来たかったそう。
「悪いな、二人共。みんなと遊んで来てもいいんだぞ。せっかく海に来たんだし」
俺が股間を調理台で隠しつつ、不自然な姿勢で謝る。
「いいんですよ、隊長。私料理好きですから! あと、海に誘ったのは遊びたかったからじゃなく、隊長の側にいたかっただけですから。今がその目的を達成出来てますし!」
「なのです。あと隊長が変なことしないか見張る役もあるのです。セレサとこうやって左右でみっちり挟めば、変な行動も出来ないのです」
二人がぐいぐいと身体を密着させてくるが、それ以上は俺の夢が無限大に膨張するのでやめて頂きたい。
おっとお客さんがたくさん並んでいるんだ、さっさと作らねば。
「焼きそばくれ! ホラそこのポニテちゃんが切った野菜だけでいいから売ってくれ!」
「肉多めで。うっへへ」
俺の作った焼きそばは飛ぶように売れて好評なのだが、理由は味じゃなさそうだな。
「ロゼリィちゃーん! 水着珍しいなぁ、ジュースくれ!」
「うわ、宿のロゼリィちゃんだ。相変わらずすげー……オレンジ下さい」
隣の飲み物販売もすごい列が出来ているのだが、並んでいるお客さんはほとんど男。しかも見慣れた宿の常連、世紀末覇者軍団達もいるじゃねーか。
アンリーナのほうは女性の列が出来ているのだが、俺のほうには筋肉の男の列が。
水着のロゼリィとラビコにバニーのアプティ。さらに水着のセレサにオリーブと、周りにいる魅力的な女性達のせいで、俺の前が男天国になっているぞ。
「あっはは、社長~思惑が外れたね~。社長のとこに来るのは男の列~。まぁいいじゃない、おかげで下半身が静かだよ~あっはは!」
何かに気付いたラビコが爆笑。予想では見渡す限りの水着美女で、俺のエレファントが海パンを突き抜けるんじゃないかと危惧していたのだが……。
予想外の忙しさと男の筋肉で、俺のエレファントが臨時休業モードに。
「はい焼きそば上がりー! 野菜多めね、こっちは肉多め。え? 肉担当の可愛い子と握手させろ? バカ言ってねーで焼きそば食え!」
あああ……くそ! 焼きそば作るので手一杯で水着美女が視界に入らん。俺何しにここにきたんだ。夏のエレファント解放イベントじゃなかったのかよ!




