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7 異世界転生したら俺の家が出来たんだが

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三百二十六話 アンリーナの帰還とお風呂上がりの数字の3様


 それから一週間後、雲一つない青空の日。



「あっちぃなぁ……」


 港街ソルートンは焼けるような日差しに照らされ、外に出たくない暑さ。愛犬ベスは俺の足元で平気そうな顔。ベスは寒さにも暑さにも強いハイスペックドッグのようだ。


 先週から続くこの好天は、あれから毎日とても貴重な本二冊を拝んでいた成果だろうか。……関係ないか。



 朝食も終え、宿ジゼリィ=アゼリィ一階食堂のいつもの席で冷たい紅茶を頂きながら暑さにぐったりしていたら、お店の入り口に高級馬車が止まった。


「お久しぶりですわー! アンリーナ=ハイドランジェ、只今ソルートンに戻りましたわ! 師匠、私の愛する師匠は今どちらにー!」



 馬車から降りてきたのは、身なりの整った背の低い女性。いつものごとく、大変質の高そうなスーツをビシっと着た彼女は、お店に入って来るなりキョロキョロと店内を見渡し元気な声を出している。


「お、アンリーナじゃないか! 王都ではすまなかったな、おかげでカフェは大成功だよ」


 俺がさっと右手を上げ、入り口でプレーリードッグがごとく左右を見渡していたアンリーナに声をかける。


「あ、師匠ー! お久しぶりですわー! 長い間、寂しい想いをさせて申し訳ありません。さぁ、すぐにその穴埋めを……!」


 俺を見つけると照準を合わせ、ものすごい速度でアンリーナが俺の腹に突き刺さってきた。おほ……相変わらずアンリーナの体からは、ローズ=ハイドランジェ製のシャンプーとか香水のいい香りがする。



 彼女はアンリーナ=ハイドランジェ。歳はおそらく俺より一個下。


 魔晶石やバラのマークの高級化粧品、シャンプーなどの販売を手がける世界的企業、ローズ=ハイドランジェの一人娘で、ジゼリィ=アゼリィの王都進出計画に色々手を回し協力してくれた。本当にアンリーナがいなければ、カフェジゼリィ=アゼリィは成功しなかったと思う。



「ああ、この優しい手の感じ……癒やされますわ……それでは失礼をして……」


 元気に腹に飛び込んできたアンリーナの頭を撫でていたら、俺のズボンに手を突っ込んできた。んごっ……この行動力、さすが商売人……じゃねーよ! 


「こ、こら! ほ、ほら疲れてるだろ、奢るからお風呂入ってこいアンリーナ。今日はバラのお風呂なんだ」


 俺は慌ててアンリーナの力強い右手を引っこ抜き、宿の奥にある温泉施設を指す。


「バラの湯……! 以前入ったときは本当に感動いたしましたわ! ぜひ入らせて頂きます! 混浴はないのですか!? ない……と? そうですか……」


 俺がバラのお風呂と言うと、アンリーナの目が輝き出したが、混浴が無いと知るとしょぼんと下を向く。



 ジゼリィ=アゼリィの温泉施設は日替わりで色んなお風呂にしている。オレンジをいっぱい浮かべたオレンジの湯や、ハーブの湯、リンゴの湯……などやっているが、やはりバラをたくさん浮かべたバラの湯が一番人気となっている。


 赤、黄色、紫、ピンクなどのバラが湯船に所狭しと浮いているわけだ。その香りも然ることながら、見た目がまぁ豪華。ちょっとしたお伽噺の世界に入ったような雰囲気になるからなぁ。


 女性に人気なのは当然として、男の俺でもバラのお風呂はお気に入りだ。実際、バラの湯の日の温泉施設利用率は他の日より高い。



「おーアンリーナじゃないか~久しぶりだね~。お風呂いくかい~? 今日はバラが入っているからすっごいよ~あっはは~」


 宿二階の客室から水着にロングコートを羽織った魔女こと、ラビコが降りてきた。アンリーナを見つけ、笑顔で手を振り近付いてくる。


「ラビコ様、お久しぶりです。ご一緒させて頂いてよろしいでしょうか。長旅の疲れを少し癒したいです」


 アンリーナがかしこまって答えるが、まぁ、ラビコは王都では権力者だからな。


 国王と同じ権力を持つ結構な人物なんだが、見た目と言動がそれを感じさせない。気さく、と言えば聞こえはいいか。実際は単なるワガママ魔女である。



「ロゼリィ~一緒にお風呂入ろうよ~。アンリーナが帰って来たんだ~」


 ラビコが受付で接客をしていた宿の一人娘、ロゼリィに声をかける。


「はい、うわぁーまさかローズ=ハイドランジェのアンリーナさんと普通にお風呂に入れるような仲になれるとは思ってもいなかったので嬉しいです」


 ロゼリィがアンリーナを見てにっこりと笑顔になる。


 考えてみたらすごいよな、実際。ロゼリィにしたら、いつもお気に入りで買っていた高級化粧品の会社の社長の娘さんと、今こうして普通に楽しそうに話が出来ているわけだし。


 人の出会いってのは分からんもんだ。



「アプティ、一緒にお風呂に入ってこい。楽しいと思うぞ」


 俺の横で無表情で紅茶を飲んでいたアプティをお風呂に促す。あまり他人と関わりたがらないアプティだが、最近はロゼリィ、ラビコ、アンリーナと一緒に行動することが多かったからか、それほど警戒はしなくなった。


「……はい、マスターがそう言うのでしたら……」



「それとアプティ、ちょっと頼みがある。これは君にしか出来ない、大変過酷な任務なんだが……」


 女性の園に送り出す前に、俺はアプティに小声でこっそりミッションを伝えた。


 ああ、覗きたいのは山々だが、それは出来ない。いくら俺の世間体が地に落ちていようと、人間として超えちゃいけないラインはある。だが、アプティは女性。彼女がみんなと一緒にお風呂に入るのは何の問題もない。


 アプティが見た楽園を、あとで図解入りで事細かに報告してもらおうってわけだ。落ち着け紳士諸君。アプティならやってくれるさ。




「いや~いいお湯だった~。午前中のお風呂もいいもんだね~あっはは~。社長~ホラホラ、バラの香りがするだろう~?」


「おお、おおおお……」


 お昼前、お風呂から上がってきたラビコがいつもの席に座っていた俺に右腕を差し出してくる。


 おお、湯上がりの火照った体と表情がたまらん……! そしてバラのいい香り。


「あっはは~社長ってば腕より胸見てくる~。ド変態だ~」


 ラビコがゲラゲラ笑いながら抱きついてくるが、いいじゃないか見たって。目の前でかがまれたから、その豊かなお胸様が揺れていたんだよ。



「あ、わ、私も……バラです」


 後ろから慌ててロゼリィが駆け寄ってきて、左側に座り腕を差し出してくる。うっへ、湯上り美人ですなぁ、ロゼリィさん。


「ヌッフゥ……! 忘れていましたわ……この圧倒的不利な日常……! なんで師匠の周りにはこんなにスタイルのいい女性が集まるのですか!」


 湯上がりで上がっている湯気なのか、怒って出している湯気なのか見分けがつかない、怒りを露わにしたアンリーナが、自分のちょっと控えめな胸を触り地団駄を踏んでいる。


 さすがにロゼリィは半端ねーからな、体つきが。俺なんて毎日隙きあらばじーっと眺めているぞ。



 アンリーナにお昼ご飯も奢り、俺は一回部屋に物を取りに行くフリをしてアプティに合図を出す。


「悪いアンリーナ。すぐ戻るから、ゆっくりご飯食べていてくれ」



「はい、師匠。ありがたくご飯をいただきますわ」




 俺はさっと自分の借りている部屋に戻り、紙とペンを用意する。


「アプティ、これに頼む」


「……了解いたしました、マスター」



 アプティがサラサラとペンを走らせ、なにやら曲線を描いていく。


「……こうでしょうか……」


 描き上がった紙を俺に見せてくるが、俺が期待していたものとは程遠い……。


「これは……えーと……」


 紙に描かれていたのは、数字の3を横にしたような絵。大きな3と、ちょっと大きめな3、さらに小さめな3。


 どうやらロゼリィ、ラビコ、アンリーナのものらしい。


 お風呂に行く前に、みんなの胸をじっくり見て、あとで絵に描いてくれないか、とお願いしたのだが……どうやらアプティに絵の才能はないようだ。



 む、無念。


 ──胸だけに。




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