三百十九話 カフェ報告書と味方ZERO様
王都のカフェは多くの人に助けてもらい、大成功となった。
俺達は魔晶列車と馬車を乗り継ぎ東へと向かい、我が街ソルートンに帰還。
いつものごとくジゼリィさんが宴会を開いてくれ、宿の人達と常連さんが俺達が無事帰っきたことを祝ってくれた。飲み物はタダ、お酒は指定の銘柄が飲み放題で、食い物は金払えのいつもの方式。
そうそう、お土産があるんです、と宿の人達へ買ってきた物を配ったのだが……。
「うわぁ、これかわいい! ありがとうございます、隊長!」
花柄の飾りにカラフルなガラス球がついたチャームを見たバイト五人娘、じゃなくて王都に行く前にもう正社員になったんだっけ。
そのもう正社員の一人、ポニーテールが可愛らしいセレサが、カラフルなチャームを見て笑顔を浮かべて喜ぶ。
「おお、これは素敵なのです。王都はオシャレなところなのです」
さらに正社員オリーブこと、その持てるボディはロゼリィに匹敵するポテンシャルの持ち主様も喜んでいる。
……が、もう一つのお土産、青と白の大きなハンカチは反応が薄い。いや、まぁ当然だとは思うが。どう見てもカラフルで綺麗なチャームに比べてインパクトはないもんな。
「みなさん、その青と白のハンカチはペルセフォスの王族であられるサーズ姫様が選んでくれた物なんです……」
と、俺がボソっと言うと。急にみんなの目の色が変わり、ハンカチ褒め合戦が始まった。
「え……サ、サーズ姫様が選んで……! 本当ですか隊長! そう言えばこれはペルセフォスカラーで素晴らしいデザインだと思ってました! ね、オリーブ!」
「も、もちろんなのです。やはりこの国に住んでいる以上、このペルセフォスブルーは心に染みるのです。というか隊長、サーズ姫様とはどういったご関係なのですか。王族でありながらこの国の代表とも言えるほどの騎士様で、大変お美しい女性なのです。どうして隊長がそのサーズ姫様とご一緒にお土産を買っているんですか」
セレサとオリーブが何かを誤魔化すように褒めだしたが、途中から大変答えにくい質問になっているな。
俺、サーズ姫様と一緒にお土産選んだとは一言も言っていないと思うんだが。なぜすぐにバレたんだ。オリーブさんは何かの能力者なのですか。
サーズ姫様が選んでくれたハンカチということで、他の人達はかしこまった感じになっているが、セレサとオリーブがぐいぐい体を俺に押し付け、俺とサーズ姫様の関係を聞こうとしてくる。
「いや、その、ラビコがいるおかげで俺も仲良くしてもらっていて……」
「……マスターが二十歳になったら肉体関係を持つそうです……」
俺がなんとか誤魔化そうとしていたら、横に無表情で立っていたアプティがボソっと呟いた。
ああああああ……そういや帰りの朝、ハイラが一緒に来るとか揉めて、そのときサーズ姫様が俺が二十歳になったら逃げられないように行動を起こす、とか言っていたけど……。
色々端折り過ぎじゃないすかね、アプティさん。
「!? た、隊長……? それってどういう……」
「おお……肉体……それはどういうことなのですか、隊長。もしやロゼリィさんやラビコ様にアプティさんだけでは物足りないと……? それならこっそり私に言ってくだされば、肉体的にご満足をご提供出来るのです」
それを聞いた二人が余計迫ってくる事態に。あとオリーブは何を言っているんだ。
「あっはは~いやぁさすが社長、人気者だなぁ~。でも~その辺にしとかないと、鬼がでちゃうよ~。あっはは~」
壁際にセレサとオリーブに追いやられ困っていたら、ラビコがニヤニヤ見てきた。……が、すでにその背後にドス黒いオーラを放つ鬼が見参。
「……ふふふ、どういう状況であれ、うちの可愛い従業員さんに手を出したら、例えあなたでも許しませんよ? ふふふ」
俺は必死に謝り、黒き鬼に取り憑かれたロゼリィを解放。俺はただお土産を渡しただけで、何もしていないと思うんだがな……。アプティとオリーブの発言のせいなんだが、まぁ謝っておこう。ロゼリィ、キレたらこえーし。
「がはは、始まったぞいつものやつが」
「だな、あのショーがあるからこの店の酒が美味いんだってな、うはは!」
お前等どこの荒廃した世界から来たんだよ、という髪型モヒカンやら肩のアーマーに棘つきの鎧着た筋肉の塊軍団こと、世紀末覇者軍団が俺を見て笑っている。
くそ、見てろよお前等……この宿を増築したらファンシーでカラフルな可愛らしいデザインにして、お前等の見た目と完全ミスマッチにしてやるからな。
笑いとトラブルの絶えない宴会も終わり翌朝。
王都のカフェの簡単な売上実績と報告書をオーナーであるローエンさんに持っていく。事務室に入り、中に居たローエンさんとジゼリィさんに頭を下げ挨拶をする。
「おはようございます」
「やぁ、おはよう。昨日はお疲れ様。ああ、これが王都のカフェの……と、これ、桁間違っていないんだよね? だとしたらすごいね……」
ロゼリィのお父様であるローエンさんが、俺の手渡した報告書を見て驚いている。うん、俺も驚いたし、歴戦の商売人であるアンリーナすら驚く売上を叩きだしたからなぁ。
俺は簡単に王都でのカフェの経緯を話し、サーズ姫様、ラビコ、ハイラが店員として協力してくれたことなどを伝える。
「……なるほど。それはすごいことだなぁ。僕も見たかったなぁ、その現場。いやぁ、君がいると、どんどん話が大きくなっていくもんだから、僕がついていけていないよ、ははは」
ローエンさんが笑う。あ、大きくなる話、ちょうどいいからそれも伝えておこう。
「ということでローエンさん今度はこちら、このソルートン本店を増築します。すでにローズ=ハイドランジェのアンリーナには相談をして、協力をしてくれると言ってくれました。そしてすでにアンリーナが準備で動いています」
お金は俺が出す。王都の飛車輪レースで得た、ソルートンにある分のお金を使い切ってもいいぐらいだ。
「あ、あれ本当にやるのかい? しかももう動いているとか、君の決断の速さと根回しの周到さは恐れ入るよ、ははは……いや、君に任せっきりではダメだね。うん、分かった、やろうじゃないか。若旦那がこんなに頑張っているんだ、僕も決断の時だ」
俺の言葉に驚き、ちょっと迷っていたローエンさんだったが、頭を振り真っ直ぐに俺を見てきた。
「これだけ王都で売上を出してくれたんだ、もちろん宿からもお金は出すよ。あとジゼリィとも話したんだが、君の毎月お給料を増額することになったよ」
おっと、お給料増えるんですか。それはありがたい。
「ああ、あんたを逃がすわけにはいかないからね。その為なら払うもんは払うし、うちの娘を抱いたっていい。うん、さっさと抱いて子供作りな」
ずっとローエンさんの横で、不気味におとなしかったジゼリィさんが悪魔のような微笑み。
「今回もうちの娘はダメだったみたいだし、もうこうなったらあんたから抱いてもらうしかないね。ホラ行くよ、観念してロゼリィを抱きな」
ゆらりと黒いオーラを纏ったジゼリィさんが、俺をヘッドロック。うへぇ、やっぱこの人ロゼリィのお母さんだわ。グラマラスな体といい、怒りのオーラの雰囲気といい、そっくり……。
「むはっ……ジ、ジゼリィさん……そういうのは本人同士の気持ちというものが……」
細身なのに、なんつー腕力なんだジゼリィさん。さすが元勇者パーティーの守りの要。半端ねぇ……。ズリズリと俺を引きずり、部屋を出ようとする。
「何言ってんだい。ロゼリィは最初っからあんたが好きなんだよ。いつもビクビク下を向いていたのに、あんたに出会ってからはあんなに楽しそうに笑っているんだ。心を覆っていた深い闇を、想いという光で振り払ったんだ。こんなこと、よっぽど好きな相手にじゃないと出せない力さ。だから遠慮なくロゼリィを抱きな」
あ、いや、その俺の気持はどこに……。それに俺まだ十六歳なんで、そういうのはまだ早いかなーなんてヘタレな言葉が頭をよぎるわけで。
ロゼリィのことは好きだけどさ、これラビコに見られたら怒られるって。
「はいジゼリィ~そこまでさ~。うちの社長を離してもらおうか~。共に死線をくぐり抜けた元仲間だし~手荒な真似はしたくないんでね~」
ほらきた、ラビコ。事務室を出た途端、ラビコがキャベツ片手に睨んできたぞ。
「ふん、娘の幸せを願うのは親の務めさ。悪いが譲れないね」
うーん、元勇者パーティーの二人が睨み合い。お父様であられるローエンさんは、困った顔で微笑むのみ。
俺の味方はどこにいるんだ……と嘆いていたら、愛犬ベスがダッシュで俺に走り寄ってきた。おお、さすが俺の愛犬……ご主人様を心配して……。
ジゼリィさんに引きずられる俺を見た愛犬ベスが、それ新しい遊びなの!? と大興奮して俺にアタックを仕掛けてきた。アタックじゃなくて俺を助けてくれ、ベス。
俺には味方が一人もいないのかよ……。




