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6 異世界転生したらカフェを作ることになったんだが

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三百九話 マジカルにはなれなそうな俺と茶葉販売様

 

 ソルートンで手に入れたマリアリブラという本は、何やら大変貴重な物だそうだ。



 とりあえず王都に来るときについでに持ってきて、サーズ姫様に相談してみようと思ったのだが、アンリーナが面白いぐらいの反応を見せてくれた。




「し、師匠、これはほほほ本当にすごい物で、使おうと思えば国家間の取引材料に出来るクラスの物ですわ! ど、どうして師匠がこれを……!?」



 世界を股にかける商売人、アンリーナが震えながらヨダレをたらすクラスなのか。そしてこれは魔法の本、ってことはついに俺の魔法覚醒イベントが……!


「マジカル俺、ついに爆誕……」


「前も言ったけど~これ自体にはなんの魔力もないからね~。だってこれ練習用の書き込みアイテムだし~」


 俺が目一杯腕を伸ばし、高々と奇跡の本を掲げ、少年の瞳で異世界の夢を叫ぼうと思ったらラビコに冷静に突っ込まれた。


「残念ですが師匠、これはそういった類の魔法アイテムではないのです。世界の宝と言われる所以は魔法的価値ではなく、本来書き込んで使うアイテムが数百年の間、未使用で残っているという点なのですわ。そしてこれはマリア=セレスティア様がご子息に作ったとされる特別製。本来セレスティアの王族に伝わる物で、それが外に出てきたというのが信じられないというか……」


 アンリーナにも俺のマジカル化計画が完全否定された。


 もっと夢で溢れていてもよくないか、異世界よ。



「あっはは~そう落ち込むなって~。魔法なんて使えなくたってさ~社長にはこうして人を繋ぐ力があるじゃないか~。社長はさ~集まった有能な人の先頭に立つ騎士じゃなくて~有能な人材を後ろからコントロールする軍師タイプだとラビコさん思うんだよね~。今はこうして商才のほうに振っているけど~これを戦闘で発揮させたら国を動かせるクラスだと思うんだ~」


 ラビコがニヤニヤ笑い、俺の右腕に抱きついてきた。

 え、それじゃあ俺、勇者にはなれないのかよ。みんなを守る騎士とか、先頭に立つ勇者とか憧れがあるんだが。


 かっちょいい勇者になったうえでド派手な魔法が使いたいんだ。二刀流ってやつ。器用貧乏じゃなくて、オールマイティでスペードのエースな。



「いえいえ、あなたはそんな物騒な役柄じゃなく、宿屋の若旦那が一番似合っています。ほら、今回だって王都カフェ計画が大成功じゃないですか」


 ロゼリィがグイっと俺の左腕を掴み、その豊かな胸を押し当ててくる。オホー、この素晴らしい感触、これはどんな勇者だろうがイチコロですわ。


「そ、そうですわ! 師匠は商売人が一番似合っています! 今回のカフェの売上データを出せば、お父様も二つ返事で結婚を認めてくださるはずです。さぁ師匠、このままお父様の元へ一緒に行きましょう!」


 アンリーナが慌てて俺の腹に突撃してきたが、勇者で軍師で経営者とか最強じゃねーか。いいな、それ。全部採用だ。



「……誰と一緒になろうがマスターはマスターです……。私はずっとお側にいます……」


 アプティも近付いてきて、勢い良く俺の尻を下からすくい上げ、鷲掴みしてきた。もっふ……側にいてくれるのはありがたいが、何なのいつも……この尻アタックは。




 なんにせよ、トラブルはごめんだぜ。とりあえず皆の頭を撫で、落ち着かせてさっさと移動開始。


 

 階段付近で女性騎士達に囲まれ困っていたイケメン騎士、リーガルを発見。これはちょうどいい、とサーズ姫様にお会い出来ないか聞いてみた。


 女性騎士達はラビコを見て驚き、焦って頭を下げ、ささーっ散っていく。



「た、助かったよ……よく分からないけど、一緒に魅惑のダンスを踊りませんかと彼女等に迫られて困っていたんだ」


 リーガルがほっとした顔で俺を見てきた。


 魅惑のダンスねぇ、なんで彼女達がリーガルを誘っているのか、俺にはさっぱり分からないわ。本当に。

 ああ、暇な時はまたカフェで半裸頼むよ。




 すぐにサーズ姫様に話を通してくれ、五階にある応接間に案内された。


 豪華な美術品や鎧、剣などが飾られた、学校の教室ほどの広さのお部屋。おしゃれなテーブルに椅子が中央に置かれている。

 テーブルに置かれていたガラス製の綺麗な紅茶セットをサーズ姫様が丁寧に扱い、紅茶を振る舞ってくれた。


「ありがとうございます。うん、とても美味しいです」


 サーズ姫様自らいれてくれた紅茶は香りよし、色よしで、すっと甘みがくる上品な物。


「ははは。そうか、よかった。実は君のお店で紅茶を飲んで以来、はまってしまってな。街のお茶屋さんで、君のところで出している銘柄を買ってみたんだ。これがまた美味しくてな。お値段が張るのが難点だが、良い物だな紅茶とは」


 ちなみにそれおいくらだったんですか、と聞くと、百グラム百Gしたそうだ。た、高い……。グラム一万円感覚かよ。


 これはミンダリノワールだな。

 そうか、茶葉も安めに販売してみようか。結構売れそうな予感。


「アンリーナ。茶葉をカフェで売れないかな。もっと紅茶が美味しいお店だとアピールしたいんだ」


 正面に座って紅茶を美味しそうに飲んでいたアンリーナに相談。


「なるほど、それはいいですわね。グラム百Gとか、ちょっと儲け主義すぎますわ。うちならこれより質のいい紅茶葉をグラム四十Gで出せます。ラベンダルのガウゴーシュ農園さんと、ローズアリアのグリン農園さんという信頼出来る生産者さんがいますし」


 おう、その二つの農園は俺達も現地を回ったしな。

 ぜひ王都の人に、リーズナブルに質の良い紅茶を楽しんで欲しい。



「おお、君のカフェの味が個人でも楽しめるのか。それはいい、ぜひ販売が始まったら教えてくれ。すぐに買いに行くぞ、はは」


 サーズ姫様が俺達の話に身を乗り出してきた。


 お、これは本当に売れそうな感じ。もうちょっと話をつめるか。

 


「それで、用とはなんだろうか」


 俺がアンリーナと銘柄の値段を相談していたら、サーズ姫様が首をかしげ聞いてきた。


 おっと危ねえ、お忙しいサーズ姫様の貴重な時間を無駄にさせてしまうところだった。俺は慌ててカバンから例の本を取り出す。ラビコがやれやれ顔。



「サーズ姫様、これをご存知でしょうか。ラビコとアンリーナが言うには、セレスティア王国に伝わる貴重な本、マリアリブラという物らしいのですが」


「マリアリブラ……!? す、すまんが、ちょっと見せてもらっていいだろうか」


 俺の言葉と出された本にサーズ姫様が驚きの顔。本を丁寧に触り、表紙と中を軽く確認している。



「これは……本物だぞ。セレスティア王国の博物館に飾ってある物を見たことがあるが、同じ物であると言える。しかも番号の表記がないうえに未使用品……。まさか、いや、そうとしか……おそらくこれはオウセントマリアリブラという、世に出てはいけない物だ。どうして君がこれを……?」


 サーズ姫様が少し震える手で本を置き、真面目な顔で俺を見てきた。



 ラビコ、アンリーナ、そしてサーズ姫様にも本物認定されたぞ、この本。


 これを売ってくれたあの女店員、マジで何者なんだよ。






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