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三十話 公園の王子様 3


「しかしラビコ様、この待遇は少し劣悪なのでは……」



 王子が宿屋の酒場でバカ騒ぎしている世紀末覇者軍団の声や、六畳ほどの贔屓目に見ても綺麗とは言えない小さな客室を見回し言葉を漏らす。



「あっはは~私この街出身だし~懐かしいし、居心地がいいとしか思わないさ~」



「これは失礼を……。しかし、望郷もよろしいのですが……そろそろ王都にお戻り願いたいのですが……」


 王子がなにやら手紙をラビコに渡した。


「ふ~ん……お国の騒動に駆り出されるのは今は面倒だなぁ~。それにこの程度~、リーガル達だけでポポイと片付くと思うけど~」


「しかし万が一と言うこともありますし……!」


 俺、部屋帰っていいかな。夕食の仕込み手伝ってバイト代欲しいんだが。




「ラビコ、立て込んでいるんなら夕食の仕込み手伝ってきたいんだが」


「ん~そうだねぇ、夕食後にまたお話再開~」


 さーて今日は夕食何かなー。イケメンボイス兄さんの新メニューが楽しみだなぁ。





「ラビコ様、あの男は一体……」


「んふふ~私の社長さんさ~。も~毎日楽しくて仕方ないよ~」






 本日のメニューはビーフシチュー。


 たまねぎたっぷり、お肉やわらか。小さなパンが二個にデザートが洋ナシタルト。


 兄さん半端ねぇっす。



「本当に最近女性のお客さんが増えましたねー」


 宿の娘ロゼリィが酒場兼食堂を見回し微笑んでいる。


「お弁当販売で知名度が上がったのと、常時デザートが数多く並んでいる強みが他のお店を大きく上回っていると思います」


 実際、イケボ兄さんの料理はおいしい。そしてデザート開発の才能あり過ぎ。


 この街の中でも屈指の食堂と言える。



「あと、お酒もメニュー増やしましたしね。今までビールに地酒だけだったけど、フルーツ果汁や炭酸で割った見た目が綺麗なカクテルの販売を始めて女性のハートをがっちり掴んだみたいだし」


「それもほとんどあなたのアイデアですし……ふふ、やっぱりすごいなぁ。お父さんもあなたのことすっごく褒めていましたよ? あれなら婿に迎えてもいいと言ってくれました!」


 水を噴く。


「……ロゼリィ、牛乳くれ」


「あ、はい。今持ってきますね」


 ロゼリィが機嫌よく牛乳を取りに行った。普段オーナーとどういう話してんだよロゼリィ……。





「すごいな……この食堂、見たこと無いメニューがたくさんあるよ」



 王子がセットメニューのビーフシチューをお盆に乗せて俺の向かいに座った。


「随分悩んでいましたね。まぁ、身分の高そうな人には合わないかもしれないですね」



 王子はカウンターでメニューをじっくり見ながら、かなりの時間うんうん悩んでいた。


 なんか国の偉い人っぽいし、そういう人にはジャンクメニューに見えるんだろうなぁ。


「いや……正直、僕が普段食べている物よりおいしそうで参ったよ。このシチューとか、ものすごい深い味がするんだね。宮廷メニューでもなかなか無いクラスだよ。国のみんなに食べさせてあげたいな」


 イケボ兄さんの才能を甘くみんなよ。あの人の料理は世界で通用すんぞ。



「おら~しけてんじゃねぇぞ~酒飲めリーガル~むはは~」



 酒片手に俺の右に座ったラビコがもう出来上がっている。早すぎ。


「お前、アーリーガル……だろ?」


「それがラビコ様は、長い! と申されましてリーガルと呼ばれています」


 アーぐらい言ってやれよラビコ。


 まぁラビコが呼んでいるんなら、俺もそうしよう。


「じゃあ俺もそう呼ぶぞ。リーガル」


「はは、どうぞご自由に。シチューおいしいです」




「ちょっとラビコ……くっつき過ぎですよ!」


 牛乳を持って来てくれたロゼリィが俺の右側にピッタリくっついているラビコを見て、イラリとしている。


「ふっふ~ん。酔っぱらいには何も聞こえませんなぁ~発情女はだまって配膳してな~あっはは~」


「……! なんですって! このエロキャベツ!」


 うーん。まーた楽しく食える雰囲気じゃなくなってきた。どうしてこいつらいつもこうなんだ……。


「はは、ラビコ様がこんなに楽しそうにしているのは久しぶりに見たよ。国ではいつも緊急待機状態だったから……」


 真面目なラビコって想像付かないんだが。いっつも何か企んだ魔女みてーな顔してっけど。



「なるほど……君を中心とした輪に入っているからか。失礼だが、今の君の職は……冒険者なら相当なランクなのかな?」


「街の人です」


 リーガルのスプーンが止まる。



「街……?」


「街の人」



 俺は真顔で答える。


 嘘じゃねーよ。冒険者センターでかわいい判子もらったし。


「カ、カードを見せてくれないか!」


 センターで鑑定して貰うと、結果の書いたカードが貰える。それが簡易身分証明書になる。


「あいよ、これ」


 ポケットから俺のカードを放り投げる。受け取ったリーガルがそれを見て震えだす。


「ま、街の人…………こんなかわいい判子が貰えるんだね……」


「ああ」




 リーガルが俺とラビコを交互に見て、何か言おうとしている。


 分かるぞ、お前の気持ち。俺が一番分かる。


「か、帰りましょうラビコ様! 国に……!」


「や~よ。社長の許可がないと、無☆理」



 リーガルの顔が面白いぐらい青くなっていく。

 

 ラビコ連れて帰ってくれたら俺の借金増えなくて済むな。


 


 名案だぞ、リーガル。頑張って説得してくれよな。







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