二百九十八話 ジゼリィ=アゼリィ王都進出計画 14 俺の憧れと金額プレッシャー様
「なんか格好良かったなぁ、リーガル。俺もああいうのに憧れるんだが」
王都に着いた翌日の朝八時半すぎ。
泊まらせてもらっていたお城を出て、歩きカフェジゼリィ=アゼリィへと向かう。
昨日の夜はサーズ姫様とハイラの飛車輪で一瞬で運んでもらったが、歩くとやはり遠いなぁ。
お城から街へ向かうには、お城を囲い守るように作られた分厚い防壁を七枚超えていかないといけない。迷路のように道が入り組んでいて、結構面倒。
「ぶっっ……あっはははは! あはははは~!」
そこら中にいる警備の騎士達に注目されながら防壁迷路を歩く。このペルセフォス王都では国王と同じ権力を持つというラビコがいるからか、やはり騎士達の視線がすごい。みんな敬礼しているし。
その緊張感の中、当の本人は俺の未来の輝かしい勇者像を聞いて大爆笑。
お城を出るときにリーガルに話しかけられ、王子様みたいな見た目とザ・騎士みたいな発言に俺がちょっと少年の瞳で憧れてみたのだが、ラビコが腹抱えて笑いだす始末。
笑うにしても、せめて理由言えよ……。ひたすら笑うって俺のガラスのハートが粉々だぞ。まぁすぐ元に戻るんだが。
「あっはは~……ごめんごめん。なんか騎士の鎧着て、ビシっと敬礼しながら真面目なことしか言わない社長想像したら笑わずにはいられなくて~あっはは! ……あ~涙出てきた」
そ、そこまで笑うことか。つぅか、俺っていつも真面目だろ。
振り返ってみたら、ロゼリィにアンリーナ、シュレドまで笑ってやがる。アプティは興味なし無表情。
「でも先生が騎士になって王都にいてくれたら、私すっごく嬉しいです。昨日サーズ様が言っていた英雄にふさわしい身分を考えているというお話、それを受けて私と王都で暮らしましょう、先生!」
ハイラが笑顔で抱きついてきたが、そういや昨日サーズ姫様がなんか言っていたな。
でもそのそれなりの身分ってやつを受けたら、なんか制限ありそうでなぁ。俺はまだこの異世界の全てを見ていないんだ。ラビコのように、ルナリアの勇者のパーティーとして冒険し、世界を見た後という状況なら考えてもいいのかなぁ。
「多分~あの変態姫が考えている身分って、以前リーガルも言っていた『特別騎士』なんじゃないかな~。いくら銀の妖狐を撃退した英雄様とはいえ、社長は知名度がないからね~。このラビコ様クラスの知名度と実績があれば王族同等の権力もらえたかもだけど~、あと見た目がしょぼいんだよね~あっはは~」
確かに俺にはラビコのような知名度がない。
いや、いらないけどね。有名になると色々面倒そうだし。俺は今のままでいい。
そういや初めて王都に来た時、リーガルにそんな話をされたな。確かその後にロゼリィがラビコ対策として王都にカフェを作る、とか言ったんだっけ。
あれが今、現実のものとなり、もうすぐ開店となるわけだ。世の中何が起きるか分からんもんだな。
って、ラビコ最後に見た目がしょぼいとか言ったか。
許さんぞ、俺が着ているオレンジジャージは日本産の一流メーカー品なんだぞ。しょぼいとかありえない……あ、顔とかそういう話? 悪いが純イケメン騎士リーガルと比べるのはやめて欲しい。負け確、である。
ラビコがゲラゲラ笑いながら俺の右腕に抱きついてきた。ちぇ、まぁいいか。右腕にラビコの柔らかき物、左腕にはハイラの柔らかき物。これが味わえているし、それでいい。
いつもの定位置、左腕にハイラがいるので、ロゼリィがちょっと不満そう。アンリーナもウヌヌ、とか唸っているし。
七枚の防壁を徒歩で抜け、やっと街に入る。
向かって右側がペルセフォス国立図書館。そしてその正面にあるのが、ついに完成したカフェジゼリィ=アゼリィ。昨日の夜見た時とはやはり違って見えるな。昼間なせいもあるが心に余裕があると、視野が広まるってもんだ。
「しかし、建物が大きくて驚いたよ。まさかソルートンのジゼリィ=アゼリィより大きいとは思わなかったし」
なんとなく、小さなお店をイメージしていたんだが。
「建物は三階建となっていますわ。王都、しかもお城の目の前、この好立地は勝ちが確定しています。我がローズ=ハイドランジェからも、お父様自ら出資のお話をいただき、かなりの予算を回していただけました」
アンリーナがなにやらパンフレットのような宣伝チラシを見せてくれた。簡単な見取り図が書いてあって、内部も相当広いことが分かる。
しかしアンリーナのお父さんのほうから出資の話が来たのか、すごいな。
今回は俺からも五十万G出しているぞ。日本感覚で五千万円だ、五千万円。
「ソルートンのジゼリィ=アゼリィからと、師匠からも出資いただき、ローズ=ハイドランジェから、さらにはラビコ様からも多額の出資をいただきました」
アンリーナの発言に俺が慌ててラビコを見る。ラビコもお金出してくれたのかよ、知らなかったぞ。
みんなも驚いたらしく、視線がラビコに集まる。
「あれ~? 私言ったと思ったけど~。王都で美味しいパンケーキ食べられるなら私も出資するって~。それにこれは社長の行動だし~夫のことを助けるのは妻の役目さ~あっはは~」
ラビコがあっけらかんと笑うが、ラビコだけアンリーナの表現が多額の出資、だからな。相当の金額なんじゃないか。
「あ、その、ありがとうございます……ラビコ。まさかお金を出してもらえているとは……」
それを聞いたロゼリィが驚き、ラビコに頭を下げる。
「あっはは~、いいのいいの~。もう使い切れないぐらいお金あるし~親友と夫の為に使うのに迷いなんてないさ~」
俺を夫と表現していることに不満がありそうだが、ラビコが自分を親友と言ってくれたことにロゼリィが少し嬉しそうにしている。
「うおおおおおおお……! ふ、震えが……!」
ちょっといいムードをシュレドの雄叫びがぶち壊した。ど、どうしたんだよ、急に頭抱えて吼えて。
「全く金額の予想なんて出来ないっすけど、どう考えても相当の金額動いているじゃねーか! これ失敗したら俺どうすりゃいいんだ……だ、旦那、俺貯金なんてちっともない……」
あ、金額の話はもうやめよう。
この話、全てシュレドにプレッシャーとしてのしかかっているわ。




