二百七十六話 神の料理人兄弟様
花の国フルフローラから帰ってきた日の夜、俺達の無事帰還祝い宴会が開かれた。
例によってジゼリィさんの計らいで、飲み物はタダの食べ物は金払え方式。もはや慣れた世紀末覇者軍団なんかは俺達が出かけると帰ってくる日を予想して、その日にここで待機しているようになっている感じ。
あいつらの学習能力は意外とあなどれない。
「おー帰ってきたか! いつ見てもヒョロいなぁオレンジ兄ちゃん、ガハハ!」
「な、言ったろ? 絶対今日だって、うはは!」
見慣れた、どこの劇画漫画から出てきたんだよ軍団が俺に挨拶をしてきたりしたが、俺は普通に夕飯のシュレド特製のシチューをいただき、すぐに部屋で休んだ。眠いしお酒飲めないし。
翌朝、愛犬ベスを引き連れ二階の客室から一階の食堂へ降りていく。
「ふわーぁ、ロゼリィー紅茶くれー」
宿の受付のほうにロゼリィがいたので紅茶をお願いすると、すでに脇に紅茶ポットが置かれていた。あれ、用意していてくれたのか。
なにやら慌ててアルバムらしき物を閉じて、笑顔で紅茶のカップを手渡してくれた。お、さすがロゼリィ。いい感じにぬるめに温度調整がされている。
アルバムか。
そういや高価とは言え、ロゼリィの家は昔からカメラがあったそうだからな。ロゼリィの小さいころってどんなだったのかなぁ。興味はあるが「見せてくれよ」とかこちらから土足で踏み込める領域じゃあないよな。
その後アプティが洗濯物を抱えてきたが、洗いたての俺のパンツ丸見えじゃん。これ誰向けのサービスだよ。ロゼリィが苦笑いするなか、慌てて隠していたら二日酔い気味なラビコが降りてきた。
大人組は昨日かなり遅くまで飲んでいたご様子。ラビコが眠さと頭の痛さを我慢しつつ、いつものごとく俺の右側にどっかと座る。
「ふわわ~今日は何かな~およよ、二日酔いにはたまらないメニューじゃない~」
ラビコがメニューの表紙に貼ってある手書きのメニューを見ながら声を上げた。本日のセットメニューなど、毎日変わる内容のところは紙に手書きになっている。
「本日の朝食セットは、オレンジサラダにとろける玉ねぎスープか。ヘルシーだな、うん」
これ、イケメンボイス兄さんが気を使ってくれたメニューってことかね。
「はい、お待たせみんな。今日の朝食セットのオレンジたっぷりサラダと玉ねぎスープだよ」
おや、ジゼリィ=アゼリィが誇る神の料理人、イケメンボイス兄さんが自ら朝食セットを運んで来てくれた。そういえばイケボ兄さんイケボ兄さん言っているが、本名はボーニング=ハーブさんと言う。ぜひ覚えてくれ。
「あざっす、兄さん。うわ、オレンジが山盛りだ」
「はは、フラロランジュ島からいいオレンジが大量に仕入れ出来たんだ。軽く塩漬けした生野菜達と蒸した鶏肉、そしてフレッシュで甘いオレンジのハーモニーを味わってくれ。玉ねぎスープは弟のシュレドが作ってくれたんだ。あ、パンはカウンターでお好きなのを二個までご自由にどうぞ」
うーん、オレンジのいい香り。玉ねぎスープもうまそうだ。
「あ、兄さん。シュレドは……どうでしょうか」
もうすぐ王都にカフェを開くのだが、そこのメイン料理人はイケメンボイス兄さんの弟であるシュレドになる。
このジゼリィ=アゼリィの冠を付けたお店になるので、当然料理長であるイケメンボイス兄さんのお眼鏡に適わないとだめなんだが……。
「うん、なんの問題もないよ。今すぐにでも僕が自信を持って送り出せるぐらいかな、はは。さすがにシュレドは才能の塊だよ。いつか僕なんかよりすごい料理人になりそうだなぁ」
うわっ、まじすか。兄さんベタ褒めじゃないすか。
そういやイケボ兄さん、最初はシュレドに料理を習っていたと言っていたな。元から才能はあったのか、シュレド。
つうかイケボ兄さんの一族ってもれなく全員料理人なんだっけ。どんだけ優れた一族で、どんだけ血のなせる業なんだ。
「うま~うま~あっはは~相変わらずここの料理は美味しいね~」
ラビコが上機嫌。まぁ、正直花の国フルフローラでそれほど美味しい物はなかったしな。紅茶はさすがに美味かったけど。
やはりジゼリィ=アゼリィが誇る神の料理人、イケメンボイス兄さんの作り出すものは一味違う。そして玉ねぎスープはシュレドの物か。
「うん、美味しい。玉ねぎスープもいいな、たしかにこれなら兄さんに負けないパワーを感じるぞ」
「そうですねー、スープも美味しいです」
左のロゼリィもご満悦。正面に座っているアプティも、セットメニューを無表情ながらも美味しそうに食べている。俺の愛犬ベスにもイケボ兄さん特製メニューを出してくれ、ベスが野生の犬がごとくがっついている。落ち着け、ベス。
なんにせよ、兄さんの許可は出た。そろそろ動き出すぞ、王都カフェ計画が。




