二百七十三話 俺を狩ろうとする者達様
「そ、それでは夜のビスブーケも満喫いたしましたし、予定通り午後十一時にソルートンへ向けて出港となります」
午後十時半、花の国フルフローラ最大の港街ビスブーケに停泊してあるアンリーナの船へと戻った。
帰り道は途中にあるカエルラスター島には寄らず、ソルートンへ直行。アンリーナの豪華高速魔晶船なら、普通の船の半分の時間で着くのがありがたい。
十二時間後の午前十一時にソルートン港到着予定。寝て起きたらもう着いている感覚か。
花の国フルフローラ最後の夜は、港街ビスブーケでお土産を買おうと出かけたのだが……。夜店、男達がたくさんいた、で察するべきだったなぁ。
ちゃんとジゼリィ=アゼリィのみんなへのお土産は買ったのだが、その後、俺がエロ本騒動を起こして土下座コースになってしまった。
土下座はまぁいいんだが、せっかく来た花の国フルフローラの最後の夜を、俺のせいで潰してしまったのは申し訳ない。
アンリーナから軽く航程の説明も終わり、俺達は時間も時間なんで各自の部屋で寝ることに。さすがに疲れたし、寝るか。
「おやすみ、ベス」
「ベスッ」
ベッドに潜り込む前に愛犬ベスを撫で、おやすみの挨拶。
カチャカチャ──キィ……キキィ
眠かったのですぐ寝たのだが、何かドアが開く音がする。なんだ……今何時だ……深夜十二時過ぎ、ベスは……警戒なし。
アプティか? そういや鍵かけなかったな。いつもこのぐらいの時間に来ていたのか、アプティは。
「はぁはぁはぁっ──」
「……ぶ、……じょうぶ……はぁっはぁっ……わ、わわわ私が! ぅぇぇええええーい!」
荒い息遣いが聞こえたと思ったら、意を決したような声と共に何者かが俺のベッドに飛び込んで来た。
「な、なんだ!? アプティじゃないのか……ろ、ロゼリィ……?」
明らかに違う行動だったので誰かと思ったら、ロゼリィが下着姿同然で俺に抱きついている。な、なんでロゼリィが?
「ぅぅう! こ、こんばんわ! あの、その、なんというか月が綺麗なんです! だからその私が、わわわ私が……私があなたの欲を……か、かかかかいしょー!」
何言っているのか分からん。うう、でもロゼリィすっげーいい香りだし柔らかい……ぐぬっいかんいかん!
なんだか興奮しているロゼリィの肩を両手で優しくつかみ、距離を保つ。目をしっかり見て俺は正気であるとアピールし、ロゼリィが落ち着くのを待つ。
「……ぁ、う、ごごめんなさい。やはりあなた相手に勢いではダメですね。こんな状況でも触ろうとしなかったり、冷静に優しく接してくれるんですね……ふふ」
ロゼリィが顔は真っ赤のままだが落ち着きを取り戻し、いつもの感じに戻った。
「あっはは~違うね~そういうのをヘタレっていうのさ~」
ドアのほうからいきなり第三者の声が聞こえ、ビビって見たらラビコがニヤニヤしながら入り口の壁にもたれかかっていた。いつもの水着一丁でロングコートは無し。い、いつの間にそこに……。
「いや~参ったな~まさかロゼリィが一番に行動を起こすとは思わなかったよ~あっはは~」
「そうですわね。まさか私が三番手だとは……。こういうことにロゼリィさんは奥手だとばかり。考えを改めないといけませんわ」
「……マスター、大人気」
ラビコの後ろに下着姿のアンリーナ、いつものバニー姿のアプティがいる。なんでこんな時間に俺の部屋に全員集合してんだよ。
「なんなんだよ、こんな時間に集まって」
ため息混じりに言うと、ラビコがツカツカと歩いてきて俺の右側に座り身を寄せてきた。
「なにってアレさ~さっきのエロ本&ショーの件さ~。たまに社長がああいう行動に出るってのは~溜まっていらっしゃるんじゃないかな~と思ってさ~」
う、確かにビスブーケの夜店でエロ本購入未遂は犯したけど……。
「だ、だからあれは謝っただろ。もう正気になったよ」
「ちっがうよ~社長ってばそんなだから童貞なんだよ~。そうじゃなくて~欲は誰にでも湧くものさ~それを咎めているんじゃなくて~。今ここに来た私達は~その欲を他人に向けられるのが嫌だって言ってんのさ~」
いつも思うが十六で童貞って普通だよな? な? ……え、嘘だろ。こういうのは二十歳超えたら、だろ?
「ま、とりあえず集まった私達の思いは同じなわけだから~はい社長仰向けなってね~あっはは~」
俺が十六歳と二十歳の差を考え、そういえば三十歳まで極めれば魔法使いになれるとか聞いたな……とか熟考していたら、ラビコが俺をベッドに押し倒してきた。
「うわっ、何すんだ! むっは」
仰向けにベッドに転がされた俺の胸の上に、ラビコが動きを抑えつけるように座ってくる。お、お、お、お尻が目の前に……や、やわらけぇ!
「チャ、チャンスです! ぅぇええい!」
それを見たロゼリィが奇声を上げながら俺の膝の上に座ってきた。オホー……ラビコよりロゼリィのお尻のほうが柔らかい感じ。
「ヌフ……ヌフフフフ! き、来ましたわ! 三番手で大正解でしたということです! 失礼します師匠……それでは皆さんお久しぶりのご対面ですわ!」
悪魔のような笑い声が聞こえ、アンリーナが俺のジャージのズボンに手をかけ迷うことなく一気に脱がしてくる。ちょ……なにしてんだお前等! しかも器用にパンツまで一気かよ……た、助けろベス! ご主人様のピンチだぞ!
「ベッス、ペスン……ムスムス」
俺の緊急信号をキャッチした愛犬ベスがピクっと反応するものの、軽くクシャミをしてすぐに丸くなって寝てしまった。
おい、ベス!
「うっは~すっご~あっはは~」
「はぅぅ……何度見てもすごいです……」
「ヌフ……これです、これ! あああ、さすが師匠……」
視界はラビコのお尻がいっぱいで俺の股間の状況がつかめん。とりあえず全て見られているようだが。
「ちょっ……やめいお前等! ちぃっ! ア、アプティ……マスターとして命令だ、俺を助けろ!」
何やらアンリーナのズボンの脱がし方が気に入らないらしく、空中でいつも俺にやっている脱がし方っぽい感じで手を動かしていたアプティに命令をする。こうなったらアプティしか味方はいねぇ。
「……了解いたしましたマスター」
軽く目が紅く光ったアプティが構え、瞬時にラビコの脇をくすぐり、ロゼリィの耳に吐息を吹きかけ、アンリーナの背筋を指でツイーっとなぞった。
「うっひゃはは!」
「んん……ひん!」
「ヌッヒャァァ……!」
時間にして五秒だろうか。
流れるように動いたアプティが三人をあっという間に排除し、俺を守るように立つ。か、かっけぇ……ちょっと惚れる。
「こらぁアプティ~! いいところだったのにぃ~!」
ラビコがすぐさま抗議の声を上げてきたが、すまんな……アプティは俺の忠実な部下なのさ。寝てたら洗濯だ、と勝手に俺の服全部脱がしたりしてくるけどな。
「そうですわ! みんなで楽しむべきです!」
アンリーナが果敢にアタックしてくるが、アプティが軽く受け止め押し返す。狭い船内の部屋だ、みんな無茶はしないと思うが……。
「へぇ、この私とやろうってのかいアプティ~。キャベツがなくてもそこそこキツイのはいけるんだけど~」
ラビコが紫の光を放ち、構える。
おいバカやめろ。船壊す気か……さすがにこんな豪華な船の弁償なんて出来ないぞ。
さぁて、俺は今夜一睡でも出来るんだろうか。
俺は無事ソルートンに着けることを輝く月に乙女のように願う。




