二十七話 魔法が使いたいオレンジ少年様
異世界には魔法がある。
そう、これこそ俺が求めていた異世界だ。
「魔法が使いたい」
俺はそう輝く月に願う。
「なぁにやってんの~社長~。ま~た変な噂が広がるよ~?」
時刻は夜八時過ぎ。酒場が一番賑わう時間だ。
俺は宿屋兼酒場の入り口で一人手を合わせ、祈っていた。
「いいんだよ、祈りってのは多くの人の想いが乗ったほうが、より届きやすいんだよ」
「あはは~社長はやっぱり面白いな~。そういういつも前向きな考え方、私好きかな~」
あーそりゃどうも。
魔法。
手から火が出たり、空を飛べたり……あああああ、魔法使いてぇ。せっかく異世界に来たってのになぁ、なんで俺なんの能力もないんだよ。
こないだの深夜、俺は初めて魔法を見た。
杖が怪しく光り、天から降り注ぐ光の衝撃波が俺の体を貫いた。
俺に向かって放たれたのが最初に見た魔法ってのがあれだが、貴重な体験だった。
「なぁラビコ、俺に魔法教えてくれ」
酒場でイケメンボイス料理人の本日のオススメデザート、バナナスムージーをずりずり吸っていたラビコに頭を下げる。
「ベスも使えるから~ベスに習ったら~?」
マジかよ! 俺の愛犬ベスは魔法使えるのかよ!
「あいつとは心は通じているが、言葉は通じない。無理だ」
「あはは~冗談さ~。ベスの魔法は特殊だからね~人間には真似出来ませ~んっと~」
俺もバナナスムージを注文。
うん、うめぇ。イケボ兄さん、ちょっと日本で流行っていたデザートや料理の特徴を教えると、見事にこの世界の食材で再現するから驚くばかり。あの人、デザートの神だわ。
「あのさ社長~魔法ってのは思ったことを具現化することで~、さっき社長は月に祈っていたけど、あの願いがもし叶ったら、それがなんと魔法の発動ってことに~」
「……? お、おう……よく分からんぞ」
祈って、その願いが叶ったら魔法? どういうこっちゃ。
「魔法って大雑把に言うと二種類あって~。自分の内なる力を使って放つものと~自分じゃない他の物から力を拝借して放つ物があるのさ~」
月に祈って願いが叶ったら、月の力を借りて願いを叶えたから月の魔法使いってか?
いや、そういう言葉遊び的なのじゃなくて、派手にドーンと攻撃出来るやつとかさぁ……そういうのが欲しいの。
「いや、俺は分かりやすい奴がいいんだ。ほらこないだラビコが俺に使った攻撃魔法とか、ああいうやつ」
「あっはは~えっと~……社長は発動しないタイプの月の魔法使い……っていうお話で綺麗にまとめようとしたんだけど~。う~んっとぉ……社長は才能なし☆ あっはは!」
うわああああああ……言葉遊びで誤魔化そうとしていやがったのかよ!
「だって社長~冒険者センターでちゃんと調べてもらったんでしょ~?」
ああ、なんか鉄のワッカを何個もくぐったよ。サーカスの見世物かと思ったぞ、あれ。陽気な音楽流れてたし。
「ああ、街の人ですねとかわいい判子押された」
「じゃあ~……無☆理」
うわあああああ……! 異世界にはもう夢も希望もねぇ!
あるのは毎日増えていく多額の借金のみ。俺何しにここに来たんだよ……。
「だぁいじょうぶだって~。その分社長の周りには強い人が集まるようにバランス取れているっぽいし~。私だって本来、この街に戻ってくるつもりは無かったのさ~。それがある日、馬車が道を間違え、大雨で街道が遮断されて戻れなくなり、この国の王都に行こうとしていたのになぜか私この街にいたし~。そしたら目に飛び込んできた全身オレンジの奇妙な少年、こりゃ~話しかけないと可笑しい状況ってやつでさ~あっはは~」
なんだそりゃ……ってやっぱりこのオレンジジャージがトラブルの原因なのかよ! 分かったもう明日すぐに目立たない服買うわ。
「あっはは~不思議だよね~なにか仕組まれたかのように社長に出会ったのって~。しかも聞いたら社長~すでに結構な人物達と繋がっているし~。これって何なのかな~ラビコさん胸がドッキドキ~」
白……いや黒のほうが目立たないのか? 迷彩……いや、黄色……うーん。
「あ~そうそう~こないだのレンタルアーマーだけど~、社長のテーマカラーのオレンジで探しておいたからお楽しみに~」
ちょっ……何オレンジで決めてんだよ! 俺のテーマカラーってなんだよ!
「ヤメローーー! これ以上トラブル抱えるのはごめんだ! 普通の……」
「あれぇ……色指定なら追加料金頂くけど~?」
「…………………………………………」
「………………………………」
「…………オレンジで……」




