二百五十三話 花の国フルフローラへ 4 目覚めの柔肌神様
ソルートンを出港したアンリーナの船、グラナロトソナスⅡ号は南へ進む。
「あっちぃなぁ……」
どんどん気温が上がっていくのが肌で分かるな。窓から入る太陽の光がジリジリと暑さを伝えてくる。
愛犬ベスは普通に元気。寒いケルシィや魔法の国セレスティアでも変わらず元気だったが、うちの犬には苦手な条件ってないのかね。
アンリーナからの説明も一段落し、俺達は各自時間を過ごしている。
さすがに部屋が暑いので窓とドアを開放しているが、それでも暑いものは暑い。すると部屋の上の隙間から音が鳴り出し、冷風が出てきた。
「なんだよ、クーラー的なものがあるのかよ」
そういやケルシィの魔晶列車や、魔法の国セレスティアでは温風が出てくる装置があったな。水か氷の作用がある魔晶石を利用したシステムか何かなんかね。冷風を逃さないように窓を閉め、ドアも閉じる。
「……ハッ! しまった……! 俺はとんでもない失態を犯した……!」
ドアを閉じた途端、俺は頭を抱え激しく後悔をする。さっきまで船内は窓や部屋のドアを開けておかないとキツイぐらい暑かった。
当然俺は上着を脱ぎ、半袖シャツにジャージのズボンも膝上まで捲くっていた。なぜなら暑いから。
お気付きか、紳士諸君。
当然同じ船内にいる女性陣も同じ思いをしていた。そう、同じ思いをしていた。もう一回言う、同じ……。
「クソッ……! 間に合ってくれ……!!」
俺は部屋を飛び出し、獣のごとき俊敏な動きでロゼリィの部屋を目指す。冷房が入ってまだ一分、大丈夫、間に合うさ。
「神よ……! 俺にロゼリィの柔肌を拝むチャンスを……!」
部屋の前のソファーが置いてあるロビーでアプティが熱い紅茶を飲んでいる。正気か……。恰好はいつものバニー。露出が多くていつも目の保養をさせてもらっているが、今回はスルーだ。
「……マス……」
俺に気付いたアプティが熱い紅茶をカップに注いだが、今はいらん。すまんが俺に宿る柔肌神はそれを求めていないんだ。
ラビコもいつも水着。これはいつでも見れる。アンリーナ……確かに彼女の柔肌も魅力だが、俺の柔肌神はロゼリィだと言っている。いつも肌の露出が少ない服を着ているので、彼女の美しい身体を見るチャンスは数少ない。
ペルセフォス王都にあるラビコの研究所の温泉でついにその裸を一度見たが、あれは俺の脳内永久保存領域にバッチリ大事にしまってある。出来たらまた見たい……!
カエルラスター島に着けば水着になってくれるかもしれない。ああ、それは分かっている。だがそれはそれ。俺は今、この瞬間、ナウ見たいんだ。分かってくれるよな、紳士諸君。
「ロゼリィ! カフェのことで相談があるんだ、君じゃなきゃ出来ないお話が……開けるぞっ、間に合ってくれっ!」
ドアは閉じていた。俺は軽く残像が出るほど高速でノックをし、優しく語りかける。
中から物音がして「あ、ちょ……少しお待ちを……」と聞こえたが、俺は少年のごときけがれなき純真な目の輝きを放ち、いささか乱暴にゲートを開け神が待つというエデンの園へ飛び込む。
「きゃっ……ど、どうしたのですか……? そんなに血相を変えて……」
──この世に神などいない。
ロゼリィはいつもの露出少なめの服。なにやら机で日記を書いていたらしく、それを慌てて閉じたようだ。
俺は膝から崩れ落ち、一筋の熱い涙が頬を伝っていく。
「ん~? どったの~? あ~ラビコさん分かっちゃった~あっはは~」
騒ぎに気付きラビコがロゼリィの部屋に入ってきた。
「社長はね~ロゼリィがこの暑さで薄着だと期待したんだよ~。さっき冷房が入ったから慌てて走ってきたんだけど、ロゼリィはいつもの露出少なめの衣装でご覧の通り力尽きた、と。あっはは~欲丸出しで失敗しちゃったね~社長~」
ラビコがニヤニヤと俺の肩を叩き、見事に俺の行動を言い当てた。くそ、なんで分かるんだよ。魔女め。
「お、当たりかな~? そこそこ社長の行動は側で見てきたからね~なんとなく分かっちゃうんだよね~あっはは~」
ラビコが大爆笑。
「そ、そうなんですか? それなら私じゃなくてもいつも水着のラビコやバニーのアプティがいるのに……」
ロゼリィが困ったように言ってくる。いつも見れるのと、たまにしか見れないじゃ価値が違うんすよ……。
「社長はロゼリィの身体を見たかったみたいだよ~。ちょ~っと妬けるなぁ。いつも水着だと価値が薄く感じるのかな~? ならたまには私も厚着をしよっかな~あっはは~」
すいませんラビコ様、嘘を言いました。
いつも見れる水着と揺れる胸は最高です。ぜひその水着スタイルを貫いて下さい。
僕、応援しています。




