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二十五話 生姜天の涙様


「うどん、うめぇ」




 最近、たまに来る宿屋の近くにあるうどん屋さん。


 なんと一杯2G、日本感覚二百円というコスパの良さ。


「く……白身魚揚げは追加2Gか……うどんもう一杯食えるじゃないか」


 追加料金を払えばトッピングは自分で好みの物を選べる。


 まぁ、俺はいつも無料トッピングの生姜、鰹節、天かすだけで食べているが。


 

 にしても、なんだか妙に日本のあのうどん屋さんに似た雰囲気なのはなぜなのか。



「いつかは追加料金8Gの、海老天5本盛りを当たり前のように注文したいもんだぜ」




「すいません、追加の海老天をお願いしますわ」


 くっ……! 当たり前のように海老天追加……! なんとセレブな野郎だ。


 どんな頭してんだよ、トッピングにうどん5杯分当たり前に支払う奴は。安く済ませる為にここ選んだんじゃねーのかよ。


 注文カウンターにいたのは、大きい帽子を深めにかぶった女の子。子供……? 見た目俺よりは年下に見える。


 注文したうどんを受け取った女の子は混雑する店内を見回し、空いていた俺の横に行儀よく座った。



「はぁ……いい香り。生姜と鰹節と海老天の混ざったこの香り……香水で作れないかしら」


 何言ってんだ、こいつ。


 実に食欲のそそる香りではあるが、そんな香水つけたら人間以外の色んな生き物が寄ってきて大変だぞ。



「あら……? 失礼、あなたは海老天はお嫌いなのかしら」


 素うどんを食べている俺を不思議な物を見る目で見てきた。


 好きです。食いたいです。でもお金がないです。


「いや、好きですよ。おいしいですよね海老天、出来たら毎日食いたいですよ」


 適当に受け流して、早く冒険者センターで仕事探してこないと。


「……! そうなのです……私は毎日海老天うどんを食べたいのです! それなのにお父様ときたら……!」


 底のほうに沈んだ生姜、鰹節、天かすをダシと一緒に一気にすする。うは……これこれ、このジャンク感がたまらん。



「明日は奮発して生姜天いってみっかぁ……じゃ、俺はこれで」


「……!? 待ちなさい! オレンジ服!」


 食い終わったのでさっさとお店を出ようとしたら、ジャージの裾をぐいっと引っ張られた。ああ、服はいまだに学校指定の真オレンジジャージです。だってお金ないし。


「生姜……天とは何ですの。教えなさい」


「……? トッピングのやつですよ。ほら、カウンターの上に生姜天1Gって書いてあるでしょ」


 俺はカウンター上の追加メニューを指す。


 なんだ? 一番お高いメニューしか目に入らない超セレブ様なのか?



「……生姜とは、このフワフワした物のことよね?」


「うん。その生姜を薄くスライスして揚げたのが生姜天」


 ジャージが伸びるので、手を離してくれませんか……。


「このフワフワしたものをスライス? あなた私を馬鹿にしているのかしら」


 はて……この子、生姜の元の形を知らないのだろうか。


「えーと、じゃあちょっと待っててね」


 手を離してもらい、カウンターで単品で生姜天を注文。




「はい、これが生姜天。おいしいよ」


 女の子は興味深く生姜天を眺め、カプっと食いついた。


「……! 最初ぴりっとするけど、衣の甘さと混ざっておいしい……これが生姜天……」


 お口に合ったようでよかったです。じゃ、俺はこれで。



「う……ぅぅううう……」


 女の子が泣き出した。


 ……えっ!? ちょっ……何? 俺なんかしました!? また俺に女を泣かせた男という悪いイメージが付きまとうんですかい。


「私はあんなに嫌いだったお父様と、結局同じことをしていた……なんて視野の狭い未熟な子供なの……」 




 ああ、すでに周りでヒソヒソ話が聞こえる。


 生姜天を奢ったら泣かれたこのお話は、一体どういうふうに尾ひれがついて広がっていくのかなぁ……それはそれで興味がある。


 他人事だったらすげー面白そうだ。オラわくわくすんぞ。








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