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5 異世界転生したら花の国があったんだが

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二百四十七話 甘い想いのアリストキャンディーデイ様


「ああそうそう社長~はいこれ~」



 食堂で花の国フルフローラの写真や資料を見ていると、ラビコが唐突に綺麗に包装された物を渡してきた。


「ん、なんだ? 結構お高そうな物だけど」


 なんか有名なお店のマークが入ったお菓子。クッキーだろうか。


「あれれ~リアクションうっすいな~このラビコ様からアリストキャンディーもらえるなんてなかなかないんだぞ~」


 ありすと……? これクッキーだし。どういうこった。


「すまんラビコ、俺って本当にど田舎出身でこういう文化に疎いんだ。なんだ? アリストキャンディーって」


「んん~? あっれ~本当に知らない感じだね~。アリストキャンディーデイって言って~昔、貴族の間で流行った風習なのさ~。好意のある男性に女性がキャンディーを渡して想いを伝えるっていう素晴らしいイベントさ~」


 んーと、あれかいわゆるバレンタインか? どこの世界にも似たようなイベントが流行るもんなんだな。


「今日がイベント当日だからさ~街の男達がそわそわしているわけさ~あっはは~みんなもらえるといいね~。ああ、今ではキャンディーだけじゃなくて~甘い物ならなんでもいいって形になっているのさ~。社長ってば飴玉って雰囲気じゃなかったから~クッキーにしてみたのさ~」


「なるほど、すまんな俺みたいな田舎者はこういうとき困るんだ。ありがとう、ラビコ。すごく嬉しいよ」


 日本時代含め、家族以外から貰えた初めてのバレンタインになるぞ。ああ、こっちではアリストキャンディーデイか。ありがたくラビコから綺麗な包みを受け取る。正直暴れたくなるぐらい嬉しいが、ここは紳士を気取っておこう。


「いえいえ~社長に渡すの一番乗りみたいでラビコさん満足さ~あっはは~」


「うう、タイミングを計っていたら先を越されてしまいました……。あ、あの! これ私の気持ちです!」


 ロゼリィが慌てて後ろに隠していた綺麗な箱を渡してくれた。ありがてぇ、同時に二人からもらえるとか俺って主人公みたいだぜ。


「うわー嬉しいなぁ。マジでありがとう、ロゼリィ」


 お礼を言うと、ロゼリィが顔を真っ赤にして下を向いてしまった。


「……マスター、イチゴどうぞ」


 紅茶にケーキを楽しんでいたアプティが、無表情にケーキに乗ったイチゴを一個俺の口元に運んできた。蒸気モンスターであるアプティもその風習を知らなかったようで、二人の様子を見て手元にあった物をくれたようだ。

 俺はそのままイチゴを食べる。


「あ、ありがとうアプティ。嬉しいよ」


 アプティは相変わらず無表情だが、俺のお礼にコクンと頷く。


 異世界来てよかった……うう、涙が出るぐらい嬉しい。


「あっはは~あ~あ、泣いちゃったよ社長~。これぐらいで泣くとか今までどんだけ女性に縁がなかったんだよ~」


 い、いいだろ。マジで嬉しいんだから。


「隊長ー! お菓子どうぞ!」

「んふふ、食らうがいいのです」

「兄貴! 存分に五人の愛を食べてくれよな!」

「みんなで買いに行って選んだ……受け取って欲しい」

「アルバイトさんから愛を受け取り食べる。アイ噛む、アイバイト、アルバイト~」


 バイト五人娘が元気にお菓子の包みを持ってきてくれた。最後のフランカルのセリフは無視していいよな、意味わかんねーし。


「おお、いいのか貰って。嬉しいなぁ……うう、生きててよかった……」


「た、隊長! え、泣いて……ど、どうしたんですか!?」


 俺が泣いていることに驚くセレサ。嬉し過ぎて涙が止まらないんだよ。


「あっはは~社長ってば生まれて初めてキャンディーデイに女性から甘い物貰えたんだってさ~暗い青春時代だったんだね~お~よしよし」


 ラビコが爆笑しながら俺を抱き寄せ頭を撫でだした。くっそ……顔に当たる水着越しの大きなお胸様がなければすぐにでも振り払うのだが、なぜか抵抗出来ない。どさくさで頬ずりしておこう。


「うっははっ……こら社長~顔動かすなって~胸がムズムズするって~」


 や、やわらかい……ふとロゼリィを見たらキレる寸前だったので頬ずりをやめた。命には変えられん。


「そうなんですか!? うわ、意外です。隊長、すっごいモテそうなのに」


 セレサが驚きの声。今まで全くモテませんでしたが、何か。




 食堂が混んできたので花の国フルフローラの旅行パンフレットや写真を片付け、みんなに頂いたお菓子達を大事に部屋に持ち帰る。


「やったぞ、ベス。ご主人様についにモテ期が来たぞ」


 部屋で寝ていたベスを抱き寄せ喜びを分かち合う。ベスは俺が持ってきた甘い物の香りに興味津々で、鼻をヒクヒクさせている。



「し、失礼します……!」


 貰ったお菓子をベスの届かない棚の上に飾っていたら、ロゼリィが部屋に入ってきた。声裏返っているぞ。


 ド緊張した様子のロゼリィが俺の部屋のベッドに腰掛ける。どうしたんだ?


「あの、さっきの私もやってみたい……です……」


「さっきの?」


 なんのことかと聞くが、ロゼリィは顔を真っ赤にしてモジモジと下を向いてしまった。


「あ、あの、そのさっきのラビコの……よしよしを……ぅ、ぅううえええーい!」


 下を向いて何事か呪文のようにつぶやいていたロゼリィが、後半急にキレて威嚇するように両手を上げ俺の首根っこを掴み引き寄せてきた。


「むっは……こ、これは素晴らしいボリューム……」


 流れるような動きで抱き寄せられ、俺の顔がロゼリィの大きな胸に押し付けられる。これはすごい……ラビコより大きいのが頬に伝わる感じで分かる。



「……わ、私も初めて家族以外の男性にキャンディーを贈りました。怖かったです、受け取ってもらえるか……受け取ってもらえなかったらどうしよう、そんなことばっかり考えていたらラビコに先を越されてしまいました。とても悔しかったです……」


 ロゼリィが強く俺の顔を自分の胸に押し付ける。


「でもよかった……あなたは笑顔で受け取ってくれました。嬉しかったです……とても……とても嬉しかった……」


 俺の頬にポタと何かが当たる。見るとロゼリィの目から涙が溢れている。


「ご、ごめんなさい……怖かったのと、嬉しかったので変な感情が抑えきれなくて……ごめんなさい、ごめんなさい……ぅぅうう、あああ……」


 ロゼリィがマジ泣きし始めてしまった。

 そうか……そうだよな。渡すほうは怖いよな、受け取ってくれなかったら……と考えたら怖く思えてしまうのも分かる。


 俺はロゼリィの腕を解き、逆にロゼリィを俺の胸に優しく抱き寄せる。


「ありがとう、ロゼリィ。君はずっと俺に優しく接してくれた。困っていた俺とベスを笑顔で受け入れてくれ、ご飯まで作ってくれた。ロゼリィの優しさがなければ、俺達はここまで生きてこれなかったよ。出来るならこれからも君の側にいたいと思う。しっかり恩を返したいんだ」


「ぅううう……はい、はい……! 側にいて下さい……ずっと、ずっと……!」


 ロゼリィが大粒の涙をこぼし、俺に抱きついてきた。

 



「……どうしたのですか。真面目な顔でマスターの部屋の入口に寄りかかって」


「よぅアプティ~。あっはは、なんか今は入れないんだ~ホラ、アプティ紅茶おごるよ~下行こうか~」




 受けた恩は必ず返す。俺はその想いをしっかり胸に刻み、ロゼリィの頭を優しく撫でた。







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