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二十四話 深夜にあの本が欲しいと願った男の末路様

 

 夜中、俺は一人宿屋を出る。




 少し肌寒い風が頬を撫でる。時刻は深夜二時過ぎ、昼間の賑わった状況とは違い静かな街道を歩く。


 開いているお店は無く、人もほぼいない。


「夜中出歩くってテンション上がるよな」




 別に寝れなくて深夜の気まぐれ散歩ではない。今日の俺には壮大な目的があるのだ。これは誰にも相談出来ないし、俺が一人でやりきるしかない過酷な使命。



 街のとある一角、そこに俺は行かねばならないのだ。





 異世界に来て不便なこと第一位、それはネットが使えないこと。


 これがどれほど健康な男子達を苦しめたか……。


 みなまで言うな……聡明な貴殿達はもう気付いているだろう? そう、エッチィやつが見たい!!!


 ああ見たい、ぜひ見たい、とても見たい。今すぐ見たい。


 ああいいさ、引くなら引いてくれ。でも俺だって健康な男子なんだ、そういう欲があって当たり前じゃないかっ!!


 でもこの世界でそういうのって本しか無いのよね。いや、本があってくれて良かった。よくぞ生き残っていてくれた。



「さぁ、行こう。輝く栄光の道へ」




 色々調べた結果、街のとある場所にそれはあるらしい。


 酒場にいた歴戦の勇者にそれとなく聞いてみたら、営業時間、買いやすい時間帯、ラインナップまで事細かにペラッペラ教えてくれた。


 勇者に憧れる俺としては、その経験談はとても実のある濃い話だった。




「あそこか……」


 裏路地の暗い通路の先に、ぼんやりと明かりが見える。


 ギリギリまで近づきお店の中を確認、中には現在二人先客がいるようだ。お店から少し離れた場所に身を隠す。



「ち、早く出て来いよ。恥ずかしくて入れないだろ」


 一人が出てきた。なんだよあの満足気な顔は……ってあいつ! 紙袋二個分も買いやがったのかよ! 


 くそっ……俺は買えて一冊だってのに……。


 どうする? 行くか? いや、まだ一人中にいる……焦るな、時期を待て。





「みっけぇ!! 容疑者発見! これより強制確保に移る……観念しな、この夜逃げ野郎!!」


 背後で聞いたことのある声がしたと思ったら、バチバチと光る紐みたいのが飛んできて、俺の足に絡みついた。俺はバランスを崩し、地面にキス。にがい。


「っつ! なんだ!? 盗賊か何かか?」


 確かにはっきり言ってここは物騒な世界だし、こんな時間に一人でウロウロしてる弱そうな奴なんて格好の餌食か。


「まさかテメェがこんな根性の無い野郎だとは思わなかったぜ! 純情な少女を本気で泣かせるたぁー罪が重い。しかし相手が悪かったな! 天をも操る高位な魔法使い、ラビコ様からは逃げられやしないのさ!」


 ラビコ? なんでここに!? 


 つかこの喋り口調、キャベツ効果時間内のほうか。なんでこんな深夜にキャベツ使ったんだよ!



「死なねー程度にお仕置きしてやる! 雷でも喰らって反省しろ……オロラエドベル!!」


 キャベツの刺さった杖から紫の光が溢れ、ラビコの遥か上空が眩しく光り、生まれた光が一点に収束……次の瞬間俺の体は光に包まれた。


「うわわわわ……! ま、魔法!? ラビコやっぱ魔法使えるのか……」


 俺が恋焦がれた魔法。異世界に来たからには使ってみたい、使えないなら見てみたかった魔法。それが今、俺の目の前に……! 出来たら違う状況で、見たかった……!!




「もぎゃあああああ……!!」






 次の日、俺は元気に生きている。


 恐る恐るラビコに事情を聞いてみると、深夜に人目を忍んで怯えるように宿から俺が出て行ったのをロゼリィが目撃したそうな。


 多額の借金を背負い、宿代の支払いもギリギリで冒険者としての力も無い自分に辟易として全てを投げ出して逃げようとしたのか、最悪自決……と思ってしまい、泣きながらラビコに捜索を依頼したそうな。


 ラビコもこれは一大事、と深夜にも関わらずキャベツを使用。能力フルバーストで俺を探したんだと。


 俺は昨日のは寝付けなくて、ひっそり深夜の散歩とシャレこんだだけだと説得。


 逃げるにしても俺の大事なベスを置いては行かない……と部屋で寝ていたベスを引き合いになんとか納得してもらった。




「はぁぁ……疲れた……」


「疲れた、じゃないですよ! 私、本当に心配だったんですから! もう二度と紛らわしい行動はしないで下さい!!」


 ロゼリィがマジで怒っている。


 すいません……そういうんじゃなくて……でも本気で心配してくれていたのは、正直嬉しい。それでもロゼリィを泣かせてしまったのは俺が悪い。



「……ごめんなさい。もうロゼリィを泣かせるようなことはしません」


「………………はい。なら、いいです。でも、本当にそういう状況になったのなら、私も……連れて行って下さい。私を頼って下さい。私は……例えどんなに悪い状況だとしてもあなたの側にいたい、あなたの支えになりたい」


「ロゼリィ……」



 ああ……なんていい子なんだ。それだけに余計本当のことは言えない……。




 深夜、どうしても我慢出来ずにエロ本買いに行きました、なんて……。














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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんでそこまで構うんだ、理不尽だな〜
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