二百三十話 突如沸き起こるアピールタイム様
セレスティアで一番というノギギに聞いてみたが、遠く離れた場所にいる人と会話が出来るような魔法はないみたい。
魔法の種類の話をラビコから教えてもらったが、俺にはなんとなくしか理解できなかったというこの魔法の才能の無さ。
この世界の住人では扱いが難しいとされるイマジネーションタイプの魔法、か。では俺以外の魔法が使える異世界からの住人ならどうだろう。
ノギギと別れ、部屋に戻る。
今日の十六時の列車でペルセフォスに戻るので、ロゼリィがパタパタと動き回り荷物整理や部屋の掃除をしていた。
その荷物整理や掃除に邪魔だったらしく、アプティが俺の愛犬ベスを抱え部屋の隅に立たされていた。
「ロゼリィ、掃除サボってすまない。ちょっと用事があるのでアプティを借りるよ」
「あ、はい、分かりました。掃除は私がどうしても職業柄我慢が出来なかっただけですから、お気になさらずに」
優しく微笑むロゼリィ。これは出来た嫁になりそうだなぁ。
お城の廊下の大きな窓があるところに休憩用のソファーがあったので、そこにラビコとアプティに座ってもらう。ベスはアプティに抱えられたまま、俺を不思議そうに見ている。
「なぁアプティは魔法は使えないのかな」
俺は蒸気モンスターであるアプティに聞いてみた。彼女の正体を知っているのは俺とラビコだけ。なのでこの面子だけで集まってもらった。
「……魔法、ですか? 私はどちらかというと苦手です。……私はこの足の脚力を使ったバトルスタイルが得意で、魔法は使えないわけではないですが、苦手です」
そういうやそうか。アプティって蹴りとかそういうのが得意だもんな。魔法を使っているのを見たこと無いや。でも知識として知らないのだろうか。
「そうか、では情報として知らないかな。離れた場所の相手に言葉を伝える魔法とか、そういうのは無いのかな」
「…………分からないです、申し訳ありませんマスター。アージェンゾロ様ならいい反応が出来たかと思います……」
ふむ、分からないのはしょうがない。ってアーなんたらさんって誰。
「なるほどね~人間じゃないアプティならそういう人の力を超えた魔法の情報があるかも、と考えたわけか~。あっはは~これは社長にしか出来ない行動だね~さすがだよ~。敵とはいえ、蒸気モンスターに繋がり持っている強みだね~」
ラビコがニヤニヤ笑う。
敵、か。まぁこの世界は人間と蒸気モンスターとの戦いの歴史らしいしな。
多くの人の命が奪われたみたいだし、今もどこかで蒸気モンスターの被害にあっている人がいるかもしれない。
ラビコはかつてルナリアの勇者と共に世界中を巡り、蒸気モンスターと戦ったらしい。その辺の話を詳しく聞いたことはないが、壮絶なものだったのだろう。
これ以上は聞いても仕方がないので、今回は魔晶石を使った通信システム作戦はここまでとしよう。長い目で見てどこかでヒントが出てくるのを待つか。
部屋に戻るとロゼリィの掃除も終わっていた。まぁ綺麗にやったもんだ、さすが宿屋の娘。
「綺麗に掃除したなぁ、ロゼリィ。これはいいお嫁さんになれるなぁ」
「え、も、もちろんそのつもりです! 炊事洗濯掃除買い物からマッサージまで全てこの私がお世話いたします!」
綺麗になった部屋を見てロゼリィを褒めたら、鼻息荒く握りこぶしを見せてくる。マッサージ?
「ちぃ~しまった、これアピールだったのか~家庭的な部分で攻めてきたか~。なら私は社長の男の冒険心を刺激してみよっかな~。ねぇ~社長~世界には~とっても不思議な物があって~いつ作られたか分からない古代の遺跡とか~何に使うか分からないマジックアイテムとかが~眠っているんだよ~私とそういうのを探す旅に~」
ラビコが右腕に絡んできて、この世界の七不思議的な情報を言ってきた。おお、それすっごい心惹かれるぞ。古代の遺跡とかたまらん。
しかも異世界の古代遺跡とか何が眠っているのかワクワクが限界突破だぜ。
「ふふ……そういうお話ならば、師匠知っていますか? 海に沈む古代の都市を。私は世界中を船で巡っていましたので、海に関する不思議なお話しは結構知っていますわ。我が船、グラナロトソナスⅡ号をもってすれば普通では行けないような場所にも行けてしまうのです!」
背後から現れたアンリーナが不敵の笑み。
海に沈む海底都市、それは魅力だぞ。そうかアンリーナは専用の最新高速魔晶船、グラナロトソナスⅡ号を持っているんだよな。それは強みだなぁ。
「はは、では私は権力をアピールしてみるか。私と共に来れば、君は晴れてペルセフォスの王族となれる。そうなれば君がしたいと思っている大抵のことは出来るようになるんじゃないかな。私も手に入るぞ、どうだろうか」
サーズ姫様も笑いながら現れ、何やら権力アピール。挨拶回りはもう終わったのか。
「ぅうう、ずるいですー私そういうのあまり持っていないですー。で、でも先生を一番愛しているのはこのハイライン=ベクトールです! 先生が望むのなら私は何でもします!」
ハイラも慌てて走ってきて俺に抱きついてきた。
「……テクニック……」
右手を変な動かせボソっと呟くアプティ。
この流れ、何。




