二百話 モーニングとラビコのキャベツ様
「旦那! 旦那! 今朝のメニューは俺が作ってみたんすよ!」
宴会明けの翌日。
朝八時ぐらいに起きて、ほぼ住んでいると言っても過言ではない宿屋ジゼリィ=アゼリィの客室から一階の食堂に降りていったら、シュレドが大声で俺を呼んできた。
イケメンとはいえ筋肉ガッチリマンに笑顔で手招きされるのは、あまりいいイメージないな……。
「おお、シュレド。がんばってるなぁ、じゃあモーニングセットをいただこうかな」
席について待っていると、出てきたのは焼いたトーストに生クリームを乗せ、その上にバナナ、オレンジ、ぶどうがまんべんなく乗った物。軽く粉砂糖が振ってあり、カットフルーツも綺麗に切り整えてあり見た目も美しい。サラダに飲み物が付いたセット。
「うん、美味しい。見た目が綺麗なのがまた食欲がそそるよ」
「よっし、まだまだ未熟だけど日々精進だぜ! 早く旦那に、これなら安心して店を任せられるって言われるまで頑張るぜ!」
喜びのポーズを決めたシュレドが笑顔で調理場に戻っていく。うん、向上心がすごくあっていいじゃないか。イケメンボイス兄さんの教えもどんどん吸収していっているし、これなら一ヶ月とか二ヶ月でいいとこまで行くんじゃないかな。
まぁ、最終的にはイケボ兄さんのお墨付きがないとゴーサインは出せないけど。
「それまでにペルセフォス王都のお店の場所確保と、アンリーナのお店とのコラボ計画を進めていかないとな」
「おや~ってことはまた王都に行けるのかな~? 次こそは私の専用研究所をご案内出来るかね~あっはは~」
ラビコが俺の右側に座り、モーニングセットを頼む。
「おや~今日のはシュレドのか、うんいいじゃない。見た目もいいし……うん、味も甘さ控えめでいい感じ~」
ふむ、女性の評価が高いのはいいぞ、シュレド。そのまま、もっと腕を上げて欲しいな。
「そういやラビコの専用研究所って何があるんだ。キャベツがあるとは聞いたが」
家庭菜園ぐらいの規模で育てているんだっけか。しばらく行っていないみたいだし、もう枯れているんだろうなぁ。
「誰か面倒見てくれているのかな……分からないけど~まぁキャベツは買えばいいしね~あっはは~」
ラビコは世界でも有数の大魔法使いで、普通は魔晶石を装備し魔法の補助をするらしいのだが、ラビコはなぜかキャベツを使う。いや、普通に魔晶石も使うみたいだが、なぜかキャベツのほうがよく使っているよな。
「ラビコはどうしてキャベツを使うんだ?」
聞いていいのか知らないが、興味あったので聞いてみた。ラビコはトーストを食べ終わり、サラダをもっしもし食べていた。
「え~キャベツ美味しいじゃん~。だからだよ~」
「わからん」
一秒も考えずに俺は返答した。美味しいからだよ~じゃ質問の答えになっていないだろ。
「え~と~でも社長は魔法使えないし~言っても意味ないんじゃ? あっはは~」
くっ……それはそうだが、興味はあるんだよ。俺はまだ魔法を使う夢を諦めていないからな。異世界に来たんだ、ドカーンと魔法使ってみたいんだよ。
「これをキッカケに使えるようになるかもしれないだろ。俺の可能性は無限なんだよ」
「あっはは~それは可能性だけはゼロから無限だろうけど~多分ゼロじゃないかな~。まぁ……私も最初は魔法のことなんか何にも知らなかったし~……お師匠が教えてくれたからだしな~」
笑っていたラビコが真面目な顔になり、テーブルに肘をつき顎を手に乗せどこぞを見上げる。溜息をつき目を細ませて何かを思い出しているようだ。
ラビコの過去はあまり聞かないほうがいいよな……。
「元気かな~……お師匠……」




