百九十九話 宴会と乾杯の出来ない俺様 三章 完
「うわぁ、ありがとうございます!」
バイト五人組、宿の従業員のみんなに買ってきたお土産を渡す。
フラロランジュ島やケルシィに行ったことがない人がほとんどだったので、かなり喜んでもらえたようだ。
あと、お酒がたっぷり染み込んだパウンドケーキは開けて食べてみたが美味しくなかった……。なんか単にお酒染み込ませましたって味で、工夫がなかった……残念。
イケメンボイス兄さんが食べて、自分ならこう作ると調理場に走っていく。うっは、さすが兄さん頼もしいっす。
「あ、シュレドも手伝ってくれ。これからうちの若旦那達が無事帰ってきた宴会とシュレドの歓迎会をやるんだ」
「おう、まかせてくれ。わざわざあんなとこまで俺を誘いに来てくれた旦那にはいいとこ見せないとな!」
イケメンボイス兄さんに呼ばれ、シュレドも調理場に走って行った。おおう、兄弟の共演ですか。これは楽しみだ。
とりあえず荷物を置き、お風呂に入ることに。
「うっはーやっぱ慣れた宿のお風呂はたまんねーなぁ」
見慣れた天井を見上げ、内風呂に入っていると世紀末覇者軍団が声をかけてきてくれた。
「おお、オレンジ兄ちゃん帰ってきたのか! バイトの子達が寂しそうにしてたぞー? この女ったらしが!」
「なんだよ、どこに行って帰ってきてもほっそいなー。もっと腕っぷし鍛えろ」
「わはは、やっぱあんたらいないと盛り上がらないぜ!」
んご、相変わらずもこもこの筋肉だなこの人ら。
でもありがたいな、こうして心配してくれるのは。
「このあと宴会やるんで、よかったらみなさんもどうぞ。俺がおごります」
それを聞いた覇者達が地鳴りのように吠え、歓喜する。
楽器かよ……体の奥まで響くような声じゃねーか。
「おおお! いいのかオレンジ兄ちゃん! 聞いたかみんな、今日はオレンジの兄貴のご帰還を祝って騒ぐぞぉ!!」
「おおおおお!」
お湯が振動で揺れている。
これ、うまく使って武器に出来ないか。
覇者達を引き連れお風呂から上がると、女性陣もお風呂から上がってきていた。
うん、いい香りがする。
いや、同じサービスで置いてあるシャンプー使っているから、後ろの覇者達からも同じ香りがするんだけど……ねぇ、違うじゃない。ビジュアルが。
「ほい社長~サービスサービス~」
廊下でラビコとアプティが前かがみになって、水着とバニー衣装に包まれた豊かな胸を強調してくる。なんかこの二人仲良くなってないか。
「あっはは~社長ってば、ぼーっっと見てるよ~ほらほらロゼリィもやってみなって~社長が喜ぶよ~?」
後ろの覇者達が大歓声を上げる。こら、お前ら押すな。
「え……あの、う……こ、こういうのは二人っきりのときにやるものです!」
ロゼリィが真っ赤な顔で走っていってしまった。
ああ、残念……覇者達と肩を叩きあう。
「……つ~か社長、なんでそいつらのボスみたいになってんの」
宿の食堂に入ると、バイト五人組がせっせとリボンやらなにやらを飾りつけていた。あれれ、なんかクリスマスみたいだな。各テーブルにはイケメンボイス兄さんの作った豪華な料理がならんでいる。
「おお、これだよ、これ! やっぱ料理ってのはこうでないとな」
鳥の丸焼き、お刺身セット、山盛りのパスタに色とりどりのフルーツ達。もう見てるだけでよだれが出るぞ。
「おお旦那! いやーすげぇわ、ボー兄さんが別人みたいになってるぜ。見たことも聞いたこともない調理法のオンパレードでさ、もうさっきからワクワクしてるぜ! ほとんどが旦那のアドバイスで出来たとかでよーなんかこの宿が繁盛してるのが分かったぜ」
シュレドが興奮してやってきてイケボ兄さんからさっそく習った料理を語る。うん、いい笑顔だぞシュレド。それ全部覚えて王都で活躍してくれよ。
「シュレドはしばらくこの店で修行をしてくれ。兄さんを超えるぐらいの成長を期待しているぞ。そしてその腕を王都で名を成す為に存分にふるってくれ」
「わはは! おうよ、やったるぜ旦那! いやーこんなに胸が熱くなってくるのなんて久しぶりだぜ。来てよかった、もう俺は旦那にずっとついていくぜ!」
楽しそうだなぁシュレド。子供のようにワクワクした顔でイケボ兄さんの話を聞いている。
「師匠ー! お呼ばれされちゃいました! 私も参加しますよーこの指輪にかけて!」
席について準備を待っていると、鼻息荒く指輪をかざしアンリーナがやってきた。
俺達がお風呂にはいっている間に宿の人が街を走り回って、みんなを呼んだそうだ。
「おう、お疲れアンリーナ。まぁ、食っていってくれ」
「……友よ。おかえり」
のそっと現れたのはハーメル。さすがに動物達は連れていない、うん入れないしな……クマのメロ子って体長五メートル超えてるしな……。笑顔で迎え入れ席に座ってもらう。
「おーきたでぇ、小僧生きとっかぁ? かっかっ!」
ハーメルの後ろからよろよろと歩いてきたのは、農園のオーナーのおじいさん。実はこの人も元勇者パーティーの一人なんだよなぁ。街を守る戦いの時の長ランスの攻撃は、今でも鮮明に覚えている。
「おじいさん、お久しぶりです。収穫祭のジャガイモありがとうございました」
「おお、元気そうじゃの小僧。かっか、相変わらず良い目をしておるわい。魔女が肩入れするのが分かるぞい」
俺の肩をバンバン叩きながら豪快に笑うおじいさん。うん、すごく重い一撃が俺の肩にギンギンと食い込むぞ。
「あ、お師匠様! お元気そうでなによりです!」
「じじい、元気すぎだろ。おら、来いよ食ってけ食ってけ」
ローエンさんとジゼリィさんが慌てて出てきておじいさんを出迎える。ジゼリィさん、言葉は悪いがすごく笑顔でいるな……尊敬しているんだろうなぁ。
「おぅ! 兄ちゃん元気か、がはっは、また漁船に乗せてやっからいつでも来いよ」
「よぅレンジ! ほらよ、差し入れだ!」
「レンジ、来たよ来たよ。旅のお話聞かせて聞かせて」
お、今度は海賊マエド親子のご登場だ。
漁船はなるべく乗りたくないです……しかもマグロ一本差し入れかい、豪華すぎだろ……。
「ありがとうございます、今日は俺のおごりなんでいっぱい楽しんでいってください。シャム、甘いモンいっぱい食っていいからな」
ちびっこ海賊、シャムの頭を優しく撫でる。相変わらずちっちゃくてかわいいなシャム。満面の笑顔で席につき、メニューを選んでいる。
いただいたマグロをシュレドに渡したら、興奮しながら担いで調理場に走って行った。
「よう、オレンジ兄ちゃん。帰ってきたんだってな」
「やっ、指輪の彼女は元気かい? あはは、結局三つとか買ってたね」
お、農園の丘で一緒に戦ってくれた人達と魔法剣の使い手の女の人だ。嬉しいなぁ、わざわざ来てくれたのか。
「あれ、なんだか結構な人数になっているぞ……」
改めて集まってくれた人数をみると、宿の食堂が満席の勢いだ。しかももうお酒飲んで騒いでいるし……。まぁ、いいけど。ペルセフォスの知り合いを呼べないのは残念だがね。
「すごいねぇ~社長。さすがは街の英雄だね~あっはは。元勇者パーティーのメンバーを五人も集められるなんて、結構なことなんだよ~?」
ラビコが隣でニヤニヤ笑う。正直ラビコと知り合えたのは、本当に大きかった。人との出会いというものがここまで俺の人生に影響するとは思わなかった。
「マスター……やはりここの紅茶が一番美味しいです……」
アプティが満足気に紅茶を飲んでいる。
最初アプティは俺以外とは会話もしない雰囲気だったが、最近は普通に話すようになった。相変わらず無表情なのだが、それでも少し今どう思っているか分かるようになったかな。
正体は蒸気モンスターなのだが、俺にとっては大事な仲間の一人だ。
「さぁ、準備が出来ました。掛け声をお願いしますね、ふふ」
ロゼリィが優しく微笑み、飲み物を渡してくる。
まぁ、なんと言っても俺の異世界生活はロゼリィから始まった。異世界に来てベスとどこに行ったらいいかも分からず困っていたが、ロゼリィと出会ってこれなら生きていけると確信出来たからな。
本当に命の恩人と俺は思っている。あとこの優しい笑顔がどれだけ俺を救ってくれたか。鬼の覚醒は怖いけど……。
「ベスッ」
ああ、分かってるよベス。
いつも俺の側にいてくれて、命がけで俺を守ってくれる愛犬。魔王の部下との戦いではついに白銀犬士の力が覚醒し、神獣となり俺を守ってくれた。
ああ、なんていうか……普通それ俺にあるもんじゃないのかとも思うが、ベスはかわいいから全て許すけど。
俺は受け取ったコップを持ち立ち上がると、騒いでいたみんなが静かになり俺の声待っている。急にシーンとなったからなんか緊張するな……。
「あ、えーと、ケルシィから無事帰ってきました。料理人シュレドを加え新たなスタートを切れればいいと思っています。えーと、お集まりいただき感謝します。本日は俺のおごりなので、がっつり飲んで食べてください……えーと」
「なげぇぞ小僧! かかっ!」
「わはは! そうだそうだ、早く食わせろ!」
「あっはは~さぁみんな社長のポエムの朗読は続くけど勝手に始めちゃいましょう~……せ~~のっ……!」
「かんぱーい!!」
ちょっ……俺の演説誰も聞いてないじゃん……か、かんぱーい……。
まぁ、みんな笑ってるし……いいか。
そして笑いの絶えない長い宴会が始まった。
――第三章 異世界転生したら魔王がいたんだが 完――
ここまでお読み頂き感謝!
これにて第三章 異世界転生したら魔王がいたんだが 完 となります。
第二百話より第四章開始となります。四章開始までは少し期間(一週間ぐらい)があきますが、お見かけの際はチラ見していただけると嬉しいです。
お好きなキャラなどいましたらご気軽に書いていただけると嬉しいです。
それでは四章までしばしお待ちください…… とふ。




