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百八十一話 異次元空間の主 5 白銀犬士ベス様


「ほら、どうした人間。抵抗ぐらいしてみたらどうだ」




 女性は鎌で俺を弄ぶように斬りつけてくる。


 俺の血が飛び散り、全身の痛みと血の暖かさで頭がぼーっとしてきた。



「マスター……!」

「ベスッ!!」


 アプティとベスが助けようとしてくれたが、女性が氷の塊を放ち二人を遠ざける。



「やめてくれ……俺はいいが二人は……」


「自分すら守れない者が他者の心配など滑稽でしかないですね」


 背中を蹴られ、俺は力なく地面に倒れこむ。





 そういえば以前ラビコに怒られたな。


 簡単に死を選ぶな、お前がいなくなったらお前を想う者はどうなる。将がいなくなればその隊は全滅となる。お前はどんな時でも生き残り、隊の将として立たねばならない……。


 しかし立ったところで何が出来るのか。


 俺は無力、ベス、アプティの攻撃はほぼ通用しない。




「マスター……この子と心を繋げてください……この子はずっとあなたの合図を待っています。マスターは優しい人です……でも今は優しさでは勝てないときです、この子はマスターと共に戦いたがっています、マスターを守りたいと願っています」


 アプティの声でベスを見ると、四足にしっかりと力を入れ、じっと俺を見つめている。


 いつでも行けるの姿勢。




 ……あーあ、アプティにもベスにも怒られてしまったな。


 なんと情けない将なのか。





「そう、だな。アプティとベスがまだ諦めていないってのに、俺が一番最初に諦めるとか……格好悪いよな」




 俺は地面から顔を離し、ゆっくり手足に力を入れる。


 ポケットのロゼリィに貰った小さな袋を握り、ここにいない二人を想い心に炎を灯す。



「こっちに来てまともに武器も使えず、力も無く、今だって格好悪く地面に這いつくばっているがな……俺の抑えられた欲はいつだって燃え盛っているのさ」


 鎌の女性が俺の意味不明な言葉に眉をしかめ、鎌を構える。


 ロゼリィのお守りに勇気を貰い、俺はしっかりと両足で地面を踏みしめ、叫ぶ。



「俺は元の世界に帰ってラビコとロゼリィを抱くぞ! 優しさ? 知るか! もー我慢ならん、俺の若さゆえの欲ってやつを思いっきりぶつけてやる!」



「こいつ、何を言って……」


 突然叫んだ俺を不審に思い、鎌の女性が距離を取る。


 アプティが手を上げ「マスター私も……」とアピールしてくる。


 ああ、もちろんだ……毎朝毎朝俺のベッドに潜り込んでフェロモン出しやがって、俺がいつまでも紳士でいると思うなよ。



 ……俺の優しさという気持ちがベスにブレーキをかけていたというのなら、今こそタガを外し、俺の優しさではなくこいつらぶっ倒してラビコとロゼリィとアプティを抱くんだ、という欲をエネルギーとして解放してやる。


 悪いがロゼリィに貰ったこのお守りは、俺が異世界に来て初めて手に入れた勇気と欲を得るための武器と使わせてもらう。



「行くぞベス……生き残る為に欲だろうが何だろうが全てを使う。俺と共に戦ってくれ、ベス!」


 ベスが力強く吼え、俺からベスに繋がる光る糸みたいなものが見えた。


 それはベスからも出ていて、俺の少し手前でフワフワと浮いた状態になっている。


 これか、アプティが言っていたベスと心を繋げろというのは。



 そうか、俺の心はベスがしっかり受け止めていてくれたのに、俺がベスの心を受け止めていなかったのか。


 ベスを傷つけたくない、ベスをあまり戦わせたくないという俺の一方的な心が、ベスの想いを遮断していたらしい。




「ベスッ!!」


 ありがたくもベスは体を張って俺を守りたいと思ってくれている。


 なら今はその思いに甘えさせてもらうぞ。


 俺はフワフワと浮いた光る糸の先を力強く握り、ベスと心を繋げる。


「なるほど……これがベスの出せる力。これが白銀犬士ベスの出来ること……」


 ベスと繋がると、白銀犬士として出来ることがイメージとして頭に伝わってきた。





「気をつけろよジェラハス。その犬、化けるぞ」


 後ろで腕を組み、ニヤニヤしていた魔王が鎌の女性に注意を促す。


「はっ。しかし所詮は下等な力では……」



 

「行くぞベス、狼武装!」


 俺の想いに反応したベスが額から青い光を放ち、その光で全身を覆う。


 光は形を成し、大きく太い爪のついた手足、鋭い牙のついた口が開かれベスが咆哮する。


 光に包まれ巨大化したベス。見た目は完全に狼で大きさは俺の頭より上、ワゴン車ぐらいの大きさだろうか。 


 なんか俺ぐらいなら乗れそうだな。


「オオオオオン!」



 ベスが野太い声で吼える。



 すごいぞベス、これが白銀犬士の本当の力なのか。









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