表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

179/696

百七十八話 異次元空間の主 2 魔王のいる世界様

「……ーッ!」


「……スター……」








 何やら胸のあたりが重いのと、後頭部が暖かい。






「う……」



 喉の奥から無理矢理声を出し、脳に刺激を与える。


 目の開け方が一瞬思いつかないぐらい頭が回転していない。



「マスター……よかった……」

「ベスッ!」


 強引に目を開けると、胸に乗っかっていた愛犬ベスが3D映画でも見ているかのように俺の顔に飛び込んできた。


「うお……っと。ベス、アプティ……」


 後頭部が暖かいのはアプティが膝枕をしてくれていたからのようだ。アプティが無表情に俺の顔を覗き込んできた。


「よかった……マスター。次元の振動で気を失っていたようです……」


 次元の振動? 確かにくらくらする感じが頭に残っている。


 ベスを両手で抱え、頭を起こす。


 ひどい目眩を起こしたあとのように気分が悪い。くそ……。



「悪い……心配かけてしまった。みんなは……?」


 手元にベス、後ろに正座しているアプティ。ラビコとロゼリィは見当たらない。


 そしてここはどこだ……薄暗い、濁った色の森。緑ではなく、本当に濁った色の葉が生い茂った木が周りに生えている。


「いません……私達だけです。吸い込まれていくマスターに触っていた我々だけが、なんとか一緒に来れました」


 アプティがベスをじーっと見る。



 やっと頭が回転を始めたぞ。


 ランヤーデの駅を下見していたら変な空間の歪みを見つけて、近づいたらこの有様……ってやつか。どう考えても俺の不注意だな。


「すまん、ベス、アプティ。俺が不用意に行動したせいで、変なことに巻き込んでしまった。それじゃあ、ここにいないラビコとロゼリィは無事なのか」


「……マスターお一人で行かれないでよかったです……はい、二人は元の場所で無事です」


 そうか、とりあえず安心。


 今まで混雑した駅にいたので、うるさいぐらい耳に入ってきていた雑音が全て消え、互いの呼吸がはっきり聞こえるぐらい静まり返った世界に今俺はいる。


 ここはどこなのか……アプティがどうも何か知っている話し方だったな、聞いてみるか。



「アプティ、ここがどこか教えてくれないか」


 俺が聞くとアプティが無反応。


 珍しいな、俺が聞けば大抵返事してくれたんだが。いや、違うか……アプティは遠くを見つめ、何かの反応を伺うことに集中している様子。白いフサフサの尻尾がピクピク動いている。


「……失礼しました。もう見つかっているようです。すでに森は囲まれています……ここに繋がっていたイレギュラーゲートはすでに閉じ、この世界から元の世界に戻るのはもはや絶望的です……」


 元の世界に戻る……ふむ、ここは違う世界とでもいうのか。


 はは……普段冗談を言わないアプティに絶望的とか言われたら笑えないじゃないか。




 周囲の木の間から霧が漏れ出してくる。いや、これ霧じゃないな……蒸気、か。


「森は危険と判断します……失礼します」


 そう言ってアプティは、足につけているゴツイ鉄製の装具を二本の指でトントンと叩き、口から蒸気を出し始めた。そしてベスを抱えている俺ごと持ち上げ、お姫様抱っこ状態で俺の体が宙を舞う。


「うわわっ! 高い……!」


 アプティの目が紅く光り、口から蒸気を出す本気モード。


 一蹴りで森の木を大きく飛び越え、空へ上がる。


 下を見るとさっきまで俺達がいたところを目指して蠢く何かが四方に迫っていた。



 森の向こうに湖が見え、そこの真ん中の浮島の上にそびえ立つような西洋風のお城が見えた。紫の空に浮かぶその姿は、ゲームの最終ダンジョンのように感じた。



 下で何かが光り、青い光が俺達に迫る。


「アプティ避けろ! なにかが飛んでくる!」


 俺の声でアプティが慌てて体をひねり、下から高速で飛んで来た青い光を避ける。森を飛び越え、先程見えたお城の周りを囲む湖の側にアプティが着地。


「ありがとうございますマスター……やはりマスターの目は本物です」


 アプティが俺を降ろし、戦闘モードで先程青い光を放ってきた方向を睨む。





「避けました、か。驚きました。たかたが狐ごときに二度も鎌を振るのは屈辱ですね。どうしてくれましょう」



 森の木がバキバキと音を立てて倒れていく。


 切り倒されたわけではなく、一瞬にして凍り付いて砕かれていく。身震いするような寒い空気があたりを覆い始めた。


「ほう……狐と人間と獣、ですか。随分と面白い組み合わせで来たものですね。しかもその少数で侵入して来るとは随分と自信がおありのようで」


 氷の木の向こうから現れたのは、青く光る死神の鎌みたいのを担いだ背の高いスラッとした女性。


 ごく簡単な鎧にひらひらと帯みたいな布を手足に絡ませた不思議な格好。頭には氷の羽みたいな物が角のように二本ついている。



「……申し訳ありませんマスター……私では持って数秒かと……」


 俺を守るように立っているアプティが震えている。


 これは相当マズイ相手みたいだぞ……。


「どうやって来たかは知りませんが、ここはエウディリーラ様が作られた世界。そこに土足で足を踏み入れるなど言語道断、許しがたき悪行」


 なんか知らんが激怒しているぞ……たまたま迷い込んだだけだってのに。


 青く輝く鎌を構え、女性がこちらに仕掛けようとした瞬間、声が響いた。





「待てい、ジェラハス。その男、見えているようだぞ」



 その声に鎌の女性は瞬時に反応し、動きを止めた。


 声がした湖のほうを見ると、空中に豪華なマントと鎧に身を包まれた女性が浮いていた。両手を腰に当て、量るように俺を真っ直ぐに見てくる。


 頭には羊のような大きな角が生えている……どう見ても人間じゃあないな。


 少し小柄なその女性はニヤリと笑いこう言い放った。




「我こそは魔王エウディリーラである。我の作り出した天頂世界に何用か人間。申してみよ」



 

 ま、魔王……? 確かに絵本にも出ているようだし、ラビコも戦ったことがあると言っていたが……本当にいるんだ、魔王……。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ