百七十六話 さぁ、ケルシィへ! 9 遠い異国の地にて兄さんを想う様
「ほんと社長って商人向きだよね~よく色々思いつくもんだよ~」
アンリーナと別れ、今晩泊まれる宿屋を探す。
「ふふ……もちろんですよ。なにせうちの若旦那なんですから! 早く冒険者を辞めて私と……」
ラビコの発言にロゼリィが鼻息荒く捲くし立てるが、俺はこれからの予定をみんなに伝える。
「えーと、今後の予定だ。まず宿を探して今日は疲れを癒す。明日は防寒着等の必要な物の買出しかな。列車での移動は明後日を予定している」
「了解~じゃあ明日まではここのランヤーデを楽しめるってことだね~うひひ~おっさけお酒~」
ラビコがヨダレを拭いケルシィ満喫計画を想像している。
ラビコ以外はお酒飲めないし興味ないから、俺達はお酒以外のケルシィを堪能しよう。
ケルシィ最大の港町ランヤーデ。
港から繁華街に歩いて来たが、やはり目に付くのはお酒お酒お酒……。
商店のいたるところにお酒の入った木箱が積まれ、色とりどりのお酒の瓶がお店の前面に並び魔晶ランプの明かりが反射し、とても綺麗。
確かにこれはお酒好きのローエンさんには天国かもな。見渡す限りお酒が売っている状態だし。
ここのランヤーデは気候的にソルートンと変わらない。緯度が同じみたいだからな。
ここから北に向かうと寒い地域になるのか。明日はちゃんと服買わないとならない。
港町なのだが、あまりお魚とかが並んでいるところは少ないか。
港も漁船はさほど停泊していなかったし、ここは本当にお酒や物資運搬で成り立っている町みたいだな。
あと時間がもう十八時過ぎなせいか、酔っ払った人が多くいて結構ガラが悪い。あんまり夜の出歩きはしないほうがいいようだ。
宿はラビコが以前泊まったことがあるところに決めて、すぐにお風呂に出かける。
「ふふ、さっぱりしましたー。ソルートンとはお湯の感じが違いましたね、ほら、触ってみてください」
俺はすでに風呂から上がり、温泉施設のロビーで女性陣が風呂から出てくるのをベスと待っていたら、ロゼリィが湯気を上げながら出てきて腕をだしてくる。
ほう、どれどれ……うむ、ふにふにで大変柔らかいぞ。
「ふふ、優しい手つきです。触り方一つでその方の性格って分かるものなのですね、ふふ」
ロゼリィが優しく微笑む。う、湯上り美人に間近で微笑まれたらドキっとするわ。
ラビコ、アプティも上がってきたので、ゆっくり歩いて夜のランヤーデの雰囲気を楽しみつつ宿に戻る。
「まぁ、とりあえずみんなお疲れ様! 今日はゆっくり休んでくれ」
「うぇ~い、あっはは~」
「はい、乾杯です」
「マスター……紅茶がおいしくないです……」
みんなで乾杯。
時刻は二十時過ぎ、宿の食堂で目に付いたメニューを適当に頼んで宴会スタート。
アプティが出てきた紅茶を飲んだ途端震えだし、俺においしくないアピール。
うーん、ちょっとサラダを食べてみたが、野菜がパサパサのしわしわ。パンも固くごわごわ……。なんか肉らしき干物が数枚浮いたスープ、メニューでは豚の生姜スープが、お湯に一つまみ塩溶かした味。
ベスも用意してもらった犬用ご飯をちょっと舐めただけで、座りこんでしまった。
「うーん……うーん」
「社長~考えたら負けさ~ソルートンと比べちゃいかんよ。雰囲気で食べな雰囲気~あっはは~」
ラビコが笑いながらお酒を飲み干す。
うん、お酒はおいしそう。飲めないけど。
結局、旅行に行くたびにイケメンボイス兄さんが神なんだと思い知らされる。さすがにアンリーナのお抱えのシェフがいる船のご飯はおいしかったがね。
「ケルシィって……どこもこんな感じなのかな……」
ラビコに恐る恐る聞いてみる。
さすがにこれから毎日これは気が滅入るぞ。こんななら、材料買って自分で調理したほうがマシだ。王都に行く道中を思い出す感じ。
「そうだね~ここってお酒の国だから~お酒に合えばなんでもいいって感覚かな~。お酒で麻痺した味覚で食べるから味なんてどうでもいいんだよね~あっはは~」
あかん。
お酒飲めない子供はどうしているんだ、って心配になる国だぞ。
我慢して食うしかないか……このテーブル一杯のメニュー全部で二百G、日本感覚二万円はするんだよな……。
高くておいしくない、はぁ……兄さんが恋しい。




