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百六十七話 出発準備と届くことはない白き鷹よ様


「く……クシがどこかいっちゃいました! ……あれ、あれ? 保湿クリームもない……」



 ロゼリィが宿内をあちこち行ったり来たりで大慌て。




 俺、ベス、ラビコ、アプティはその様子を三人は紅茶を、一匹はミルクをいただきながら眺める。


「女の子って大変だな」


 ロゼリィの慌てっぷりを眺めながら俺が漏らすと、ラビコがジト目で見てきた。


「私も女の子なんだけど~。まぁ……真面目に言うと~冒険者と宿屋の娘の違いじゃないかな~宿屋の娘さんはいつでも出かけれる準備はしていないよ~。ロゼリィはここにいるのが商売で~私達冒険者はどこかに行って何かするのが仕事だしね~」


 ラビコが俺達とロゼリィを指しながら笑う。


 そうか、何するにしても出かけるのが冒険者だもんな。


 いつも外に出れる準備はしてあるし、持ち物も少ない。ロゼリィはここで受付なりをするのが仕事。普段のスタンスが違うのは当たり前か。




「やぁ、明日早朝には行くことになったんだって? いやー君達はホント行動早いなぁ。はい、弟に手紙を書いたよ。勧誘するときのいい材料になるといいけど」


 厨房からイケメンボイス兄さんが弟さん宛ての手紙を入れた封筒を持ってきてくれた。


「おお、ありがとうございます兄さん! これで勧誘もしやすくなりそうです!」


 身内の手紙があれば信用度は一気に増す。


 いきなり見ず知らずの子供に、他国の王都でお店持ちませんかと言われても信じないだろうしな。



「いいなぁ……いいなぁ……いいなぁ……」



 突然背後から声が聞こえだし、驚いて振り返るとこの宿のオーナーでロゼリィのお父さんのローエンさんが涙を流していた。何事……。


「僕も行きたいなぁ……ケルシィ、ケルシィ……ああ! 僕の聖地ケルシィィィ!!」


 ローエンさんが俺に抱きついて来た。


 うっふ、さすが元勇者パーティーのお一人……筋力が半端ねぇ。首にがっちり腕が食い込んでいる。


「く、苦しいですオーナー……むぐぐぅ」


「あ、ご、ごめんよ……つい力が入ってしまった。はぁ……ケルシィ」


 腕を離したローエンさんが深い溜息を吐く。


 俺は青くなりかけた顔を振り、なんとか気を取り戻す。そういえばラビコが言っていたか。昔何ヶ月もお酒の国ケルシィに滞在して、ジゼリィさんに激怒されたとか。


「僕、もうケルシィには行けないんだ……ジゼリィが……」


「私が何だって? ローエン。ふふっ、ふふふふ」


 ローエンさんの奥さんのジゼリィさんが不敵な笑みを浮かべ歩いて来た。これはヤバイ、ローエンさん逃げて……。


「あ、くっ……こうなったら娘に父親の特権を使ってでも……!」


 不穏な存在に気付いたローエンさんが死を覚悟したかのような決意でロゼリィの元へ走り、涙ながらに訴える。


「頼む娘よ……! グインホークを……あの白き鷹をもう一度飲みたいんだ……!」


 クシを持って右往左往していたロゼリィがローエンさんに捕まり、困った顔をしている。グインホークってなんぞ。


 ラビコに聞いてみると、ケルシィでしか買えない有名な高級酒らしい。お酒飲みなら一度は飲んでおきたい物だそうで、なんとお値段一本千G、日本感覚十万円。かなりの値段だなぁ……。


「ふふっふふふ……ローエン? さ、あっちの暗がりに行こうか」


「あ……あぁ……鷹よ……私にその白き翼を……!」



 厨房の奥に引きずられていったローエンさんを、世紀末覇者達、バイト五人組、厨房の料理人達と俺達が手を合わせ見送り、祈りを捧げる。



 どうぞご無事で……。






「もぁあぁぁぁ……いっひぃぃ!!!」



 へぇ、ローエンさんって……ああいう声、出るんだ。









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