百五十八話 行けなかったパラダイス様
「ラビコと二人でいかがわしい本屋に行ったと聞きました。説明してください」
夜、宿の食堂にてイケメンボイス兄さん特製、本日のディナーセット鶏肉入りタマネギたっぷりクリームシチューをいただいていると、左に光を放つ鬼が座った。
足元で寝ていたベスが驚き、俺の足に絡みついてくる。
王都から帰ってきて余計に分かるイケメンボイス兄さんの技術の高さ。あの人天才や。
「……なぁロゼリィ、俺達が始めて出会ったときのことを覚えているかい。君は右も左も分からず怯える俺とベスを優しく受け入れてくれた」
ロゼリィが怒りモードから不思議なことを言われた顔に変わる。
「そしてロゼリィはお金の無い俺に手作りのシチューをご馳走してくれた。このシチューもおいしいけど、俺はやっぱり君が作ってくれたシチューが好きだな」
「あ、い、いえ……私のなんて見よう見真似で作った物で……」
ロゼリィの表情から怒りが消えた。
よし、もう一息。
「違うんだロゼリィ、技術じゃないんだ。君は俺を想い、俺のためだけに作ってくれた。それが嬉しかったんだ、出来たらまた……」
「ふわわ~いや~社長~エロ本屋さんやってなくて残念だったね~およ、今日はシチューかい~?」
ラビコがあくびをしながら俺のシチューを覗き込む。
……おい、ラビコ。このタイミング、狙ってやってきたのか?
「ハッ……そうですよ! そのいかがわしい本屋のお話を聞かせてもらいますよ!」
再び鬼覚醒。
ああああああああ……! もうちょっとだったのに……もうちょっとで乗り切れたのに……。
本日二度目の土下座。
二度とエロ本屋さんには近づかない、と紙にサインをさせられた。
宿屋の従業員のみんなや、世紀末覇者軍団達が俺の土下座を見て「おお、帰ってきた感じするな、あいつ」とか言ってるし。俺の土下座を一体何だと思っているんだ。
……いいじゃないかそういうお店行ったって……俺だって健全な少年なんだ。
それに誰だって押さえられない欲が湧き上がる日だってあるだろう!?
俺は負けないぞ、つーか一度も入ったことないんだよ! あのパラダイスに!
え? 年齢? ここ異世界だぞ! そんな日本の法律……え、似たようなのあるの?
あ、ごめんなさい。




