一話 お犬様
「ベスッ」
「いいぞベス! 次は左の奴だ!」
「ベスッ」
俺の声に飼い犬のベスが鼻息荒く応え、左側に展開していたスライムみたいなモンスターの集団に全速力で突っ込んでいった。
スライムっぽいそれは、街のすぐ側に出るようなモンスターなので弱い。普通の冒険者なら普通に倒せるのだろう。
「ベスッ!」
俺の愛犬ベスが華麗にスライムの集団の中を走り回り、爪で引っかいたり噛みついたりと大活躍。
冒険者センターで受けた依頼の数をこなし、受付でお金を受け取る。
「とりあえずベスでも使える武器とか防具を買いたいなぁ」
俺の装備? んなもん布の服でいいんだよ。俺、戦わないし。
「職業、街の人の俺。と白銀犬士ベス。さぁ君ならどちらに投資するか」
な? お犬様様ってやつだ。
今俺がいるここはソルートンとかいう田舎の港街。
塩が特産物で有名だからソルートンなんだと。適当過ぎだろ、ネーミング。都会にはもっと格好いい名前の町や都市があることを願うばかりだ。
この街に来たのは昨日のこと、明日から高校最初の夏休みだとワクワクして寝て、目覚めたら街の真ん中の橋に斜めに立っていた。
ああ、最近流行りのあれか、と驚きはしなかったが、とりあえず行った冒険者センターで能力無し、あんた街の住民レベル宣告には驚いた。
「普通強いもんだろこういうパターンだと……」
落ち込んで橋でたそがれている俺に優しく寄り添ってきたのが飼い犬ベスだった。
俺が小学校のころから可愛がっている愛犬。いわゆる柴犬ってやつで、眉毛が麻呂みたいでかわいいんだ、これが。
「お前も来ていたのか!」
「ベスッ」
「……まてよ、ベスちょっとこい」
「ベスッ」
……と、なんの気なしにベスを冒険者センターにて判定してもらった。
「おめでとうございます! すごいですよいきなり上位職、白銀犬士です!」
いや、犬の上位職って何。