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13時15分 病院前





 それから数十分ほど後。もう今から戻っても午後の授業には到底間に合わないだろうころ、瀬灯の姿は、学校より数駅離れた巨大な医療施設の前にあった。焦り走ったからか瀬灯の顔には色濃い疲労がにじみ、しばらく息も整いそうにない。よろけた足はそのままに、脇の塀に手を突いて身体を支えた。

「あのー、君、大丈夫?」

 背後から、声。

「えっ……」

 咄嗟に振り返れば、青いパジャマの胸元に挿された万年筆が目につく。どうやら彼は、この病院の入院患者の男性らしかった。

「や、すげぇ体調悪そうだったから」

「あ……、大丈夫。……ちょっと疲れただけだから……」

「そうなの、よかった。それじゃ、」

 そして、瀬灯は何気なく、踵を返そうとしたその人の手首を見た。咄嗟に口をついて声が出てしまう。

「待っ、て」

「うん?」

「E棟の人……でしょう?」

 瀬灯がそう口にすれば、彼は驚いたような顔をしてゆっくりと肯定する。

「…………そう、だけど?」

「ついて行かせてくれない?」

「どうしてそんなこと聞くんだ?」

「E314号室に……行きたいの」

「314……? 友達かなんかか」

「うん」

「見舞いならやめた方がいいと思うよ」

「大丈夫、私……慣れてるから」

「…………」

 神妙な顔をして黙ってしまった青年から目を逸らすことはせず、瀬灯は十秒ほどの間を粘った。

 彼の骨ばった手には、彼が入院患者であることを証明するビニール製の腕輪がつけられている。そこには黒いゴシック体の字で名前と病室、さらになにやら知れないバーコードが記される。そして、そこにあった「E」とは、彼がこの病院におけるE棟……緩和ケア病棟の住人であることを否応なしに瀬灯に知らせていた。

 ……緩和ケア病棟、ホスピス、ターミナルケア病棟、終末期治療施設……どうとでも言える。ただ、そこが、遠からず確定した死をただ待つための空間であるというのはどうしたって揺るぎがない。

 また、E棟は関係者以外の立ち入りは禁止されている。つまりは、瀬灯がE棟を見舞うためには、彼の関係者を装わなければならなかったのだ。

「はぁ……解った。そこまで言うなら、案内するよ。でも後悔しても俺のせいじゃないぞ」

「うん。……ありがとう……」

 二人は、病院内へ足を向けた。


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