第一次天使と悪魔の引き抜き戦争 その2
続きです
「えーと、大変お待たせしました。ガブリエル戻って参りました」
「うむ。おかえりなのじゃ」
ガブリエルが戻って放送席に座るとサタンが冷や汗を滴ながら言う。ガブリエルはサタンがなんで冷や汗をかいてるのか分かっておらず、またその逆でサタンはガブリエルに冷や汗をかいてるのがバレてないか気が気ではない。
「ところでケルヴィエルはどうなったのじゃ?」
「少しお灸を据えただけです」
気まずそうにサタンが聞くと、ガブリエルは少し視線を反らしながら答える。
あんな悲鳴をあげさせといて少しお灸を据えただけじゃと? そう思ったサタンはそれ以上追及する事は出来なかった。
「さて、戦争の方はどうなりました?」
ガブリエルが今の話の流れを断ちきろうとかしわ手を打って仕事に戻る。
藁にもすがる思いだったサタンも急にロープが降りてきたために少し戸惑ったが、それでもその流れに乗ろうと気を改める。
「そうじゃな。お主がお灸を据えに行った数分後に……悲鳴が聞こえたもんじゃから皆手を止めて悲鳴に集中しておったの」
「なんで途中で黙っ……すみません」
サタンは言ってて気付いた。自爆した、と。
ガブリエルがその自爆した事に気付かず理由を聞こうとして誘爆した。姿形は違えど似た者同士である。
「ああ、でも案ずるでない。あやつらだけは聞いてはいないのじゃ」
そうして指差した先には、一週間前の戦いを再現したような詩とベルフェゴールが居た。
詩はケルヴィエルが見せた翼を創造能力で再現した。
詩の創造能力はあくまで見た目だけを想像する能力だが、天使である以上翼があれば飛べるのは至って普通の事だ。
初めての翼の創造で最初は動きにくそうにしていたものの、ケルヴィエルの悲鳴があがってから少しもしない内に飛び方をマスターした。
それに対してベルフェゴールは翼を生やす事が出来ない。だが風魔法の応用によって足元に風を発生させ、空中でも体の安定を保つことに成功した。
初めは少しミスをしてスカートが捲れ上がた。ベルフェゴールは幼女体型とはうらはらに大人びた黒い下着を穿いており、一部の天使と悪魔が歓声をあげると、天使と悪魔にフルボッコにされていた。
天使も悪魔も変態はもれなく居るのである。
「やっぱりこうなるんですね」
詩はベルフェゴールに厳かに告げる。両手には天使らしく弓矢が構えられている。
「あの時はルシファーに止められたけど、今度は仕留める」
前回同様のバトルドレスを来た状態に様変わりするベルフェゴール。続けて普段のベルフェゴールとは思えないほどのしっかりとした口調で詩に向かう。
「七大罪が一つ。怠惰のベルフェゴール……いくよ」
その声で両者は同時に動く。
詩がベルフェゴールを直接狙わずにその後ろに居る悪魔に矢を放つも、魔法陣から呼び出した炎の柱で守る。
その隙をついて早々に弓矢から二振りの短剣に持ちかえた詩はベルフェゴールの懐に飛び込むと右手で袈裟斬り、左手で逆風と繋げようとするが、ベルフェゴールは風の刃をまとった両腕で弾き距離をあける。
「ふむ。さっきはあまりの出来事に急すぎて頭がついていかなかったのじゃが、改めてみると中々のスピードでやりおる」
「ええ。本当驚きですね。ちなみにこの二人。元は人間ですが天海さんは私達の会社の女神の加護を受けてますし、ベルフェゴールさんは魂の霊格が高くて七大罪の一つを司っていますからこの二人が今後のラストピアを支えていく人物になるかもしれませんね」
サタンとガブリエルが実況、解説を入れると、もはや戦争ではなく単純なタイマンとなった人智を超えた勝負に見いっている天使と悪魔がなるほどと呟きを漏らす。
それほどまでに二人が交える攻防の応酬は速いのだ。
「ハァ、ハァ。ベルフェゴールさん。あなた怠惰なんて嘘でしょう? 私だんだんと面倒になってきたんですけど」
肩で呼吸を整える詩に、ベルフェゴールはこれと言って息を荒げる様子は見られない。
「私は基本めんどくさがりだよ」
詩の問いかけにポツリと答える。
「でも詩は私のダラダラを見守ってくれる悪魔達を傷つけようとした……私が頑張る理由はそれで充分」
力強く答えるベルフェゴールに詩はまたかと舌打ちを打つ。
そして前世での事を思い返す。無気力に過ごしていた日々を。今の到底ホワイトとは言えない。その反対にある転生斡旋所天使社で働く今を。
プツン、と詩の中で切れる音が聞こえる。
そして詩の思考回路はこの結論に簡単に達した。
ベルフェゴールを天使社へ引き下ろす。例えどんな手を使ってでも!
おかげさまで再び日間に返り咲きました
ブクマ等ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!