バーサーカー天使と腹黒女神の結託
新キャラが少し出ます
詩とベルフェゴールの戦いの裏で交わされた約束に対し、互いがキチンと署名をしてから戦いの止めに入った。主に戦闘力の高いルシファーが、であるが。
一方止めに入ったリリシィはと言うと、詩にフルスイングのフライパンで片手間に殴られて絶賛落ち込み中である。
そして打ち合わせはキチンとした打ち合わせの形になることなく流れていき、その日はそのままお開きとなった。
悪魔社からの帰り道に座天使に車の運転を任せて後ろで二人並んで座ると、ついさっき交わした約束事を話し出す。
その語られた内容に詩は、たまにはリリシィもいいことをするじゃないかと瞳をギラギラと輝かせる。
ちょくちょく内容に質問を投げかけるとリリシィもしっかりと質問に返していたところから詩は、これは確実にやるパターンなのだと確信した。
その約束事の内容はこうだ。
来週の日曜日に近くにある模擬戦用体育館で天使社と悪魔社の両チームがお互いの人員をかけて戦い、やられた人員は次の出社日から倒された側の会社に異動する。
この際に重役を倒すと後日更に一人追加で異動する事になり、その一人は重役が決める事が出来る。
制限時間は一時間。その間にいかに効率よく倒していき自分達の会社に異動させるかが大きな勝負の分かれ目となる。
そしてリリシィは詩に天使社に戻ったらすぐに各天使の重役達とコンタクトをとるように伝えた。この戦いを本気で勝つために。
☆☆☆
転生斡旋所天使社ではいくつかの部署が別れている。
詩が所属しているのは主に前に立って直接斡旋する側。サービス店などで言う店員と言うのが分かりやすいだろう。
そして詩が訪れたのは熾天使科。リリシィの秘書や身の回りの世話を行ったりする取締役と言う役割だ。いや、普通の取締役は身の回りの世話をすることはないだろうが。
詩は気持ちを落ち着かせてドアをノックする。
中からどうぞ、と反応されたので失礼しますと言って中に入った。
中に居たのは詩よりも少しお姉さんと言った感じの熾天使。ガブリエルであった。
詩は単刀直入にリリシィが言っていた事をそのまま伝える。すると開口一番。飛んできたのは否定のコメントだった。
「ボクはそう言うのあんまり賛成しないな。だってほら、ただでさえ天使不足だって言うのにやられる数の方が多ければ更に負担が重くなるし、その反対にこっちが優勢になれば向こうがツラくなっちゃうもん」
「はぁ」
ガブリエルの真面目な意見に詩はポカンとした様子で聞いている。それに気付かずガブリエルの意見はまだ続く。
「今こうしてギリギリのところで収まっているのはみんな仕事に少しでも慣れているからであって天使社から悪魔社に、もしくはその逆にしてもやり方が少し違うとなると効率が悪くなると思うんだ。だってそうだろう? 今までずっとやり続けていていきなりやり方を変えろなんて言われたら戸惑うよね? ボクはそう言う――あれ? どこに行ったんだろ?」
ガブリエルが語っている時にはすでに詩は部屋を後にしていたところであった。
☆☆☆
熾天使科の部屋から出て今度は智天使科に行こうとしていたところで、智天使の長であるケルヴィエル、またはケルビムと呼ばれるポニーテールの少女に会った。
詩は先ほどガブリエルに説明したのと同じ事を伝えると今度は概ね肯定的な意見が返ってくる。
「なるほどー。ならアタシも手伝ってあげるよ。座天使と主天使、それから力天使と脳天使なら人脈もあるしなんとかなると思う。ダメだったらそれまでだけど」
「すみません。ありがとうございます」
「いやいやー。キミも元人間なのによくやるよ。加護付きとは言え女神にいつも振り回されたりして大変じゃない?」
「ええ、ほんとに大変です。大変ですけどやめたら他の人達の負担がかかっちゃうので」
「そっかー。確かにそうだね。さてと、アタシはこの辺で。ツラくなったらいつでもおねーさんに相談しなさい? 一発女神を殴っておくから」
そう言って詩を強く抱き締めると、詩はあっけにとられながらも「はい」と空返事をする。
それを聞くとケルヴィエルは詩から離れてバイバイと手を振り、「仕事頑張ってねー」どこかへと去っていった。
「そうだった。まだノルマを達成してないや」
最後の最後にケルヴィエルから現実に引き戻されて詩は、四つん這いになりながらかるーく絶望していた。
☆☆☆
このラストピアには三通りの天使が居る。
一つ目はガブリエルやケルヴィエルなどの元から天使として活動していた者達。
特に多くの文献に載っていて数多くの功績をあげていたりするが、異形な姿として見られる事が多く人の形をしているならマシな方だと言う。中にはクトゥルフ神話かと言わんばかりのSUN値をゴリゴリ削りそうな描かれ方をされた天使も居たとか。
二つ目はベルフェゴールのような元は普通の人間だった者から天使や悪魔などの名前が付けられるタイプ。
人間の時点で魂の霊格が高く、斡旋所に来てそこから異世界に転生する事なく、そして天使などの名前が付けられてラストピアに留まると最初から上位の者として存在する事が出来るようになる。
もっとも、ベルフェゴールは大罪の怠惰の枠がたまたま空いていて、ルシファーがスカウトをしたからそこに入れたのだが詩はそれを知るよしもない。
そして三つ目。詩と同様にそのままの名前を引き継いでラストピアに居る者達。
これが一番多くの割合で居て八割程度を占めている。また、極めて稀だが女神からの加護を直接受けられて、受けた女神の能力の一つをほぼ制限無しで使う事が出来るのも大きな特徴だ。
稀とは言え八割も居る中で加護を直接受けている者は指で数えられる程度だが。
その中で今日。天使社と悪魔社が顔を向かい合わせている。
ある者は名刺を渡し、またある者は仕事話に花を咲かせる。
リリシィとルシファーの交わした約束から一週間後。
第一次天使と悪魔の引き抜き戦争が始まるのだった。