打ち合わせは一難?
「はあぁぁぁぁっ!」
「……ん!」
詩は前日にリリシィに行った破壊行為と同じか、それ以上の威力を秘めた矢を放つ。
ベルフェゴールも負けじと自らの能力を使いその攻撃を無力化していく。
「ほんと、よくあれ出来るわね」
「でしょ? 天使社のエースよ。色んな意味で」
その二人の光景を見ながらお茶をすすりリリシィとルシファーは観戦している。
かつてルシファーは熾天使として転生斡旋所天使社で働いていたが、ある時を境に天使数人を連れて新たな会社を立ち上げた。それが悪魔社だ。
当時天使社で扱いきれないほどの黒く染まった魂を取り扱うために作られた堕天科の社員達で結成された企業で、天使社と同業者として、そしてライバルとして戦う事になるのだからと言う意味で悪魔社と名付けた。
そのために当時天使として働いていたリリシィとルシファーは仲が良いのである。
今でもこうして茶を飲み交わすほどには。
「でもまさかベルと天海さんが知り合いだったとはねぇ」
「私もびっくりだよ。まさか転生斡旋の担当が詩だったとは」
「そうね、ただそれよりも――」
「「どうしてこうなった」」
二人はついさっきまでの出来事を思い返していた。
☆☆☆
事件は打ち合わせ開始と同時に起きた。
「やっぱりここに居たんですね?」
「ん。異世界とかで暮らすの面倒だから」
詩とベルフェゴールが睨み合い、詩は強めの言葉で。ベルフェゴールは物静かに言葉を交わす。
場所は悪魔社の一室でお茶だしをルシファーが自ら率先していた時の事だ。
「そうですか。でも何でよりによってこっちに来てるんですか。もしやと思いましたが予想的中してしまって私は悲しいです」
「どんまい」
「どんまいじゃないんです! おかげで天使社に入らないから負担は重いままで、異世界に斡旋した数がカウントされないから魂一つ分余計に仕事しなきゃいけなくなったんですよ!」
ベルフェゴールの吐いた何気ない一言に、ブラック企業で働いていてすり減った精神が追加で削られた詩は早々にキレた。
「おおう、相当病んでるな」
その原因が知らぬ存ぜぬと言った様子で面白そうに呟くが、ルシファーはその言葉を聞いただけで察する事が出来た。
出来なかったのはキレて思考停止してる詩と、ボーッとしているベルフェゴールだけである。
「そっか。なら大丈夫。詩の分は私がしっかりとゆっくり休んでおくから」
その言葉が詩にとっての起爆剤だった。
「よろしい。ならば戦争だ!」
「……面倒だけど、たまには頑張る」
詩が両手に四角く小さな紙を造り出して構えると、ベルフェゴールも幼い体に不釣り合いなスーツからヒラヒラとした光さえも吸収するようなミニスカートのドレス姿に変身する。
「さあ、私の名刺を、受けとれー!」
投げる瞬間に名刺を増やし手裏剣の如く投げつけた。
ベルフェゴールはクルクルと回転しながら自分に向かってくる名刺を視認すると、「充分」と言って手のひらから魔法陣を宙に描く。するとそこから名刺に向かって炎が舞い踊る。
その様子は名刺に対する絶対的な殲滅だった。
「私の名刺を受けとるのがそんなに嫌なのか!?」
「だって引き抜こうとしてくるじゃん。面倒だもん」
詩の手の内は分かるとでも言わんばかりにベルフェゴールが言葉をゆっくり返せば、対する詩がそれにつっかかる。
「勿論するに決まってるだろう。何せ一人一人の負担が多すぎるんだ。募集かけなきゃ誰も入ろうともしないんだし勧誘の一つや二つ。なんなら二桁いっても許せ!」
激しい攻防の応酬と共に、これまた激しい口論の応酬である。いや、口では主に詩が一方的に話しているだけだが。
ベルフェゴールはと言うと、顔がひきつりながら詩の話す言葉に耳を傾けている。名刺の弾幕を燃やしたり避けたりしながら。
そうして詩に近づいていき肉薄したところで、しっかりと聞き取れるようなはっきりした言葉を詩に投げかける。
「やだ断る」
これが詩とベルフェゴールが起こす本気の戦いの始まりであった。
そして話はリリシィとルシファーの茶を飲み交わしながら雑談しているところへ戻る。
多種多様な物を創造能力で作り出しまるでそれら一つ一つに意思があるのではないかと言う攻撃をする詩に対し、ベルフェゴールは魔法陣を同時に五つ展開すると、炎や水、風、雷、地属性の魔法を繰り出して互角の戦いを繰り広げていた。
ベルフェゴールは新米でありながら天才なのである。また名前に七大罪の一つの名前がついている時点でその能力の高さは簡単に察する事が出来るほどだ。
「ねえ、これいつまで続くの?」
「いつまでだろうね。ただこのままやっとけば詩の弱味を握れるから泳がせているんだけどね」
リリシィの言葉を聞いてルシファーはこいつなのに腹が黒い奴だなと認識を改める。と同時に詩の不遇さにあることを思い付いた。
思い付いたそれをリリシィに耳打ちすると、リリシィはニヤっと黒い笑みを見せる。
「それはそれは。本当にいいのかな?」
「ええ、勿論よ」
「じゃあこれは来週の話って事で」
詩とベルフェゴールの攻防の裏で二人の上司は密かに約束を結んでいたのだった。
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