悪魔社と怠惰の少女
今回は少し場面が変わります
ついでに新キャラも出ます
ジリリリリリンと言う目覚まし時計が鳴る前に詩は目を覚ます。
時計の針を確認すると短針は五を指している。詩が普段目を覚ます一時間前だ。
――もう後五時間もすれば打ち合わせか。
ベッドの布団を剥がさずにシミュレーションをする。するのだがまだ目覚めたての頭では思うように頭が回らない。前日の夜はビールを一滴も摂っていないのにだ。
こうなるのなら一缶でも飲んどければ良かったと少し後悔する詩だが、過ぎたことは仕方ないと気を引き締める。一缶でも、と言うのが実に飲んべえらしい。
シミュレーションを終えてからグッと背筋を伸ばして体をリラックスさせる。同時にあくびが出るのでふあぁと一つ。
ベッドから出てパジャマからいつものスーツに着替え、同時に朝飯としてトーストを一枚食べる。
そこまでして仕事が始まる時間まで残り一時間。とは言え打ち合わせの段取りなどの事があるので詩はそのまま会社へ出勤した。
☆☆☆
転生斡旋所悪魔社。ここは天使社では扱う事のない魂を扱う会社である。
例えば転生を望んで自ら死ぬ者などが仕事の大半を占めている。他にも天使社で魂の選別をする際に規格外として出された魂の取り扱いなどだ。もっともこちらは生前に大量殺人などの大きな罪を重ねたものが流される場所なので、あくまでも普通の魂は来ないところだ。
「今日は天使社の方々が来るので粗相のないように。それ以外はいつもと同じで。今日も頑張りましょう!」
『頑張りましょう!』
「……がんばろー」
腰まで伸びた長い黒髪を先端でまとめ、シャープな眼鏡をかけた背の高い女性が社内の一室で他の悪魔をまとめて朝礼をする。
彼女は七大罪で有名一人、ルシファーである。
傲慢として名高いルシファーであるが仕事に関しては真面目に取り組んでおり、今や転生斡旋所悪魔社の社長として活躍している。
ルシファーの音頭に他の悪魔が続くなか、一人だけ覇気のない者が居る。
怠惰で有名なベルフェゴールである。老人の白髪とは違う透き通るような白髪に眠たげな瞳。子供のように小さな体の彼女は最近悪魔として転生したばかりの新米である。
「どうしたベル。それだと今日の打ち合わせであちらに迷惑をかけてしまうぞ? ベルにとっては今回の仕事は初めての大仕事だろうが何も心配は要らない。何せ今日の打ち合わせは――」
カツカツとヒールの音をたてながらベルフェゴールの隣にやって来ると!顔を同じぐらいの高さにあわせて囁くように言う。
「――私の知り合いが居るからな。大丈夫だ」
「ん。私も天使社に一人。知り合い居るよ?」
「そうか。ならその知り合いが打ち合わせに参加してくれる事を願うのがいいな」
フッと悪魔とは思えない暖かな笑みを浮かべてベルフェゴールの肩をポンと叩く。もう片方の手でポフポフと頭を撫でるとベルフェゴールの目が糸のように細くなり、うとうとし始めた。
「……ん、詩。会いたいな」
「ってベル! 寝るならここじゃなくて休憩室で寝るんだ!」
ルシファーは前後に船をこいでいるベルフェゴールを背負うと部屋のドアを開ける。
振り向き様に「休憩室に置いてきたらすぐに戻る。それじゃ!」と悪魔達に伝えると部屋を出ていった。
取り残された悪魔達はと言うと、互いの顔を見合わせていつもの事かと笑いながら納得して仕事を始める。
ベルフェゴールが入ってきてまだ二ヶ月と経っていないのだが、それがいつもの事かと思われるのはこのやり取りが二日に一回。下手すれば毎日の時もある。
何はともあれベルフェゴールは毎朝寝る時は寝るし、ルシファーはそんなベルフェゴールを放っておけずに休憩室まで連れていき、それを悪魔達が見守るのが悪魔社での日常となっていた。
リリシィが運営する天使社とは大違いの暖かな職場であった。
☆☆☆
「くしゅん! ふむ、誰か私の事を噂しているな」
天使社にて。リリシィが自分のイスの上でくしゃみを一つする。
詩はそれに反応してリリシィに尋ねた。
「風邪ひいたんじゃないですか? なんなら私に移してくれてもいいんですよ?」
「どうせ休みたいだけでしょ?」
バレたかと言う表情をする詩に、その事を見破ったリリシィは誇らしげにする。
だが悪魔社と違い、どこかギスギスとした重苦しい部屋の中で天使達はそこまで興味がないかのように手元にある資料を整理している。みなどこか顔がげっそりとしている。
もはや末期と言われるような有り様だった。
詩の願いを却下したリリシィは更に言葉を紡ぐ。
「それに詩は簡易的とは言え今日の打ち合わせで私の同伴なんだから。休みは許されないわよ?」
ぷうっと頬を膨らませる詩にリリシィは可愛いなと思いつつ手を叩くとこの話題を無理やり終わらせて仕事につかせる。
そして打ち合わせの時。
そこには激しい戦いを繰り広げる詩とベルフェゴールの姿がそこにあった。