こちら転生斡旋所です
一風変わった話になると思います。
どうぞお楽しみくださいませ。
少女は魂と対面していた。真っ白な空間の中で。
魂は今まで生きていた形を成していて、この魂は前世では人だったという事が理解出来る。
少女は人型の魂に話しかける。
「ようこそ。こちら転生斡旋所です。転生先に志望はありますか?」
「転生先を選んでもいいんですか?」
人型の魂が少女に訊ねる。少女は大きく頭を縦に振った。
「勿論です。当社は転生者がどの世界でも行けるようにサポートするのが仕事ですから」
転生斡旋所とは、有り体に言えば魂のハローワークである。
そこでは一日に何千何万といった魂がやって来て、それを別のナニカにして別の世界に送るのである。
ただし最近は異世界に転生するんだと言うものはここ転生斡旋所の天使社ではなく、正反対の悪魔社に送られる事がしばしばあるが。
もっとも、今回の人型の魂はそれを望まずして死んだらしいので天使社で対応しているわけだ。
「おすすめはこちらの世界です」
少女は紙を差し出す。そこには『新人さん歓迎! 一緒に楽しく天国ライフ! お求めは転生時に対応している天使まで』
明らかに求人紙に書かれているページだった。
それを手に取る人型の魂。顔は明らかにひきつっている。
何故なら。
それを差し出す時の少女の顔はどう見ても紙に書いてある楽しくとは遠く離れた顔をしていた。
それもそのはず。転生斡旋所の天使はずっと昔から慢性的な人員不足なのだ。
それとここ最近の転生ラッシュで転生斡旋所の天使は、いや、この転生斡旋所事態が大打撃を受けている。いくら大手の企業と言えども、だ。
「……普通の異世界でお願いします」
「……そうですか。かしこまりました。普通の、と言えばこちらですね」
再び紙を差し出す。人型の魂はそれをみて、今度は素早く「ここは要らないです」とつっぱねる。それはやはりと言うべきか。転生斡旋所のチラシだった。
流石にもう脈なしだと理解した少女は、それこそお役所仕事のように仕事をこなし始める。
転生先の紹介からその世界の説明。果てには特典をつけたりと流れるように仕事をする。
人型の魂はさっきまでの対応や様子と違っているせいか少女に戸惑いつつも次々と設定していく様を見ていた。
そして――
「ではまた良いライフを」
少女の言葉と共に人型の魂は、高く高く昇っていく。
その光景を見て、少女は一人ごちる。
――私も、異世界に転生すれば良かった、と。
少女も先程の人型の魂と同じように自ら転生に望む者ではなかった。
少女は常にダラダラとした日々を送っていたが、ある日トラックに轢かれそうになった猫を助けるために飛び出し助ける事に成功した。
自分の命と引き換えに。
気付けば少女は知らない世界にいた。ここ、転生斡旋所だ。
そこで少女はこの場所で仕事をしないかと持ちかけられた。今やこの転生斡旋所の社長となった女神リリシィ直々に。
それからと言うもの無気力だった少女の日常は一変した。
どこにでも居るような動物好きな花の女子高生である少女の名前は、そのまま引き継ぎ天海 詩だ。しかし見た目はそれまでとは違い、病弱なのではないかと思われる肌は健康的な小麦色をした肌になり活発なイメージにさせる。
柔和な笑みを浮かべた顔と日本人であった名残の黒髪をポニーテールでまとめスーツを着ていた。
過去を振り返っている詩に後ろからリリシィが話しかける。
「おやおや。久しぶりに来てみたらどうしたの? そんなやつれた顔しちゃって」
「あなたのせいでしょうが、コンチクショー!」
握りこぶしで女神のこめかみをギリギリと音をたてる詩。
女神と言えど痛覚はあり、「イタイイタイ! 私をなんだと思ってるの?」と悲鳴をあげる。
ある程度経ち詩はこめかみから両手を離すとフー、フーと呼吸を乱して威嚇するリリシィ。
女神であるリリシィ相手にこの仕打ちである。恨みは相当のようだ。
「私は詩に相談を持ちかけに来たんだよ」
「相談ですか?」
詩は警戒しながらリリシィの言葉に反応する。どうしても転生時の事が忘れられなくていまだに疑っているのだが、リリシィはれっきとした女神であり、ブラック企業の社長になったのも単なる世襲性だからである。
もっとも、詩からすればそんなことは関係ないのだが。
「うん、相談。詩がよければなんだけどね――」
「はい」
あえてゆっくりとした口調でわざとらしく引き伸ばすリリシィに、詩は早く言えと思いながら吐く言葉を聞き逃すまいとしている。
「――私のお茶だし。頼めるかなぁって……イタイ! 何もフライパンを創造しなくてもいいじゃない! それで私を殴らなくてもいいじゃない!?」
リリシィが言った内容をほぼノータイムで理解した詩は、リリシィの加護を受けているため物を創造すると言うとんでも能力を使いフライパンを作り出した。そのフライパンをハリセンのように垂直に振りおろす。
勿論女神であるリリシィは特に怪我等をすることがないため衝撃しか与えられないが、詩はそこに目をつけた。
――そうだ。殴っても傷付かないなら遠慮なくいっちゃおう。
その思考が今の現状を生み出したのだ。
「次変な事言い出したら今度は中華鍋です。いいですね?」
「は、はい」
立場ではリリシィの方が上だが、この場では詩の方が一枚上手なのだった。