デートと尾行 その4
お待たせしました。デート編4話目です
フードコートコーナーと言ってもここの遊園地には様々な店が存在する。
例えば小腹を満たすようなフライドポテトやチキンナゲット。大人数で来てもみんなでシェア出来るように量が多めになっている。
対してしっかり食べられるようなラーメンやカレー。遊園地だからと手を抜かず、むしろ専門店にすらひけを取らないクオリティに遊園地にくる度にそれを食べに行くなんて人も居るんだとか。
とは言えまだ出来立ての遊園地なのでリピーターはあくまでも他の遊園地の話だが。
「なに食べましょうか」
ベルフェゴールにどれがいいかを尋ねる。来る途中に顔の赤みが引いたベルフェゴールはしっかりとどこがいいかを探す。
そして目に留まったところで指を指す。指した先は平たく丸い生地にチーズやトマトソースが乗り、さらに輪切りのソーセージや色とりどりの野菜が乗った食べ物。ピザがあった。
「ピザ、食べますか?」
詩が尋ねるとコクりと首を縦に振るベルフェゴール。少しはしゃいでいるからだろうか。若干力強く振った。
遊園地のピザ屋でも様々な種類のピザがある。ただベルフェゴールが少食との事で分け合う事にした二人は、おすすめの品であるマルゲリータを頼むことにした。
そして待つこと数分。マルゲリータが二人の待つ席に運ばれた。
マルゲリータは焼きたてで湯気がたっており、半分に切るとチーズが溶けてとろっとしている。また、マルゲリータの耳は丁寧に焼かれておりサクッとしたクリスピー生地であり、二人とも好みの生地で大盛り上がりである。
「いただきます」
「ん……いただきます」
本来ピザは食べるときに一枚一枚を切って食べるものだが、そうするとベルフェゴールが手間になるだろうと言う詩の配慮から八枚に切り分けた。
そしてベルフェゴールはその中の一枚を手に取ると、出来立てのためにチーズがとろけて伸びる。
「詩、見て、これ凄い……!」
目を爛々と輝かせベルフェゴールは興奮している。マルゲリータはチーズの白とトマトソースの赤。それからバジルの緑でイタリアの国旗をイメージしており、ここのマルゲリータはチーズが大量に乗っているためにチーズの伸びが凄いのである。
「確かにこれは凄いですね」
詩も初体験のチーズの量に驚きを隠せないでいる。だがやはり、食べ物は食べれば減るもので、詩が五枚、ベルフェゴールが三枚を食べてマルゲリータは姿を消した。
食べ終わって詩はウェットティッシュで口回りを拭くと、ベルフェゴールはそれを見た。ゴキュリ。
思わず生唾を飲むベルフェゴールに詩は気づいていない。
「さて、それじゃあそろそろ行きましょうか」
席を立って食器やゴミを片付ける詩を見て、ベルフェゴールは慌てて席を立つ。そのため、イスが後ろに倒れてすぐ近くに座っていた人にぶつかる。
「あっ。その、すみません」
ベルフェゴールは謝りながらイスを立て直すと「あれ? ベルちゃん?」と耳にした事のある声が聞こえる。
誰だろうと顔をあげると天使社で働いている時とはイメージが異なるガブリエルがいた。その向かいにはケルヴィエルもいる。
「あれ、ボクの顔になにかついてる?」
詩とベルフェゴールが居ると思っていなかったガブリエル達の登場に目を点にしていると、ガブリエルは頬をぽりぽりと掻いて問う。
ガブリエルの格好はボーイッシュな口調とはうらはらに、実に乙女らしかった。淡いピンク色のワンピースに茶色のベルト、バッグを斜めがけしてスーツではそこまで目立っていなかったガブリエルの胸が強調されている。
詩はガブリエルの胸を仰視する。何故だと言わんばかりの刺すような視線の理由はガブリエルも貧乳だと思っていたからなのだが、胸がボーイッシュなのは詩だけであった。
「どうして、ケルヴィエルがここに?」
ベルフェゴールがケルヴィエルに問い掛ける。それもそのはず。ここの遊園地のチケットはケルヴィエルから直接渡されたものなのだから。
「ああ、それはアタシのちょっとしたミスで……あっ、違うよ?」
「確かに今日のデートはいつものデートとは違ったね。どういう事か話してもらおうか」
口を滑らせたケルヴィエルは慌てて弁明するもガブリエルがいぶかしんだ目で見る。仕方ないと事の顛末を話した。
☆☆☆
時間は少し前に遡る。
リリシィとルシファーのお願いにより、詩とベルフェゴールのデートのプロデュースを手伝いをすることになったケルヴィエルは、二人が日曜日にデートさせる事に成功した。
次の日に、ガブリエルからデートに行けると言う事を聞いたケルヴィエルは自分達用のデートプランを練り、それをメモ用紙に書いて仕舞った。その後にリリシィから手渡されたメモ用紙も同じ場所に仕舞う。
そしてケルヴィエルの退勤と同じタイミングで詩にメモ用紙を渡すのだが、渡す時に中身を確認せずに渡してしまい、その後に自分が立てたプランを渡した事に気付く。
だからと言って自分の持っているリリシィから渡された紙と、交、ケルヴィエル本人が組んだデートプランを書いた紙を交換することになったら疑われる。
そう考えたケルヴィエルは紙がなくても頭の中に残っていると意気込んだのだが、結果としてド忘れ。ルシファーのプランに頼ったと言う事だ。
それらを語り終えたケルヴィエルは三人からのジト目にうっ、と唸り声をあげる。
「そう言えばお化け屋敷で社長に会いましたね……そこら辺、なにか知ってますよね?」
ニッコリと笑顔のままドスを聞かせてケルヴィエルに恐喝紛いの事をする。詩の迫力に負けたのか唸りつつも包み隠さずに話した。
そう、ルシファーが二人の後をつけていた事も。