デートと尾行 その3
「くっ……完全に見失ったか」
気を取り戻したルシファーは園内を一通りぐるっと巡る。だがその間に二人の姿を確認することは出来なかった。
今が何時か確認するために腕時計を見ると、針は十二時過ぎを指す。
確かこの時間は混むことを予想して昼食をずらしたのだからそこにはいないだろう。ルシファーは思考を張り巡らせる。
そして考えている間にふとデートプランの事が頭によぎる。慌ててポケットに入っているデートプランの写し書きを確認すると、書かれていたのはお化け屋敷。
――遊園地のお化け屋敷程度なら特に問題ないだろう。
ルシファーは目星がついたところが、ジェットコースターのような恐怖体験をする場所で無いことに感動を覚えながら向かって行った。
閑話休題
ルシファーがお化け屋敷に入ると同時に女性の悲鳴が響き渡る。どこかで聞いた声だな。そう思ったルシファーは何があったのかをお化け屋敷を無視して駆け足で行く。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!」
女性の震える声。いくらお化け屋敷でもどこか様子がおかしい。ベルフェゴールになにかあったのではないかとさらにその足を速める。
曲がり角ですぐ戦えるように
そして、辿り着いた先で見たもの。それは――
「お願い、もう許して。詩」
吊し上げられたリリシィと、能力を使って紐を引っ張っている詩。その後ろにはベルフェゴールがキラキラと輝いた瞳でその様子を見ている。
――そんなものを見ちゃいけません!
とは言えここで出ていけば尾行していたのがバレるし、バレなかったとしても遊園地に一人でくる寂しい人だと思われる。それが枷となってルシファーの足を止める原因となる。
「それで、どうしてこうなったか分かりますよね?」
創造能力によりデッキブラシを造り出し、ブラシ部分でリリシィをつつく。
「やめて! まだ私は汚れてないの!」
「何言ってんですか」
「ちょ、やめ、ほんとお願いします!」
両手が後ろに縛られて宙ぶらりんになり為す術がないリリシィに、詩はそれに構わずデッキブラシでつついている。
「ごめんなさい、私が悪うございました! なのでどうかこのヒモを解いていただけないかと」
「やだ断りますよ」
慈悲もない。
ルシファーは影に隠れながらこのやり取りに飛び込まなくて良かったと安堵。したのだがそれと同時にこの後どうするかと考える。
周りを見ればここは心理的なホラーに特化しているようでおどろおどろしいBGMが流れ、来た通路は真っ暗闇。時々叫び声が聞こえてきて後ろに戻るのは難しそうだ。
更に先にはこの修羅場。乱入したらどうなるかなんてのは簡単に想像がつく。それすなわちバッドエンドだ。
「くっ、こうなったら――」
「こうなったら?」
「助けてルーちゃん、へるぷみー!」
右往左往しているとリリシィがルシファーに助けを求める。本人はルシファーが居るのを知らないで完全に当てずっぽうで叫んだだけなのだが、ルシファーは呼ばれたことによりビクッと体を震わせる。
――それにしても懐かしい呼び方を。
旧天使社でリリシィと働いている時の事を思いだし感傷に浸る。
「呼んでも誰も来ませんよ。さあ大人しくお縄につきなさい」
「もう、縛られてるよ?」
「そうですね。では大人しくお縄に縛られてなさい」
ベルフェゴールが詩の言い間違いを指摘すると、詩はあらためて言い直す。
が、ベルフェゴールの指摘は明らかにそこではない。
ルシファーが出ようとしたその時だった。
ベルフェゴールがルシファーの方をチラッと見ると、ニヤリと笑うように見えた。
――感付かれている!?
ベルフェゴールはその後ルシファーの方を見ることはなかったが、ルシファーは詩の気がすむまで解放されなかったリリシィがその場を後にするまでは、そこから動く事が出来なかった。
お化け屋敷を出てから詩はベルフェゴールに気になった事を尋ねた。
「ベル、さっきリリシィから顔を背けてましたけど、どうしたんですか?」
「あれは、詩がもう縛られてる社長に対して更に縛るのかと思ったら、笑っちゃって……ふふ」
ベルフェゴールが思い出したかのように笑う。
そこまで社長の事が嫌いなのかと考えながら、ベルフェゴールの頭を無意識にポンポンと優しく叩くとフードコートに向かうのだった。
顔を真っ赤にしたベルフェゴールを連れて。
毎度お読みいただきありがとうございます。
唐突ですが読まれた時に話数が変わってて何かあったなって思った人もいるでしょう。
説明させていただきますと、素敵なファンアートをおいぬ様より戴きました!
前話の更新後に戴いたのであとがきには書いてませんが、更新されていたのでもしかしたら見た人もいるかもしれませんね。
昨日見た人も見なかった人も、良かったら可愛らしいファンアートですので是非見ていってください!
ちなみにファンアートはいつでも受け付けてますよ?