デートと尾行 その1
遊園地に遊びに行く約束を交わした一週間後。二人は午前十時に待ち合わせをした。場所はラストピアの中央駅だ。
中央駅はその名の通りラストピアの中央区にある一番発展している駅である。下手なスーパー行くより駅に行く方が安かったりサービスでお得だったりするので詩にとって庭のような場所だ。
先週ケルヴィエルにデートと言われ、一応お洒落しておこうと思い白いシャツに伸縮性の高いスキニージーンズ。少し低めのヒールを履きスラッとした印象を持たせる。
「変じゃない……ですよね?」
改めて起きた事を思い返しため息を吐く。
遊園地に長らく行く事がなくて舞い上がっていたとはいえ、仮にも好意を示してくれる人に自分の欲望のために付き合わせるのは、詩の性格上どこか罪悪感を感じてしまう。
一人でうーんと唸りながら百面相しているとバスからベルフェゴールが降りてくるのが見えた。
ベルフェゴールは詩同様白いシャツの上にオーバーオールを着ていて、赤い花があしらわれた少し大きめのキャスケット帽を目深にかぶっている。
詩が手を振ってここにいると合図を送るとベルフェゴールは嬉しそうに詩に駆け寄ってきた。が、途中ではぁはぁと息を切らしている。
「大丈夫ですか。ベル」
ハンカチを取り出してキャスケット帽を少し上にずらしてベルフェゴールの額に浮かんだ汗を拭く。
「はぁはぁ……ん、ありがと」
息絶え絶えになりながらもベルフェゴールは詩に感謝の言葉を返す。
少しして落ち着いたベルフェゴールは詩と一緒に遊園地行きの直通バスで一時間ほど揺られながら行く。
そうして到着した先にはまさに遊園地といった趣のある場所だった。
二人しておおー、と声をあげる。
詩もそうだが実はベルフェゴールも遊園地に来るのは久々なのだ。理由は詩と違って面倒だからというのだが、それでも今日来たのは詩と一緒に遊べるからである。
少し進むと受付所がありそこでチケットを渡して遊園地に入る。
そこはまさに夢のような場所だった。
遠くから見ただけでも大きいと感じられた観覧車が、近くに寄ると巨大という言葉しか出てこなくなる程だ。
詩はカバンからメモ用紙を取り出すと、可愛らしい丸文字で書いてある内容を見る。これは昨日ケルヴィエルから困ったらこれを順に進んでいけばいいと渡されたものである。
詩はちょうど悩んでいたところだったのでまさにわたりに船といった感じだ。
プランはこうである。
まず始めにこの遊園地のメインとも言えるジェットコースターに乗る。定番どころだとは思うが掴みとしては上々だろう。
続いてジェットコースターの近くにあるジェットコースターに乗る。こちらは最初のジェットコースターと違いレーンがグルッと一回転するような作りが多々あり、こちらは絶叫系が得意な人におすすめなのである。またジェットコースターかと思いつつ詩はその次に目を通す。
三つ目は一つ目と二つ目、どっちがよかったか相談して二人で乗る。詩はメモ用紙を破りたい衝動に襲われるも、他にどこを見て回ればいいのか分からないので仕方ないと諦める。
「まずはジェットコースターに行きましょうか」
メモ用紙をしまいながらベルフェゴールをリードする。
ベルフェゴールもそれに頷き詩の手を繋ごうとするが、しばし悩んだ末にため息を吐き後をついていく。
☆☆☆
時は詩達が遊園地に行く前日に遡る。
悪魔社の一室。夕陽に照らされたイスにルシファーは腰をかける。
「とうとうベルは明日そちらさんの詩さんとデートのようね。ところで私がプロデュースしたデートプランは渡したのよね?」
画面の向こうに居る人物に問いかける。画面向こうの相手はリリシィだ。
リリシィはフッと笑うと「問題ない」と返す。
「珍しいわね。あなたがすんなりと紙を渡せるなんて」
「当たり前じゃない。ケルヴィエルに渡すように頼んだんだからね」
ルシファーはいたたまれなくなった。だかそれよりもデートプランを無事渡せた事に安堵を覚える。
――これで明日のデートをゆっくり見守れる!
リリシィとの通信を切った悪魔社の部屋には親バカ気味なルシファーの高笑いが響いていた。
そして翌日。ルシファーは朝八時に遊園地前で目立たないような格好で立っていた。全身迷彩柄である。むしろ目立っていて仕方なかった。
「……来ない」
ルシファーが一人ごちる。
シャープな眼鏡がキラッと光るがそれが余計に残念感を醸し出している。
「ママー、あの人変ー!」
「しっ、見ちゃいけません!」
子供がルシファーに指差して言うと、母親は子供の目を手でふさぎ見せないようにする。あの世もこの世もこういったやり取りは稀であるが、それでも存在するものだ。
「来てくれ……私のために!」
ルシファーは子供に指差された事がショックで心が折れかけるが、ベルフェゴールのためだと心を奮い立たせる。
だが待てども待てども来る気配がなくルシファーは諦めようとしかけた。その時だった。
バスから二人の姿が見える。と同時に隠れなければと近くの建物の影に隠れ二人が遊園地に入るのを確認した。
――よし。私も後をつけるとしよう。
自ら購入したチケットを受付所に出して入園の手続きを済ませる。
二人の楽しみ方とは違った楽しみ方をしようとするルシファーの姿がそこにあった。
詩同様遊園地なんてここ数年行ってない作者が後数話、遊園地の話をお送りします←