ベルフェゴールのいる天使社
前話にて詩の場面で指摘があったのでそこを少し加筆しました
「さて、昨日の引き抜き戦争の結果でベルフェゴールさんが天使社に、重役だったので一人選ぶと言うことで詩を、さらにその詩も重役だったってことでケルヴィエルが天使社に入社してくれた。皆。三人の事をよろしく頼むぞ」
リリシィが嬉々としてほかの天使達にそう告げる。詩とケルヴィエルは出戻りといった事になるが、リリシィはそれをスルーした。
社員達が拍手している理由は人員が減らなかったからだろうな。
詩は濁った目をしながら同僚達を見つめる。
「ところであのー、なんでアタシここに? 智天使科は?」
「ああ、それならウリエルが務めることになったから気にしなくていいわよ」
ケルヴィエルの質問にリリシィは胸を張ってどや顔で答える。それを見た詩から殺気が放たれるのは別のはなし。
ウリエル……ああ、あの天然か。
ウリエルと聞いてケルヴィエルは誰だったかを思い出す。詩達平天使はそもそも面識がないので分からないままだが。
リリシィがケルヴィエルの肩にポンと手を置き、純粋な笑みで言葉を続けた。
「だからケルヴィエルは何も気にせずここで働いてね?」
「えっ……あっ、ハイ」
ケルヴィエルは生返事だった。それはそうだろう。今までやって来た仕事を簡単に他の人に奪われたのだから。
「なに、大丈夫よ。詩が基礎的なところは教えてくれるわ。ベルフェゴールさんと一緒に……ベルフェゴールさん?」
だがリリシィの呼び掛けに、ベルフェゴールは応じなかった。何故なら。
「……ん、もうそんなに食べられにゃいよ」
ベルフェゴールは立ちながら寝ており、実にテンプレートな寝言を口にしていた。
閑話休題
「――と言うことで詩に教えてもらってね」
ベルフェゴールが目を覚ましたのは既に朝礼が終わっており、各自仕事に取りかかっている最中だった。
リリシィはそんなベルフェゴールに一から詩に教えてもらう事までを伝え、ベルフェゴールはなるほどと頷く。
ルシファーもそうだがリリシィも案外面倒見がいいのである。ただしリリシィの場合は後々役に立つものに対してのみという条件が追加されるが。
いつも起きたら仮眠室にいたのにな、とベルフェゴールは思う。立ったまま寝てしまったので足が痛い。その事に気をとられていて実はリリシィの話をほとんど聞き流していた。ぜんぜんなるほどではなかった。
とりあえず仕事は詩に聞くと言うところだけを覚えていたベルフェゴールは、詩の持ち場へと向かった。
「それでは良い異世界ライフを! ……ふぅ」
ちょうど詩がまた一つノルマをこなしたタイミングでベルフェはやって来た。
詩が仕事をしているところを見て転生する時の事を思い出していたら、詩の横で仕事内容を覚えていたケルヴィエルが声をかける。
「えっと、昨日簡単にやられたアタシの事、覚えてる?」
暖かな記憶からいきなり現実に引き戻されてベルフェゴールはあたふたとする。
――確か昨日名前を呼ばれて出てきた。その人だ。名前は……なんだっけ?
「あはは、その様子だと覚えてないらしいね。アタシはケルヴィエル。智天使科配属だったけど……今は天使科だし同期なんだから気軽に話しかけてね。それと昨日の勝負の事は引きずるつもりはないから安心してね」
ベルフェゴールが言葉につまっていると、優しい声でケルヴィエルが幼子をあやすように話す。
敵意がないと言う事を確認したベルフェゴールは肩の荷をおろす。
「私はベルフェゴール。昨日まで七大罪の怠惰を司っていたけど今は……何も、ない」
言ってて心がぎゅっと締め付けられる。
泣く気なんてなかったのにぽろぽろと涙がこぼれてくる。
私は何をやっているのだろうとひどい後悔に襲われても泣き止む事が出来ずにいる。
視界にはつい昨日会ったばかり、更に言えばきちんと自己紹介したのは今のケルヴィエルがオロオロとしている。
それらの要因がベルフェゴールの心を強く締め付ける。
不意に頭を撫でられた。
ベルフェゴールはびっくりして自分の頭を撫でる人物を見上げる。
褐色気味の肌に薄めの化粧によって大人びた少女。
前世で死んだ魂をこの世界に導いてくれた少女。
「ここは魂の斡旋所ですよ。泣いてちゃ仕事になりません。私たちは魂を次の世界に笑顔で送り届けるのが仕事なんですから」
とは言え私も終始笑顔でいる事は出来ませんけど、と苦笑いで付け足す天海 詩がそこに居た。
ベルフェゴールはそんな詩を見て、泣き止むどころか安心感を覚えていた。