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午後になって雨足は更に強くなってきた。
いつもは日当たりのいい
「ひまわり」の中も薄暗く、
間接照明から蛍光灯に切り替えられていた。
事故を目撃してしまった愛ちゃんは、
まだ興奮している様子で、
青い顔で小刻みに震えている。
病院へ付き添った職員から連絡がきた。
緊急手術が行われ、
縫合には成功したのだが、
今日は入院することになったので、
しばらく付き添わなくてはならないという。
僕の方に用がなければ、
時間を延長して欲しいという事だった。
僕はためらいながらも了承しざるを得なかった。
香田さんの予想通り、
大雨の中では、お客さんは誰も来なかった。
「怪我しちゃった大川さんの手術ね、
無事に終わったんだって」
愛ちゃんは少しうるんだ目で
僕を見上げた。
「良かったね」
「うん」
自分自身を落ち着けるように、
小さく息を吐いて、
にっこり笑った愛ちゃんが、
今までに見たことがないくらい
可愛かった。
僕は思わず愛ちゃんを抱きよせた。
今日も綺麗に整えられた髪から、
いい匂いがした。
その後の僕の行動は、
魔がさしたとしか思えない。
もしかしたら、
愛ちゃんが僕に魔法をかけたのかもしれない
とさえ、思っている。
それほど、
自分でも抑えきれない衝動が
突然襲ってきたのだ。
僕はあろうことか、
お店の入り口に鍵をかけた。
蛍光灯を消すと、
店は間接照明だけになった。
愛ちゃんは僕の傍に寄り添い、
僕の行動をじっと見ていた。
僕は愛ちゃんと向き合った。
愛ちゃんは状況が理解しきれない様子で、
少し首を傾げて僕を見た。
僕の目が怖かったのかもしれない。
少しおびえたように、
顔をこわばらせた。
僕は今度は少し強引に、
愛ちゃんをぎゅっと抱きしめた。
愛ちゃんはびくっとして、
身を堅くした。
もしこのまま愛ちゃんが、
拒否し続けてくれたら、
たぶん僕は気持ちを、
こみあげてくる衝動を
抑えられた気がする。
でも愛ちゃんは違った。
愛ちゃんの身体から、
すっと力が抜けていったのだ。