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恋うた   作者: 城市佳
2/10

朝から土砂降りに近い雨だった。

電車はのろのろ運転で、

いつもの倍近く時間がかかった。

作業所までは駅からかなり歩く。

僕がびしょ濡れになって、ようやく辿り着くと、

職員の梶山さんがモップで床を掃除していた。

梶山さんは僕の母親と同じぐらいの年の女性で、

三人いる常勤の職員のひとりだ。


せっかく綺麗になった床を汚さないようにと

僕はしつこいぐらいにマットで靴を拭いた。

「木場君は体調が悪くてお休みだって」

梶山さんが、僕にタオルを手渡しながら、言った。

その目がちょっと笑っている。

同じ大学からボランティアに来ている木場は、

やる気がないわけではないのだが、

バリバリ働きます系ともいえない。

昨日もボランティア仲間でカラオケに行って、

人一倍楽しそうに歌っていた。

「雨かよ、だりぃなあ」という、

彼の声が聞こえた気がした。


職員は、梶山さんの他に渡辺さんという男の人がいて、

力仕事や大工仕事を一気に引き受けている。

と言っても、定年すぎて久しいという年齢だから、

僕たちボランティアを何かとあてにしている。

あまり喋らないけれど、気難しいのではなく、

ずっと仕事人間やってきました!というタイプだ。

木場はうっとおしがるが、僕は嫌いではない。


もうひとりは香田さんという30代ぐらいの女の人だ。

化粧気はなく、地味すぎる格好で、

いつも疲れた感じなのに、それでも底力のようなものは

感じさせる不思議なオトナだと僕は思っていた。


香田さんは、僕の通う大学の先輩らしく、

僕たちは香田さんの紹介で、この作業所で働いている。

大学ではボランティア活動が必修で、みんなどこかで

働いている。

保育園や老人ホームが人気だが、

僕は障害者支援センターを選んだ。

年の離れた弟が障害を持っているからかもしれない。


大人の障害者とはほとんど触れあったことがなかったので、

最初はかなり戸惑った。

そろそろ半年が過ぎようとしている今でも、

うまく接することが出来ているのか、

自分でもよくわからない。


別棟でやっているパン作りで

怪我人が出たらしい。

パンを切る機械で指を落としてしまったのだと、

梶山さんがオロオロしていた。

救急車が来て職員が数人同乗していったので、

梶山さんと渡辺さんが、作業所の方に

応援に行くことになった。

代わりに予定より早い時間に、

愛ちゃんが喫茶の方にまわってきた。

事故を見て、動揺してしまったようで、

こっちへ来た方がいいと判断されたのだ。


「今日はきっとお客さん来ないと思うから、大丈夫よね」

開店準備がほぼ整った時点で香田さんが言い出した。

警察にも行かなければいけなくなったらしい。

香田さんは、この作業所全体の責任者なのだ。


僕と愛ちゃんは、「ひまわり」の中で

二人っきりになってしまった。


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