第八話 ナルシスト軍師と筋脳将軍
第八話 ナルシスト軍師と筋脳将軍
どうも、富野 颯天改めマーレ・ビアンコ・エロエ・ソーマ。もしくはウニベロソ・パラレーロ・ソーマです。…正直両方とも半分位の長さでいいんじゃないかと思います。セバスさん曰く、役職や位等を表すことが多いため結構長い苗字が多いらしいです。
現在、俺達はプローヴァがあった部屋から別の部屋へと移動している。色々と問題がありすぎて、とりあえず今後の方針を話し合うために俺が人間だと言うことを知っている人物全員で話し合うのだとか。ちなみに俺が人間だと知っているのは、リターニャとセバスさん、カーメルさんと今向かっている部屋にいるこの国の軍師と一番位の高い将軍の5人だけで、異世界から来たと言うことはリターニャとセバスさん、カーメルさんの3人しか知らないのだとか。完全に国の上位だけのトップシークレットって感じだな。まぁ、それもそうか。魔王女の婿が人間ってだけでも問題なのに、魔法が使えないわ異世界から来てるわ、本来敵である『勇者』の苗字を持っているわ問題だらけだもんな。リターニャがああなるのもわかるよ。
リターニャは今、服の襟を捕まれキャリーバックのようにセバスさんに引きずられて俺とカーメルさんの前を進んでいた。色々と問題が増えて、セバスさんが一度会議をしようと話したときに、サボりぐせに定評のあるリターニャが「もうお家帰る」と自室へ逃亡しようとしたのでセバスさんが捕縛の上説教して、不貞腐れたリターニャを引っ張って今に至ると言う感じである。カーメルさん曰くいつものことなので気にしなくていいらしい…いつもこんな感じとか、本当にセバスさんは苦労してるんだろうなぁ…。
そんなことを思いながらセバスさんをみていると、隣いるカーメルさんが声をかけてきた。
「どうかなさいましたか?ソーマ様」
「いや、いつもああだとセバスさんも大変だなぁと思って」
「確かにそうですね。でも、リターニャ様にあそこまで出来るのはセバスさんだけですから、普段、めんどくさがりのリターニャ様でもセバスさん言うことは聞くので、セバスさんの今の仕事はほとんどはああいったことばかりです」
ほとんどがこんな事とか…他の仕事もあるだろうに。そりゃ、こんな強行手段もとるよね。ガンバレセバスさん!負けるなセバスさん!リターニャが真面目になるその日まで!
「あ、そういえば、これから会う軍師さんと将軍さんってどんな人なんでs…どんな人なんだ?」
危うく敬語で話しそうになり、慌てて言い直す。カーメルさんは一瞬咎めるような顔になったがはぁとため息をつき、元の無表情に戻った。
「…言葉使いはおいおい慣れてください。そうですね…オニマル様もトレム様も"少々"癖のありますがとても優秀な方々です」
"少々"が変に強調されていた気がするが本当に少々なんだろうか…嫌な予感しかしないぞ。
それにしても、鬼丸だなんていきなり日本ぽい名前が出てきたな。
「鬼丸ってことはもしかして角や牙が生えてたり、身体が赤かったり大きかったりマッチョだったりする?」
カーメルさんに聞いてみると無表情な顔がほんの少し驚いた顔をした。
「よくおわかりになりましたね。確かに立派な角や牙が生え、身長は3mほどでしょうか?身体は筋肉の鎧で守られており、自ら前線へでて指揮とる頼もしい将軍です。ちなみに身体の色は青です」
どうやら鬼丸さんは赤鬼ではなく、青鬼らしい。
「でも、どうしておわかりになられたのですか?」
「うん?ああ、俺がもといた世界に鬼って妖怪がいてね。その特徴をいっただけだよ」
「妖怪…とはなんでしょうか?」
こてっと首をかしげながら質問をしてくるカーメルさんの可愛さにダメージをくらいながら答えた。
「伝承などで出てくる人間ではない何かで、恐れられたり崇拝されたりしているものなんだ。こっちの世界で言う魔族と同じ感じかな?」
「なるほど。でも、どうしてオニマル様はソーマ様の元の世界のオニと酷似し、名前にもオニが入っているのでしょうか?」
たしかにそうだよな。でも、今までの流れ的に初代魔王女様が関わってる気しかしないけどね!そしてこの予想はやはり正しかった。
「それは、オニマル様の種族、デモーネ族の当時の族長の息子二人に、初代魔王女様が紅鬼と蒼鬼という名前をつけられたことが由来で、それを名誉に感じたデモーネ族は以降、名前に『オニ』または『キ』を入れることが主流になったようです。それと、初代魔王女様は『ぱられるわーるど』を提唱された御方です。何らかの形でソーマ様の元いた世界を観測する術を持っていて、デモーネ族に容姿の似ている鬼の名前を贈ったのかも知れませんね」
『ベニオニ』に『ソウキ』ね。なんとも厨二溢れる格好いいネーミングだな。でも、このネーミングセンスといい、鬼を知っている事といいますます初代魔王女様は俺と同じ境遇だった可能性が高いな。もしそうならどうやってこの境遇を乗り越えたか聞きたいよ…。
それにしてもリターニャを引っ張り、何事もないように進みながら淡々と説明してくれるセバスさんがなんともシュールだな。そんな俺の考えを察したのか、カーメルさんは「いつものことです」とか言ってるし。ほんとリターニャには苦労させれてるんだな。リターニャが拗ねてしまう原因になった俺としては、セバスさんにものすごく申し訳ないよ。
「カーメルさん。軍師さんの方はどういう人なの?」
カーメルさんをさん付けで呼んだことに少し失敗したかなと思ったが、どうやら今回はスルーしてくれるらしい。
「トレム様は長身細身で顔立ちがよく、女性にも優しいので城内のメイド達だけではなく、国内の女性に人気のある方ですね」
けっ、イケメンかよ。
「ただ、性格に少々問題があるというか…あまりにも自分が好きすぎるきらいが…」
しかもナルシストか…程度によっては許容できるだろうけど、どの程度なんだろうか?本当に"少々"ならいいのだけど。
そんなことを話していると、廊下の突き当たりに、大きな両開きの扉が見えてきた。扉は天井と同じくらいの高さがあるから5~6mはありそうな大きな扉だった。
「…でかいな」
ボソッと漏れた言葉が聞こえたのか、カーメルさんが大きい理由を説明してくれた。
「あそこはこの国の幹部の皆様が会議をなさる場所なので大きな扉がつけられています。幹部の中にはオニマル様のように3m以上ある方もおられますので」
あ、そういえばネーヤさんに似たような事聞いたっけな。色々ありすぎて忘れてたよ。
大きな扉の前につくとセバスさんが扉をノックした。するとそれが合図だったかのように大きな扉が両方とも開かれていった。さすが魔法がある世界。こんな重厚な扉もノックひとつで自動ドアなんてすごいね。
「オニマル様、トレム様。御嬢様、ソーマ様をお連れいたしました」
セバスさんは、リターニャを引きずったまま部屋へと入っていった。俺とカーメルさんもそのあとに続いた。
部屋の中は、プローヴァがあった部屋と同じように扉から奥へと細長く続く部屋だったがプローヴァのあった部屋の10倍はあるのではないかと思うくらい広く、周りの壁や調度品は俺の目からもわかる位に豪華なものだった。さらにこの部屋の中央には細長い大きなテーブルが置かれていた。なんか漫画とかで見る貴族が使ってそうな長テーブルだな。そんな長テーブルには服の上からでもわかるくらいムキムキで青い皮膚をした大男と大男よりも小さいが細身で長身の男がテーブルを挟んで座っていた。
「がっはっはっ!お姫様はまたいつものかい?相変わらずセバスも大変だな!」
揉み上げと繋がった立派な白い顎髭をもつ青鬼、オニマルさんが笑いながら話しかけてきた。てか、いつものって幹部の前でもこんな感じなのね。
「はぁ、オニマルさん?魔王女陛下にお姫様はないでしょう。ちゃんと敬意を払った呼び方ではなくては。魔王女陛下もちゃんと注意なさってください」
今、オニマルさんとリターニャを怒った長身細身な黒髪のロングヘヤーをもつ、俺の目から見ても明らかなイケメンなのがたぶんトレムさんだと思う。見た目はいたって普通の人間だけど、背中から蝙蝠のような翼と絵に書いたような悪魔の尻尾といった感じのものが生えていた。
「めんどくさいからどうでもいい。お家帰りたい」
「なっ!?」
「この状態のお姫様になにいっても無駄だ。トレム」
注意されたリターニャは一番奥に2席ある他の椅子よりも豪華な椅子に向かってセバスに引きずられながら、ここに来るまでと同じようなことをいった。トレムさんは少し怒った様子でリターニャに向かって何かいっているが、当のリターニャは完全無視である。トレムさんの横ではオニマルさんが「だからか無駄だといっておろう」とガハガハ笑っていた。…なにこのカオス。俺は助けを求めるように隣に立っているカーメルさんを見ると「いつものことです」と流された。なんかもう皆慣れっこって感じなんだね…。
俺が圧倒されている間にセバスさんはリターニャを奥の椅子まで引きずり、両脇を抱えるように持ち上げると椅子に座らせた。椅子に座ってもなお、やる気のないリターニャは今にも椅子からずり落ちそうな体勢で座っている。
「御嬢様、しゃんとしてください。これから、先程の報告とこれからの方針について話し合わなければならないのですよ」
セバスさんが軽く注意するが全く聴いていない。
「…そうですか。ならば、休日やバカンスはなs…」
「貴方達何をしているの?早く会議を始めるわよ?」
先程までダラーんと座っていた体勢とうって変わり、王者の風格を漂わせるような威厳のある座り方に早変わりした。どうやら、怠け者の王女様には休日をなくすという脅し文句が大いに有効らしい。
「お姫様は相変わらず変わり身が早いな」
「うるさいわよ、オニマル。ソーマも早くこっちへ来なさいよ。会議が始められないじゃない」
隣の席を叩きながらリターニャが呼んでいる。俺がためらったいると、カーメルさんが声をかけてきた。
「ソーマ様は『魔王』なのですから、ためらう必要はありません」
そう言われても、少し前までただの一般市民だった俺としてはあんな豪華な椅子に座るのは抵抗があるんだよなぁ。まぁ、いつまでもグダグダしていても仕方ないので、椅子に向かって歩き出した。
椅子に向かうまでの間、オニマルさんとトレムさん二人からの視線が気になりつつも、なんとか椅子までたどり着いた。
「その方がそうなのですか?」
「そうです、トレム様。この方が御嬢様に召喚された婿であり魔王である、ソーマ様です」
セバスさんに紹介された俺は、二人に向かって軽く頭を下げた。
「ふん。軟弱そうな魔王様だな」
「オニマルさん、魔王陛下に向かって失礼ですよ。誰しもが貴方のようにムキムキの筋脳バカではないのですから」
「なんだと!?貴様こそヒョロヒョロで頭でっかちのナルシスト野郎だろうが!」
「美しいものを美しいと思って何が悪いのです!?貴方のような美の心得のない筋脳さんにはわからないのですよ!」
トレムさんがバカにした表情でオニマルさんを挑発し、その挑発に乗ったオニマルさんが立ち上がり、トレムさんを罵倒しそしてまた…のようにお互いがお互いを罵り始めた。その内容とは小学生の喧嘩のようなもので、「毎日筋トレばかりしてるから脳まで筋肉になったんじゃないか」とか「お前こそ毎日、自分の姿を鏡で見てうっとりしてて気持ち悪い」だとか、まぁなんとも言えないことばかりだった。
ただひとつ言えることがあるとすれば、こんな子供の喧嘩をするような二人が将軍と軍師をしていてこの国は大丈夫なのだろうか。魔王になることがほぼ決まっている俺としては不安でしかたなかった。