第五話 魔王の紋章
第五話 魔王の紋章
「申し訳ございませんでした!」
今、俺は全力でリターニャに土下座していた。この世界にも日本と同じ土下座文化があったのは驚きだ。あとからセバスさんに聞いた話によるとこれも初代魔王女さんがうみだしたものとか。やっぱり初代魔王女さんも俺と同じく異世界から来たんじゃないか?
…かなり話がそれたけど、どうして俺が土下座しているのかというと、巨乳以外お断り宣言をしたあとにリターニャに手当たり次第にものを投げつけられたからだ。いや、正確に言うと魔力によって超加速したオブジェやペン先の尖った万年筆、更にはペーパーナイフ等々が俺目掛けて誘導弾の如く追い掛けてきたってのが正しいが…。リターニャに「手加減してあげたのにだらしないわね」と満面の笑みで言われたけど、途中本気で死ぬかと思ったからね!絶対途中から楽しんでたよ…。
まぁ、そんなこんなでこの世界の誠意を表すポーズ(土下座)を教えられ今に至ると。
「あんな脂肪の塊のどこがいいのかしら」
「あの豊かな双璧の美しさがわからないのか!?あの見るものを幸せにするフォルム、あの慈愛に溢れる柔らかさ!あれほど美しいものは…ゴフッ!」
「ソーマ?」
「申し訳ございませんでした!」
俺が抵抗できないからって魔法使って遠距離攻撃ばっかりしやがって!卑怯だ!いや、かといって近距離なら勝てるかって言われたら絶対無理だけど。
「はぁ…なんでこんな変態が私の婿なのかしら」
「てか、なんで俺が婿なんだよ!嫌なら俺以外でもいいだろ!?」
俺がそう言うとリターニャは怠そうに答えた。
「そういえば説明してなかったわね。なにから説明しようかしら。そうね…まずはマーレ族の事かしらね。『私達』マーレ族は古から魔族の王として君臨しているわ。これは初代魔王…つまり私のご先祖様がバラバラだった魔族の各部族をまとめあげたのが始まりね。その魔族の王となった初代魔王はある時、妃を探し始めたのだけど初代魔王が持つ強大な魔力のせいでなかなか相手が見つからなかったの」
「はい!リターニャ先生!質問いいですか?」
正座したまま手をあげて元気よくたずねるとリターニャはため息をつきながら答えた。
「…いちいちめんどくさいわね。なによ」
「どうしてまりょくがつよいとみつからなかったんです…ぐふっ!?」
調子にのって小学生っぽく話したらリターニャ先生の逆鱗に触れてしまったらしい。今度は壁にかかっていた絵が飛んできた。痛がる俺を尻目に何事もなかったようにリターニャ先生は答え始めた。
「私達魔族は他の生き物と違い交尾では子孫を残さないからよ」
交尾ってなんか生々しくないですかね、先生…。でも、どうやって子孫を残すんだろ?
「魔族はね、男女の魔力を合わせて子孫を残すの。これは、お互いに同程度の強さの魔力を合わせなければ成功しないわ。だから、普通は魔力の強い方が手加減して弱い方にあわせるの。あと、強い魔力同士を合わせたほうが、魔力や身体能力の高い子供ができるとされているわ」
「なるほどねぇ。でも、手加減して出来るんなら、別に魔力が強くても妃が見つからないなんてことはないんじゃない?」
そう言うとリターニャはやれやれといった感じでため息をつきながら首をふった。
「初代魔王は魔族をまとめ続けるために、強い子孫を残そうとしたのよ。この頃には小規模だけど人間との争いがもう起こっていたの。でも、初代魔王はこの争いが小規模なままで終わると思ってなかったみたいなの。だから、もし自分が死んだら今は魔王の名の元で纏まっているけど、また魔族がバラバラになるかもしれない。そうなると、魔族の魔力や身体能力は人間に比べて高いけど、数は人間に比べて圧倒的に少ないわ。バラバラに戦ったら物量で各個撃破されてしまうと考えたみたい。だから、自分の魔力と同等の力を持つ妃を探して強い子孫を残し魔族を纏め続けようとしたけど、肝心の妃が見つからなかったって訳よ」
「色々理由はわかったけど、それと俺が婿にならなきゃならない理由がどう関係あるんだ?」
「それはこれから説明するわよ。それよりも、そこで正座して座っているのはしんどいでしょ?これに座りなさい」
そう言うとリターニャは視線を部屋にある来客用の椅子に移すとゆっくりと椅子が浮かび上がり俺の目の前まで進むと床にそっと置かれた。ほんとに魔法って便利だよなぁ。冬に炬燵から出たくないときなんかにものすごく役に立ちそうだ。
「珍しく優しいな」
そう言って立とうとすると目の前にあった椅子が急に俺に目掛けて突進してきた。コツンという音をたて、背もたれが俺の額を強打した。
「私はいつも優しいわよ!」
優しいやつが椅子で人の顔面を強打するか?と思いつつ、俺は額をさすりながら椅子に座った。
「じゃあ、続きを説明するわね。結局、初代魔王は何百年も妃を見つけられなかったの。そこで初代魔王は考えたわ。このままだと一生見つからないのではないかと。そんなことを悩んでいるうちにひとつの事を閃いたの。見つからないのなら自分で産み出してしまえばいいのではないかと。それから初代魔王は数百年間もの間研究を重ね、自分と同じ魔力の強さを誇り、尚且つ異性を産み出せる術式を編み出したの。これをマーレ・ナシタといって、ソーマと私が初めて出会ったときにしていた術式よ」
なるほど。あのときにみた魔方陣はそのマーレ・ナシタってやつの魔方陣だったのかな?…うん?待てよ…つまり、リターニャがマーレ・ナシタをしてるときに俺が現れたんだよな。てことは……
「その通りよ。貴方は私に召喚された婿ってわけ」
よっぽど顔に出ていたのか、俺が話す前にリターニャが先に答えた。
「いや、だけどそれだけじゃまだ俺が召喚されたと決まった訳じゃ…!」
「ならこれを見て」
リターニャは椅子から立つと机の前まで出てきた。ずっと座っていたので見えなかったが、黒いロングスカートをはいていた。なかなか似合ってるなぁと思っていると、突然リターニャが自分の服をめくり始めた。
「ちょっ!?リターニャ!?」
俺は慌てて上半身を捻って横を向いた。女の子の肌をみれるなんてなかなかない機会だけど、ツルペタ少女のみても仕方ないしな!これがもしネーヤさんがしてたならガン見してたと思う。
「別に照れることないじゃない。胸までめくって見せてるわけじゃないんだから」
「いや、ツルペt…っと!あぶねぇな!」
俺がすべてを言い切る前に顔に目掛けて、今日何回も食らっているオブジェが飛ばされてきた。椅子から転げ落ちる事でギリギリ避けたが、椅子の後ろに着地したオブジェが床を粉々に砕いていた………この威力のものを頭にって殺す気満々ですよね!?リターニャさん!?
「ソーマが余計なことばかりいうからよ!この変態!」
ただ、自分の気持ちを素直に表現してるだけなんだけどなぁ…。
「…まぁ、いいわ。それよりもこれをみて」
「だから、つる…」
「ソーマ?」
「はい、慎んで拝見させていただきます」
「よろしい」
椅子に座り直し、見る体制に入った俺を満足そうに見たリターニャは服をめくりあげた。
めくりあげた服の下から現れた肌は白く透き通るようで美しく、お腹もうっすらと縦に腹筋が割れていてまるで元の世界でみたモデルのようだった。あぁ…これでお胸様が立派だったら完璧なのになぁ…。
「へ、変にじろじろ見ないでよ。ほ、ほら、おへその横に紫の紋章があるでしょ?」
確かにへその横に一円玉ぐらいの小さな模様があった。その模様は中心に小さな円があり、周りに6枚の悪魔の翼が生えているような形をしていた。
「これはね、成人の儀をすると現れる紋章で俗に魔王の紋章と言われているわ。これは無事に成人の儀、つまりマーレ・ナシタに成功した証であり、魔王、魔王女の証、夫婦の証でもあるの。夫婦の証でもあるこの紋章は術式を発動したものだけではなく、当然召喚されたものにも現れるわ。…セバス」
「はい、御嬢様」
声をかけられたセバスに目をやるといつの間に持ってきたのか二枚の鏡を持っていた。セバスは二枚の鏡に魔力を這わせ、俺の方にへとそっと放す。鏡は漂うように俺の方にへと流れ、一枚は俺の後ろに、もう一枚は俺の顔の前で停まりちょうど合わせ鏡のようになっていた。
「ソーマ様、左側のうなじをご覧ください」
俺は後ろ髪を軽くよけ、合わせ鏡で自分のうなじを見た。そこにはリターニャのお腹にあった紋章と瓜二つのものがあった。
「その紋章があるってことはつまりそういうことなのよ」
「まじかよ…」
俺は椅子から転げ落ち、『orz』のポーズをとった。なんだってツルペタとお揃いの紋章をつけなきゃなんないんだよ!しかも夫婦の証だって!?冗談は胸の小ささだけにしろよ!お腹は確かに見とれるほど綺麗なものだったけどよ、お胸様がなけりゃぁ意味がないんだよ!
俺が頭を抱えてうなだれていると、後ろの扉がノックされた。
「リターニャ様、プローヴァの用意ができました」
扉の向こうから女性の声が聞こえてきた。
「わかったわ。すぐにいくから先にいっておいて」
「かしこまりました」
椅子から立ったリターニャは、これまたセバスが何処からか取り出したフード付きの真っ黒なローブを羽織ると俺の方へと歩いてきた。
「さて、いくわよソーマ」
「いくって何処に?」
俺は『orz』状態から顔だけあげて前にたたずむリターニャを見上げた。リターニャが俺の顔を見てにっこりと笑うとこう告げた。
「あなたに天から授けられた名前をつけるのよ」
よければ、感想などよろしくお願いします。