第四話 巨乳以外はお断り
第四話 巨乳以外はお断り
「天井高いなぁ…」
俺はネーヤさんにつれられリターニャが待つ執務室へと向かっていた。
「リターニャ様の部下や幹部の方々の中には、3mを越える方もいらっしゃるのでマーレパラッゾの天井は高くなっています」
「…3m越えって」
完全に人間じゃないよなと思いながら豪華な廊下を見渡す。
このマーレパラッゾは魔族の国『マーレーニョ』を象徴する王宮らしいく、初代魔王が建てたのだとか。俺は執務室に向かうまで無言なのも居心地が悪かったのでこの世界の一般常識やこの王宮のことを簡単に教えてもらっていた。例えば、この世界の魔族と人間は遥か昔から対立しているらしくずっと戦争してるとか、現魔王女リターニャが初めて魔族・人間間の休戦を取り付けたとか。
そうそう、俺が今身に付けている黒いシャツやズボン、首飾りは魔道具らしい。首飾りは寝ている間にセバスさんがつけにきたとネーヤさんがいっていた。ちなみに全てリターニャが作ってくれたらしい。半殺しにされそうになったり、俺のために色々作ってくれたりと一体何がしたいんだ?あのツルペタは。あっ、ちなみにリターニャが呼び捨てでネーヤさんに敬称がついてるのは、ネーヤさんには親切にしてもらっていて、リターニャに半殺しにされたからであって、決して、ネーヤさんの双璧が大きいからではないことをあえてここで述べておく。決して巨大なお胸様だからではない。断じてない。
そんなことを考えていると、ひとつの扉の前でお胸さm…ネーヤさんが立ち止まり扉をノックした。
「ネーヤです。ソーマ様をお連れいたしました」
どうやらここがツルペt…リターニャの待つ執務室らしい。ここまで来たが、まだどうしてもリターニャに会いたくないという想いが強かった。半殺しにされかけたのだから仕方ないと思う。しかし、ネーヤさんから聞いた簡単な話だけでもここが自分のいた世界とは違う世界と言うことはほぼ確定なのだ。なら、詳しい話をしてくれるリターニャに会って色々情報を得る事が得策だということは明らかだった。なら、腹をくくるしかないだろう。幸い、ネーヤさんもついてきてくれるみたいだし。ネーヤさんは俺の専属メイド兼護衛らしいので守ってもらおう。…なんだろう、なんかすごく情けない気が…。
「…入りなさい」
ネーヤさんが声をかけて少し経ってから向こうから声がかけられた。
扉を開けて中へ入るネーヤさんのあとに続いて俺も中に入る。中に入るとそこは廊下よりもワンランクもツーランクも上の装飾品やテーブル、椅子が置かれていた。壁や床の素材もかなりのもだろうというのは素人目でも十分にわかった。そんな豪華な部屋の奥に大きな机の向こうにリターニャが座っていた。横にはセバスさんもいる。リターニャは初めて会ったときとは違って肩に軽く飾りのある黒い薄めの服を着ていた。
「ありがとう、ネーヤ。ソーマとの話は長くなると思うし、下がっていいわよ」
「わかりました」
ネーヤさんはリターニャにお辞儀すると部屋を出ようとする。ね、ネーヤさん!俺を独りにしないで!そんな心の声が表情に出ていたのか、俺の顔をみて少し困ったようにネーヤさんは微笑んだ。
「申し訳ございません、ソーマ様。私はソーマ様専属のメイド兼護衛ですが正式にはソーマ様が『即位』なされてからの配属となります。それまでに片付けなければならない仕事もありますし、それにリターニャ様の命令ですから」
そう言うと、ネーヤさんは俺にもお辞儀をして扉から出ていった。あぁ、せっかく守ったもらおうと思ってたのに。リターニャにまた痛め付けられたらネーヤさんのお胸さまで癒してもらおうと思ってたのに!
名残惜しそうに扉を見つめていると、リターニャがボソッと声を漏らした。
「…変態」
何故、リターニャにはないお胸様のことを考えていた事がばれたんだろうか。少し驚いた顔をして振り向くとリターニャがため息をついた。
「ネーヤがお辞儀したり、歩く度にチラチラと胸を見ていたら誰でもわかるわよ。ねぇ、セバス」
「はい。ソーマ様はこの部屋に入られてから少なくとも3回は見ていらっしゃいました」
そ、そんなに分かりやすかったのか…ばれないように一瞬だけ見てたつもりだったんだけどな。もしかして、ネーヤさんにもばれてたのかな?…お胸様に嫌われるのは嫌だな。そんなことを考えているとまたリターニャにため息をつかれた。
「こんなやつに腹をたてていたのがバカらしくなったわ…まぁ、いいわ。ソーマ…貴方には色々と聞きたいことがあるの」
先程までとは違い、リターニャの顔が真剣なものへと変わった。
「貴方は『人間』なのかしら?」
やっぱりそう来たか。ネーヤさんに『人間』と戦争していたと聞いた時点でこういう質問がくるんじゃないかと思っていた。初めは嘘をつこうかと思ったけど、ネーヤさんいわく休戦状態らしいので、殺されることはないだろうと包み隠さずに話すことにした。
「『ここ』に来るまでに変わってなければそうだ…と思います」
半殺しにされかけた相手にタメで喋るのは不味いかと思い慌てて敬語を付け足した。気持ち的には敬語なんてツルペターニャに使いたくないのだが、機嫌を損ねて聞きたいことを聞けなかったり、また半殺しにはされたくないからね。
「別に無理して敬語を使わなくてもいいわよ。どうせもうすぐ対等な関係になるんだし。それよりも、変わってなければってどういことなのかしら?」
対等な関係ね…。王女様と対等って王様とかしか思い浮かばないんだけど、まさか結婚しろだなんて言わないよね!?ツルペタはいやだよ!ネーヤさんほどなくてもいいけどリターニャレベルはやだ!
「ソーマ?」
「あ、いや。なんでもないでs…なんでもないよ。えっと、どう説明すればいいかな…。簡単に言うと別の世界から来た…というより気づいたらこの世界にいたから気を失っている間に何も変わってなければってことかな?」
包み隠さす話したけど、やっぱりそんな顔になるよね、リターニャさん。頼むから頭がおかしいやつを見るような目で見ないでください。俺の心がもたないから。
「別の世界ってなんなのよ。意味がわからないわ。…もしかして少し痛めつけすぎたかしら?頭がおかしくなってしまったのね…」
やっぱりそう思うよね。というか、もしかしてこの世界には他の世界、異世界やパラレルワールドといった概念がないのか?そうなると説明してもわかってもらえないよな。
リターニャが可哀想なやつを見る目で見てくるので視線をはずし、セバスさんに視線を送ってみたんだけど、なんだか顎に手を当てて難しい顔してる。物凄くダンディーでこれほどこのポーズが似合う人はいないだろうな、と思っているとセバスさんはハッとした表情になり俺のことをみた。
「ひょっとして『ぱられるわーるど』から来たということでございますか?」
変に片言なところが気になったけど、どうやらセバスさんが理解してくれたみたいだよ!どうやら概念がないんじゃなくて、リターニャがバカなだけだったみたいだ。ツルペタでバカとかもう…ね。
「ソーマ、失礼なこと思ってないかしら?」
「い、いえ。な、何も思ってないですよ?」
やべぇ、何故かバレたよ。リターニャは心がよめるのか?魔法ってなんでもできるんだなと感心したけど、リターニャが言うにはどうやら違ったらしい。
「それだけバカにしたような顔をしていればわかるわよ…それよりセバス。その『ぱらなんとか』ってなんなのよ」
「『ぱられるわーるど』です。正しい発音はわかりませんが、これは初代魔王女様が提唱なされた概念です。私達がいるこの世界と似た世界または異なった世界が平行して存在しているという概念らしいです。私達には観測不可能らしく実在するかわからないため、研究する者が少なくいつの間にかこの概念事態が廃れてしまったようです。詳しくお知りになりたいのでしたら、図書館に初代魔王女様が御書きになられたものや古の研究者による論文などがありますがお読みになr…」
「めんどくさいわ」
「…御嬢様。またセバスに説教させたいのですか?」
どうやら、初代魔王女って人が提唱したらしい。頭のいい人だったんだろうか?もしくは俺と同じような境遇だったりして…完全にフラグ立てたな、俺。
それより、リターニャがセバスさんにめっちゃ怒られてるよ。どうやら、リターニャは普段から怠け者らしい。セバスさんが「いつもめんどくさいばかり」とか「職務をほっぽりだして寝る」とか「24時間見張らなければならない」とか「先代に託されたのにリターニャが怠け者になってしまって申し訳ない」などなど。…セバスさん、かなり苦労してるんだな。
セバスさんに怒られている間、リターニャは借りてきた猫みたいにしゅんとしていた。いつも迷惑かけているって自覚があるみたいだ。
「せ、セバス。1時間働いて2時間休憩を30分休憩に変えるから許してよ!」
…リターニャさん?それでも、十分に多いと思いますよ?
「御嬢様が休憩を30分に…漸く私の想いが伝わったのですね。このセバス、心を鬼にした甲斐がありました!」
セバスさんが心なしか涙ぐんでいる。たった休憩を30分にしただけで涙ぐませるとか、リターニャは普段からかなり酷い怠け者なんだな。
セバスさんに同情の視線を送っていると、恥ずかしいところを見られたと思ったのか、軽く咳払いをして俺の方を向く。
「失礼しました。では、ソーマ様はその『ぱられるわーるど』から来たということでよいのでしょうか?」
俺が頷いて肯定すると、セバスさんはまた顎に手を当てて難しい顔を始めた。
やっぱりこのポーズ、セバスさんにすごく似合うなぁ。あんな風に俺も歳をとりたいよ。
そんなことを考えていると、リターニャはセバスさんの説教のダメージから回復したらしく、もとの表情に戻っていた。
「なんとなくわかったわ。で、そのぱらなんとかってとこから来たときに身体になにか変化が起こってなければ人間ってことね」
本当にわかってくれたのか心配だけど一応は理解してくれたらしい。
「じゃあ、ソーマはどうやって来たのかしら?帰ることもできるの?」
俺は、初めてリターニャ達に会うまでのことを説明した。
「なるほど。用はよくわからないってことね」
「簡単に言うとそうなるかな」
リターニャはそう言うと怠そうに背もたれにもたれ掛かった。
「だいたいわかったわ。…でも、他の者にはぱらなんとかや人間だってことは伏せておいて。私の『婿』がぱらなんとかから来たとか、人間だってことが知られると国民や部下にいらない混乱を招くから」
「パラレルワールドな」
「うるさいわね!わかってるわよ!」
パラレルワールドのことを指摘すると恥ずかしそうにリターニャは顔を赤くしながら頬を膨らました。こういう表情だとやっぱり中学生位にしか見えない。でも、ちゃんと国のことを考えていて、立派に女王様してるんだな。確かに人間とは休戦状態とはいえ、敵である人間が女王の『婿』でそれも異世界から来たやつなんていったら混乱するよ……な……………うん?あれぇ?なんかおかしいなぁ?
「なぁ、リターニャ」
「…なによ」
「婿ってさぁ…まさか俺のこと?」
さっきまでの拗ねたような表情から何をいってるだと言わんばかりの顔でリターニャが俺を見る。
「他に誰がいるのよ。バカじゃn…」
「巨乳以外はお断りします」
俺は素早くパッと頭を下げ丁重にお断りした。だってロリコンじゃないし、なによりツルペタはダメだ。結婚するなら豊かな双璧とって決めてるからね!
「…ソーマ?覚悟はいい?」
嫌なものを感じ頭をあげると、リターニャの前に浮いたオブジェや文房具等が俺に向かって飛んでくるところだった…。